トップへ

Dry Cleaningはいま、ロンドンのバンドシーンをどう見ている?都市開発による文化への影響などを語る

2023年02月21日 09:00  CINRA.NET

CINRA.NET

写真
Text by 山元翔一
Text by 木村篤史
Text by 佐藤優太
Text by Emi Aoki

2023年に入って、海外アクトを多数含む大型フェスのラインナップが発表されはじめている。また、昨年の後半より数々の来日公演が実施され、海外とのフィジカルな文化的交流もまた取り戻されつつあるように見える。COVID‑19の脅威が完全になくなったわけではないことは忘れてはならないが、今後「パンデミック以降」ともいえるようなフェーズは、社会的な面からもより現実的なものになっていくことだろう。

そうやって文化や時代が移り変わっていくであろういま、CINRAでは音楽とそれを取り巻くそれぞれの地域・都市の現在について考えるための記事をいくつか展開していこうと思う。

最初に登場してもらうのは、Dry Cleaning。ここ日本では「サウス・ロンドンのポストパンクバンド」と紹介されることも少なくないが、本人たちはこの枕詞に対して居心地の悪さを感じているようだ(本稿でも、Black Country, New Roadやblack midiらを輩出したシーンとはまったく関わらずにやってきた、と言い切っている)。だからなのだろうか、「Tiny Desk Concerts」を主催するNPRは、Dry Cleaningというバンドを説明する際に「post-Brexit post-punk」、つまり「EU離脱以降の英国のポストパンクバンド」という言葉を用いている。

Dry Cleaningはどんなマインドで音楽活動を行なっているのか。Dry Cleaningから見た、ロンドンの街と音楽カルチャーの現在とは。UK在住歴のあるライターの佐藤優太とともに取材した。

Dry Cleaning(ドライ・クリーニング)
左から:ニック・バクストン(Dr)、ルイス・メイナード(Ba)、フローレンス・ショー(Vo)、トム・ダウズ(Gt)
2017年に結成されたロンドンを拠点に活動するバンド。2021年にリリースしたデビューアルバム『New Long Leg』は、全英アルバムチャートで4位にランクインし、The New York Times、Pitchfork、SPINなどのメディアで2021年のベストアルバムのひとつとして選定され高い評価を獲得した。2022年10月、2ndアルバム『Stumpwork』を発表。2022年11~12月、東京と大阪で初来日公演が実現した。

―バンド初期のエピソードとして、グレイス・ジョーンズの“Private Life”を参照したという話をされていますよね。2022年にはジョーンズがキュレーターを務めた『Meltdown Festival』にDry Cleaningは出演しましたが、実際に彼女と会うことはできましたか?

フローレンス(Vo):会うことはできなかったけど、「逆に安心したね」ってみんなで話してたんです。彼女はレジェンドだから、たとえ会えたとしても、おもしろいことやスマートなこと、彼女の興味をそそるようなことを話さないといけないのが大変だと思う(笑)。

ルイス(Ba):話せたあとも「俺はちゃんと話せたかな?」「おもしろい話ができたかな?」っていろいろと悩んじゃいそうだよね。

フローレンス:サイモン・ル・ボン(Duran Duran)と会ったときも上手く話せなかったから、グレイス・ジョーンズともたぶんうまくいかないと思う。

一同:(笑)

―グレイス・ジョーンズの音楽と同様に、Dry Cleaningの音楽もロックっぽい曲や、あるいはもっとファンキーな曲も含めて、どの曲もバンドのグルーヴが強く感じられる点が魅力です。あなたたちにとって音楽がグルーヴィーであること、ダンサブルであることは、どの程度重要ですか?

ニック(Dr):これはほかの2人が答えたほうがよさそうだな。

フローレンス:とても重要で、欠かせない要素だと思う。Dry Cleaningのサウンドがトリッキーな感じでも楽しめるのは、グルーヴがあって、ダンサブルだからなんじゃないかな。

トム(Gt):ギタリストとしてもすごく自由度が広がる。俺はメロディーを中心に演奏していて、変なコードを使ったり、特定のキーだけ変な感じにして演奏することもある。音楽がグルーヴィーでダンサブルだから、俺が変な音を忍ばせても楽しく聴くことができるんだ(笑)。

フローレンス:トムと同じ理由でボーカルとしてもやりやすくて、ビートがフラフラしてる感じだとすごく虚しい感じになるというか……。

ニック:じゃあ、3rdアルバムはそういう感じにしようかな(笑)。

―DJがプレイするようなダンスミュージックからの影響もありますか?

