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【2023年WRCをゼロから学ぶ】新規定2年目で体制もクルマも進化。トヨタでは勝田貴元がワークス加入

2023年02月25日 14:00  AUTOSPORT web

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WRCの最高峰クラスにはトヨタ、ヒョンデ、Mスポーツ・フォードの3チームが参戦している
 2023年も例年と同様に、1月下旬のラリー・モンテカルロで幕を開けたWRC世界ラリー選手権。トヨタ、ヒョンデ、Mスポーツ・フォードの計3チームがトップカテゴリーで激突する同シリーズはすでに開幕2ラウンドを終え、3月16~19日には早くも今季第3戦らりー・メキシコが開催される。

 本稿ではその第3戦メキシコからでも2023年のラリー観戦を楽しめるよう、参戦チームや車両、注目ドライバーなどを紹介する。今後の観戦に役立ててもらえれば幸いだ。

 まず、はじめにWRCがどのようなシリーズであるか簡単に説明しよう。同選手権は各地で行われているラリー競技の世界最高峰に位置する。2022年に50周年を迎えたWRCの創設は1973年、FIA国際自動車連盟が主催する世界選手権の中ではF1次ぐ長い歴史を持つシリーズだ。イベントの開催地はヨーロッパが中心だが、アジア、アフリカ、オセアニア、中南米などの地域でも開催され、文字どおり世界中を転戦している。

 そんなWRCは昨シーズン、全13戦で争われたが2023年も同数のラウンドが維持された。一方、開催地は複数の変更を確認することができ、ベルギーとスペイン、ニュージーランドがカレンダーから外れている。これらに替わってメキシコとチリが復活した他、オーストリア、チェコ、ドイツの3カ国にまたがって開催されるセントラル・ヨーロッパが新たに加わった。

 昨年、2010年以来12年ぶりの復活を果たしたラリージャパンは、今シーズンも最終戦(第13戦)として11月16~19日に開催される。ラリーの拠点となるのは愛知県豊田市だ。

■WRC世界ラリー選手権 2023年シーズンスケジュール
RoundDateCountryRd.11月19~22日モナコRd.22月9~12日スウェーデンRd.33月16~19日メキシコRd.44月20~23日クロアチアRd.55月11~14日ポルトガルRd.66月1~4日イタリアRd.76月22~25日ケニアRd.87月20~23日エストニアRd.98月3~6日フィンランドRd.109月7~10日ギリシャRd.119月28日~10月1日チリRd.1210月26~29日セントラル・ヨーロッパRd.1311月16~19日日本

 WRCの各ラウンドは通常3~4日の日程で開催され、木曜もしくは金曜日に開幕し、週末の日曜日にフィナーレを迎える。競技はSS(スペシャルステージ)呼ばれる公道を封鎖したステージを走行した際のタイムによって順位付けが行われ、すべてのSSの合算タイムによって勝敗が決まる。SSの数はラウンドごとによって異なるが20本前後であることが多い。

 なお、SSの距離はまちまちで短いステージでは1kmほど。このようなSSはスーパーSSと呼ばれ、2台が同時にスタートするステージもある。反対に40kmを超えるようなロングステージも存在する。また、開催地やステージによってコースの路面が異なるのもラリーの特徴であり、同じクルマでグラベル(未舗装路)、ターマック(舗装路)、アイス(表結露)、スノー(積雪路)を走行する。2月9~12日に開幕された第2戦スウェーデンはシーズン唯一のスノーラリーであり、雪壁に囲まれた銀世界のコースで競技が行われた。

■“ハイブリッド規定”2年目のシーズンがスタート

 トヨタ、ヒョンデ、Mスポーツの3チームが参戦するトップカテゴリーで用いられる車両は、2022年に登場したラリー1カーだ。このクルマはコンパクト・ダイナミクス社が開発した共通仕様のプラグイン・ハイブリッドシステムを備えており、SSのスタート時やブレーキング直後の再加速のタイミングで最大出力100kW(約135PS)のパワーブーストを得ることができる。またEV走行も可能で、リエゾン(SS間やサービスパークへの移動区間)の指定区間やサービスパーク内では電気モーターのみで走ることが義務付けられている。

