トップへ

トップスピードの確かな向上。しかし、予断の許さない状況は続く/ヤマハMotoGPプロジェクトリーダーインタビュー

2023年02月22日 20:31  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)
 2月10日、MotoGPの2023年シーズン開幕に向けた公式テストがマレーシアのセパン・インターナショナル・サーキットにおいて、3日間の日程で行われた。2022年シーズン、チャンピオンを逃したヤマハは、かねてより課題としていた最高速の向上に成功していた。2023年型のエンジンの手ごたえ、ファクトリーチームのみとなった1チーム体制の影響、そして、ライバル陣営をどう見ているのか。2日目終了後、ヤマハのMotoGPプロジェクトリーダーの関和俊さんに話を聞いた。

 セパンテスト2日目は、夜中に降った雨によってサーキットの路面が午前中まで乾ききらず、ようやく走行が始まったのは昼ごろだった。けれど14時を過ぎると再び雨が落ち、マレーシアらしいスコールがセパン・インターナショナル・サーキットのコース上をしっかりと濡らした。やがて雨は上がったが、まとわりつくような湿気を含んだ熱気は、テスト終了時刻を過ぎても漂っていた。

 ヤマハが2023年の課題のひとつとして挙げていたのは、トップスピードの改善である。2日目を終えた段階で、ヤマハは1日目にフランコ・モルビデリ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)が10番手、ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)が11番手。コンディションに恵まれなかった2日目は、クアルタラロが4番手、モルビデリが11番手だった。

 最高速は、初日にクアルタラロが334.3km/hを記録して4番手、モルビデリが333.3km/hで7番手、2日目はクアルタラロが335.4km/hで3番手、モルビデリが333.3km/hで9番手。初日最高速のトップはエネア・バスティアニーニ(ドゥカティ・レノボ・チーム)の336.4km/h、2日目はフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)の336.4km/h。

 テストでのタイム結果というのは、タイムアタックをしていないライダーもいるため、あまりあてにはならない。あくまで参考と考えるべきだろうが、しかし、上回るとはいかないまでも、2日目時点でヤマハは最高速という点でドゥカティに接近しているように見えた。

 ヤマハはセパンテストに、2種類のエンジンを持ち込んで比較していたという。2日目の時点での新しいエンジンの満足度について尋ねると、MotoGPプロジェクトリーダーの関和俊さんはこう語った。

「まだシーズンが始まっていないので、満足度というのは難しいですね。満足度については、なんとも言えないですけど、少なくとも、2022年より速くなっているのは事実ですね」

 ヤマハYZR-M1の強みは「コーナーエントリーとコーナリング」にある。その強みを保持し、他のバランスをとりながらも最高速を伸ばしていく。2022年末に行われたヤマハのMotoGP取材会で、関さんは2023年の指針をそう説明していた。そしてその2023年型エンジンは、パワーとトルクデリバリーのスムーズさを両立するエンジン特性になるよう、つくり込んできたという。そのバランスは満足のいくものができたのか。

「いや、どうでしょうね。まだわからないです。まだオフィシャルライダーで2日間(走っただけなので)。ピュアな2023年スペックのバイクはここからですし、まだ評価しきれていないパーツも残っています。他社がどんなところにいるのか、まだわかりません。明日(セパンテスト3日目)をやって、ポルティマオ(のテスト)が終わって、やっと自分たちの立ち位置がどのへんなのかが少し見えてきて、(本当に)わかるのは開幕してからじゃないでしょうか」

 確かにトップスピードは向上した。1日目のテストを終えて、クアルタラロはその点について「大きく前進した」と満足しているようだった。しかしそれは2022年のYZR-M1との比較である。そして、このときヤマハが開幕戦に向けてエンジンばかりではなく空力デバイスを含めたパーツの膨大な組み合わせを試し、最適なコンビネーションを模索していたように、ライバル陣営もまた、まだ手の内を見せ切っていない。関さんは厳しい表情を崩さずに続ける。

「自分たちの2022年のバイクを基準にしてみると、このくらいエンジンパワーが上がった、空力がよくなったという良し悪しはわかります。ただ、その結果に出来上がったバイクとして、他社との位置関係がどのあたりにあるのか。結局のところはそこです。僕たちがよくなったことより、他社が伸びてしまったら(勝てない)。まだまだ、予断を許さない状況だと思います」

 気になることはもうひとつあった。2023年シーズンはサテライトチームを失い、ファクトリーチームの1チーム体制となったことだ。他メーカーと比べて発生するデータ数としてのデメリットをどうカバーしているのだろうか。そう聞くと、関さんは少し、沈黙した。

「……。テストチームのカル(・クラッチロー)と中須賀(克行)に協力してもらって、ある程度パーツの方向性をみてもらう、ということはやっています」

「……でも、それは他社でもやっていますからね」と、また考え込む。

「ビハインド……。サテライトチームがなくなったことはビハインド、なんでしょうね。だからたくさんトライしなければならないパーツがあって、さばくのにちょっと時間がかかっているというのは、ビハインドといえば、ビハインドなのかもしれません。ただ、テストチームと協力して常に情報共有しながら、なるべく効率よくしていくように心掛けてはいます」

「ライダーが減ってデータが減るというところは確かにビハインドです。けれど、4人分つくらなければならないところがふたり分ですみますから、コスト面としてもこれまでにかかっていた予算を別に使うことができます。また、2022年にサテライトチームを見ていたスタッフや、サテライトチームのために物をつくり、開発していたスタッフがまた別の仕事をすることもできます」

 では、ライバルである他メーカーの2023年型マシンのパフォーマンスについて、関さんはどう見ているのだろうか。

「仕上がり具合がどのくらいなのか、今の(初日、2日目の)ポジションがどのくらいの実力なのか、というのはまだわからないので……、なんとも言えないです。ほんとに」

 手強いライバルになりそうなのは?

「わからないです。昨年のバスティアニーニだって、たぶん、開幕の時点ではみんな、そこまで注目はしていなかったでしょう。アレイシ(・エスパルガロ)も然り、だと思うんですけど。それがずっと好成績を残すようになった。ああいうケースはいくらでもあります。やっぱり開幕して、何戦かしてからわかる話なのかな、という気がします。まだ各社がいろいろなことをテストしている段階なので、今の時点でどこが、とは言えないですね」

 インタビューが終わると、関さんはインタビューが行われたヤマハのホスピタリティを出て、来たときと同じように足早にピットボックスへと戻っていった。

 その翌日のテスト3日目、クアルタラロとモルビデリはトップスピードの進化に手ごたえを感じている一方、ニュータイヤでタイムが出ない、とも口をそろえていた。開幕戦に向けて、「予断を許さない状況」は続くのだろう。


ヤマハ発動機
MS開発部MotoGPプロジェクトリーダー兼GPサポートグループリーダー
関 和俊(せき・かずとし)氏
1996年ヤマハ発動機入社。2001年よりMotoGPに携わり、YZR-M1エンジン制御設計兼サポートエンジニアを担う。2017年までの通算12年間はバレンティーノ・ロッシを担当した。2022年より現職に就任。