フローレンス:うん。ロンドンではダンスミュージックを聴くのは普通のことだから、自分が聴く音楽の大部分を占めていると思う。

ルイス:むしろライブミュージックのほうがレアだよね。たとえば、いま俺が住んでいるところで妹が友達とライブを観に行くことになったんだけど、まるで初めてライブに行くみたいなテンションで「ライブバンドがやってるから一緒に行こうよ!」って誘ってくるんだよ。普段はみんなDJばかり聴きに行っているよ。

フローレンス:ダンスミュージックには、話し言葉や声のサンプルが使われているものも多いよね。Aphex Twinの音楽にも誰かが話しているパートがよく使われているし、The Orbもそう。

フローレンス:私が若いころはそういう音楽が人気だったから、昔からそういう音楽をたくさん聴いてきたし、誰かが話す声がトラックの一部になっているのはダンスミュージックの大きな要素だと思う。

ニック:俺はDry Cleaningに入る前、別の友人とハウスミュージックをつくるプロジェクトをやっていたんだ。ライブは一度しかやらなかったけど、Dry Cleaningの活動をする前は、そういう音楽に一番興味を持っていた。

トムとルイスには、長いあいだ「一緒にジャムをしよう」って誘われていたんだけど、そのプロジェクトもあったし、フルタイムで働いていて時間もなかったから、最初はあんまり乗り気じゃなかったんだ。

最初のころはDry Cleaningの音楽は、自分が目指すものとはまったく違う音楽だった。でも、だからこそ楽しむことができたし、バンドでやることで感じる刺激は、ほかの何にも代え難いなと思った。

ニック:最近は、ギターみたいなアコースティックな楽器を演奏するのと同じような感覚を感じられる製品が増えているけど、電子音楽の世界ではバンドみたいなかたちでほかの人と一緒に演奏している感覚を得るのは難しい。不可能ではないんだけど、シンプルな楽器をバンドで一緒に弾く即時的な喜びと比べると、やっぱり一歩引いた距離を感じるんだよね。

―あなたたちがロンドン出身であることは有名ですが、ロンドンのなかにも多くの街やエリアがあり、それぞれに歴史や文化的な状況も違いますよね。そういったことを踏まえて、みなさんの出身地や、そこがどんな街なのかを教えてください。トムはクリスタル・パレスの出身ですよね?

トム:うん。クリスタル・パレスはロンドンの最も南にあるエリアだね。その隣のクロイドンは、もうロンドンの外。丘にあるエリアだから坂を登らないといけないんだけど、そこがむしろ気に入っている。

ケント州やサリー州が見渡せるし、反対側にはロンドン市内も見えて、すごくいい感じなんだ。クリスタル・パレス公園という大きな公園があって、毎日そこで犬の散歩をしているよ。他のメンバーはもう少し中心部に住んでいるけど、俺と彼女は歳のせいか、静かな環境に住みたいのさ(笑)。

フローレンス:私はペッカム(※1)の隣にあるイースト・ダルウィッチという、わりと高級なエリアに住んでて、生まれた場所もそこから1マイルくらいのところ。そっちの家はいまにも崩れそうな建物で家賃もすごく安かったんだけど、素敵なエリアでよく近所を散歩して人の家を見たり、庭を覗いたりしていて。

でもオンボロの家だったから──これはロンドンでよくあることだけど、大家が家を売りに出すことになって、立ち退きせざるを得なくなって。それでいまの家に引っ越してきて、いまのところも気に入ってますね。

ニック:俺はフローレンスの住んでいる地区から0.5マイルくらい丘を上がったキャンバーウェル(※2)という街に、もう16年間くらい住んでいる。すごく気に入っているよ。

サウス・ロンドンは全体的に緑が多くて、とてもきれいだ。ノース・ロンドンに比べると多少は家賃も安い──最近は怪しいけど、少なくとも昔はみんなそういっていた。

子どものころはノーフォーク(※3)っていう田舎で育ったよ。とても美しいところなんだけど、保守的な人が多い。そういうところで暮らしていると、あまり目立つことをしないほうがいいってことになるよね。だからロンドンが第二の故郷で嬉しいよ。休暇でノーフォークに帰って母親に会ったりするのは楽しいけど、5日間くらい滞在するとイライラしてきて「キーッ!」って感じになって、ロンドンに帰りたくなるんだ(笑)。

