2023年02月27日 10:31 弁護士ドットコム
「じゃらん」や「楽天トラベル」など旅館予約サイトや、検索サイトの口コミは、消費者にとっては旅館選びの参考になる一方、旅館側は匿名の悪意ある口コミで旅館の評判を下げるリスクもある。
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ある有名温泉地の旅館はこの冬、宿泊客から悪意ある口コミを書かれた。この旅館の経営者に口コミ評価に感じる理不尽さや、旅行予約サイトに集客を頼らざるを得ない背景について聞いた。(ライター・国分瑠衣子)
「部屋は本当に監獄と同じです(中略)不満だけです」。この口コミが書かれた旅館は、外国人観光客からも人気の温泉地にある。今年の正月に泊まった客がグーグルのレビュー欄に「監獄のようです」と書き、客室やサービスに最低評価の「1」をつけた。
経営する山崎雄太さん(仮名)は「宿泊プランや人数から書いたお客さんはおおよそ特定できています。朝食の内容について不満を書かれていましたが、朝食も全部食べて行ったんですが…」と話す。泊まっている時も特にクレームなどのトラブルはなく、チェックアウトの時もごく普通だったという。
だが、後日投稿された厳しい評価に、山崎さんは怒りというより呆れに近い感情がわいた。「サイトや写真を見て自分で選んだ宿なのに『監獄』はないのではと思いました」と振り返る。反論したかったが、どう書けばよいか思いつかず、返信しなかった。
山崎さんが経営する宿は、観光名所や飲食店街に近い便利な場所にあり、朝食付きで1泊1万円ほどと比較的リーズナブルな宿だ。築年数や設備は古いが、泉質が自慢の「味のある旅館」として売っている。リピーターは昭和の香りがする温泉宿の雰囲気が気に入って訪れる人が大半だ。
昔は宿の改善につながればと思い、毎日のように口コミをチェックしていた。宿の落ち度を指摘する口コミがあればあらためるようにしてきた。ただ、落ち度のない口コミを書かれても改善のしようもないし、多くの人の目に触れることで宿の評判を落としてしまう。「スマホの充電器すらない」などの理由で低評価をつける人もいる。宿側は実名で非難にさらされ、口コミの投稿者は匿名であることにも不公平さを感じている。
「その場で言ってくれれば直せることを黙っていて、後から口コミに書かれると、そんなに怒っていたのかと驚くこともあります」(山崎さん)
口コミの文面からどうおとしめてやろうか、という憎悪を感じる時もある。一方的に非難される口コミを目にすると精神的に落ち込むので、今は時々しか見ていない。宿によっては口コミに対して返信するところもあるが、山崎さんは返していない。
口コミを投稿する人だけではなく、運営会社にも不信感はある。ある時、外資系企業が運営する予約サイトの口コミ内容が、事実と違うため削除を依頼した。しかし、返信はなくコメントが削除されることはなかった。「実名と匿名の不公平感もありますが、サイトの運営側が過剰な口コミをケアしないことも問題だと感じています」
だが、宿にとって旅館予約サイトの利用はやめたくてもやめられない理由がある。
最も大きいのは集客の問題だ。自社のサイトを作っても検索サイトで上位に上がらず、自社サイトからの集客は難しい。旅館によっては予約するのに会員登録が必要な宿もある。一方、旅館予約サイトだと認知度が高く、予約手続きもスムーズだ。
旅館側はプラットフォームに手数料を支払う仕組みで、自社サイトよりも手数料は高い。だが、集客力を考えると手数料が高くても旅館予約サイトを使わざるを得ない。
また山崎さんによると、予約プラットフォームで低評価がつくと掲載ページが後のほうになり、客の目に止まりにくくなってしまうという。一定期間予約サイトを利用しなくても掲載順位が下がる。「うちはスポーツ合宿の受け入れのために予約サイトを使わない時期があります。そうすると掲載順位が下がり、集客に響くんです」(山崎さん)
口コミに振り回される一方で、山崎さんは口コミのメリットも感じ始めている。今年の正月にグーグルの口コミを見て、旅館のサイトで宿泊予約した外国人客がいたからだ。これまであまりなかったことで、グーグル経由の流入が増えれば、手数料の安い自社サイトからの宿泊予約も期待できる。
匿名の悪意のある口コミには悩まされているし、違和感を持っている。でも旅館予約のプラットフォームを無視することはできないのが実際のところだ。旅館業に携わる人たち だけではなく、飲食店や美容室など多くの業界が口コミに振り回されているように見える。
山崎さんは「本当は点数なんてつけられたくないんですけどね。大人になってもずっと通知表をつけられ続けている感覚ですよ」とぼやいた。