 ラリー1カーは2021年までの車両規定であるWRカーと同様に、市販車のボディシェルを使用することもできるが、チューブラーフレームを用いて車両を組むことが可能になっているのが特長のひとつ。また、スケーリングによってマニュファクチャラー(自動車メーカー)がさまざまなタイプの車種をベース車に選ぶことができるようになっている。

 これに加えてコスト削減の観点から、空力パーツの簡素化やアクティブセンターデフの廃止、6速パドルシフトから5速シーケンシャルシフトへの置き換えといった変更が盛り込まれた。380PS以上の馬力を発揮するエンジンは、2021年に開発が凍結された1.6リットル直列4気筒直噴ターボエンジンが引き続き採用されているが、使用するガソリンはP1レーシングが供給する100%持続可能燃料に置き換えられた。

 2023年シーズンに向けては、ホモロゲーション登録の関係で大規模なアップデートはできないものの、各チームとも1年間戦ったクルマに改善を加え、トヨタはGRヤリス・ラリー1に新仕様のエンジンを投入した。また車両の外観にも変化が見られ、両サイドに張り出していたボックス状のエアインテークが姿を消している。ヒョンデもi20 Nラリー1のエアロダイナミクスに手を加え、フロントフェンダーやノーズ部分などで2022年仕様からの変更を見ることができる。

 タイヤは2023年も引き続きピレリ社のワンメイクだ。2021年から独占供給を行うイタリアのブランドが、各ラウンドに適した数種類の仕様の異なるタイヤを持ち込む。通常はターマックでPゼロと雨用のPゼロ・チントゥラート、グラベルはスコーピオン、冬季のラウンドではアイス/スノー用のソットゼロが使用される。スウェーデンのスノーラリーでは金属鋲(スパイク)が打ち込まれたソットゼロ(スタッドタイヤ)が威力を発揮する。

■ラリー1車両諸元例(トヨタGRヤリス・ラリー1)
寸量および重量全長/全幅/全高4225mm(空力パーツ込)/1875mm/調整可能トレッド幅調整可能ホイールベース2630mm最低重量1260kgシャシー/サスペンションフロント/リヤマクファーソン・ストラットダンパーストローク量270mmステアリング油圧式ラック&ピニオンブレーキシステムグラベル用 300mm、ターマック用 370mmエンジン形式直列4気筒直噴ターボエンジン(およびハイブリッドパワーユニット)排気量1600cc最高出力500馬力以上最大トルク500Nm以上ボア×ストローク83.8mm×72.5mmエアリストリクター36mm(FIA規定による)トランスミッションギアボックス機械式5速シフト駆動方式・差動装置4WD、機械式ディファレンシャル×2クラッチ焼結ツインプレート・クラッチ

■勝田貴元がワークス昇格、各陣営がドライバーラインアップを変更

 ラリー1規定2年目のシーズンを戦っていく各チームの布陣は下の表のとおりだ。昨年、22歳と1日でWRC史上最年少チャンピオンとなったカッレ・ロバンペラを擁すTOYOTA GAZOO Racing WRTは、若き“フライング・フィン”とエルフィン・エバンスが引き続きフル参戦する一方、シリーズ8冠王者のセバスチャン・オジエと3台目のマシンをシェアするドライバーに、日本の勝田貴元が抜擢された。

 2022年はサテライトチームのTOYOTA GAZOO Racing WRTネクストジェネレーションから全戦に出場してシリーズランキング5位となった勝田。今年ワークスチームの一員となった彼は、オジエが出場しないラウンドで3台目のGRヤリス・ラリー1をドライブする。また、オジエが参加する場合は4台目のマシンでラリーに参戦することでシーズン全ラウンドに出場予定だ。

■トヨタ、ヒョンデ、Mスポーツの2023年ドライバーライナップ
No.TeamCarDriver&Co-Driver2022 Ranking69TOYOTA GAZOO Racing WRTトヨタGRヤリス・ラリー1カッレ・ロバンペラ ヨンネ・ハルットゥネン1位33TOYOTA GAZOO Racing WRTトヨタGRヤリス・ラリー1エルフィン・エバンス スコット・マーティン4位18 ※TOYOTA GAZOO Racing WRTトヨタGRヤリス・ラリー1勝田貴元 アーロン・ジョンストン5位17 ※TOYOTA GAZOO Racing WRTトヨタGRヤリス・ラリー1セバスチャン・オジエ ヴァンサン・ランデ6位8Mスポーツ・フォードWRTフォード・プーマ・ラリー1オット・タナクマルティン・ヤルヴェオヤ2位7Mスポーツ・フォードWRTフォード・プーマ・ラリー1ピエール-ルイ・ルーベ ニコラス・ギルソウル13位11ヒョンデ・シェル・モビスWRTヒョンデi20 Nラリー1ティエリー・ヌービル マルティン・ウィダグ3位6 ※ヒョンデ・シェル・モビスWRTヒョンデi20 Nラリー1ダニ・ソルド カンディード・カレラ8位4 ※ヒョンデ・シェル・モビスWRTヒョンデi20 Nラリー1エサペッカ・ラッピ ヤンネ・フェルム9位
※ サードカーをシェアして参戦

 そのトヨタを離れたエサペッカ・ラッピは、フルシーズンシートを求めてヒョンデ・シェル・モビスWRTに移籍した。昨季はシーズン後半戦で強さを発揮し最終的に年間5勝を挙げたヒョンデ陣営は、ラッピとチームのエースであるティエリー・ヌービルをフル参戦させ、ベテランのダニ・ソルドと古巣復帰のクレイグ・ブリーンが3台目のi20 Nラリー1をシェアするかたちで2023年シーズンを戦っていく。

 ブリーンがエースとして2022年シーズンを戦ったMスポーツ・フォードWRTは、2019年王者のオット・タナクを招聘。セミワークスであるイギリスの名門チームは、タナクのチームメイトに自身初のWRCフル参戦を果たすピエール-ルイ・ルーベを起用し“少数精鋭”の2台体制で打倒ワークスに打って出る。
 
 なお、同チームから参戦した2022年開幕戦モンテカルロで優勝した元9連覇王者セバスチャン・ローブが、ふたたびMスポーツからWRCラウンドに出場する可能性があるとされているが、現在のところ正式な発表は行われていない。

■王者トヨタが狙うはドライバー選手権5連覇とマニュファクチャラー選手権3連覇

 気になるドライバーズチャンピオン争いは、開幕戦でレギュラー組最上位の総合2位となった現王者ロバンペラに対し、チームメイトのエバンスと、昨季2勝を挙げたヌービルがどこまで迫れるかがポイントに。また、第2戦スウェーデンで移籍後初優勝を決めた2019年王者タナクの存在も忘れてはいけない。

 一方、マニュファクチャラー選手権はMスポーツが2台体制であることを考えると、2023年もトヨタとヒョンデによる一騎打ちになるものと予想される。

 第1戦ではトヨタがスピードと強さでライバルを圧倒したが、まだ序盤も序盤。昨年は序盤戦にマシンの信頼性に苦しんだヒョンデが、今季のモンテカルロでは表彰台を獲得しているのを見ても分かるとおり、両者の戦いはより激しさを増すものと考えられる。事実、第2戦では形成が逆転。ヒョンデが2台を表彰台に送り込んだのに対してトヨタはポディウムを逃す結果となった。

 ちなみに、仮に今季もトヨタドライバーがタイトルを獲得した場合、現在4連覇で並ぶフォルクスワーゲン(2013~16年)を抜き“絶対王政”を築いたローブ時代のシトロエン(2004~12年)以来、最初の選手権5連覇メーカーとなる。マニュファクチャラー選手権を制すとトヨタにとっては初の3連覇、こちらはフォルクスワーゲン以来の達成が期待される。