ルイス:俺はロンドン南東部のシドカップという街に住んでいる。生まれ育った地区で、ロンドンの郊外。いまは妹と一緒に住んでいるよ。まあ、つまらないところだ。

みんな9時~17時の仕事をしていてファミリー層が多いな。テレビばかり見ているような人たちさ。1か月前まではキャンバーウェルに住んでいたから、あの雰囲気が恋しいね。いつでも活気があって、みんな忙しそうにしている。そういう感じのほうが俺は好きなんだ。

シドカップはもっと落ち着いていて、ちょっとつまらない。でも、ソーホーやセントラル・ロンドンにすぐに遊びに行けるのは、自分に合ってるね。

左から:ニック・バクストン、ルイス・メイナード、フローレンス・ショー、トム・ダウズ

―フローレンス以外は10代からバンド活動をしてきたと思いますが、そのころの拠点は?

トム:俺は自分が育ったケント州(※)でバンドをはじめて、20歳のころにロンドンに移った。その後の20年間はイースト・ロンドンを中心に活動していたよ。

ニック:俺もトムと似たような感じかな。本当にたくさんのバンドをやったから、数もわからない(笑)

ルイス:俺もたぶん30組くらいはやったんじゃないかな。若いころにほかのバンドをやってたときも、ずっとロンドンの南東部に住んでたけど、リハーサルしかしないバンドもあれば、実際にギグをやるバンドもあるという感じ。

ニック:1回のギグで終わっちゃうバンドとかね。俺は50組くらいはやったよ。ただ「バンドをやる」というアイデアがあるだけで、作曲も少しするけれど、そこから先には進まない、っていうのが大半だったね(笑)。

左から:ニック・バクストン、ルイス・メイナード、フローレンス・ショー、トム・ダウズ

―現代の音楽を「シーン」という切り口で語ることには難しさもありますが、一方で、音楽をはじめとするアート活動が広がっていく際には、人と人とのつながりが重要になりますよね。Dry Cleaningにとって、同じコミュニティーの仲間であると感じられるバンドや音楽関係者がいたら教えてください。

フローレンス:私たちが初期のころに演奏していたベニューは、すべてダルストン(※1)の小さな会場だった。サウス・ロンドンでライブをやることになったのはずっとあと。

ブリクストンの「Windmill」(※2)というベニューには特有のシーンが発展しているけど、私たちはその一部ではなかったし、まったく関わらずにやってきた。バンドで名前を挙げるとしたら、ロンドン南東部に住んでいるPoziかな。友達たちがやっているバンドで、バイオリン、ベース、ドラムの3人編成のバンドね。

フローレンス:あと「Upset The Rhythm」からレコードを出していたDog Chocolateというバンド。解散したと聞いたけど、ついこのあいだもギグをやってたから活動を再開するのかも。彼らはデトフォード(※1)が拠点で、私たちと一緒にアートプロジェクトをやったりもしてて。

トム:MF Tomlinsonという、Dry Cleaningのツアーのサポートをやってくれた友人がいるんだけど、彼のバンドも素晴らしいよ。それから、友人のスティーヴンはコロンビア・ロード(※2)の「World Of Echo」というレコードショップをやっている。

最近ではもう見ないようなレコードショップで、店に入って店員といろいろと話して仲よくなって自分の好みを知ってもらう。すると、次にお店に行ったとき、「君にぴったりのレコードがあるよ」って薦めてくれる。そんなお店なんだ。

普段自分では選ばないようなレコードを薦められて、最初は「別に好きじゃないな」と思うけれど、ずっと聴いていると次第に「これ最高じゃん!」と思うようになる。そんなお店だね。俺が若いころはそういうお店がたくさんあったけど、最近はあまり見かけない。一人ひとりの客に時間を費やす余裕がなくなってきてるんだろうな。

―「サウス・ロンドンは地価が安くて、若いバンドやアーティストが拠点にするのにいい地域だ」というイメージが、2010年代には日本にもありました。ですが、その状況はここ数年で大きく様変わりしましたよね。

ニック:Dry Cleaningの駆け出しのころを思い出すと、おもしろい道を歩んできたと思うよ。でも、俺たちが初期に演奏していたようなロンドンの小さな会場の多くが、ここ数年で次々と閉鎖してしまった。

最近のロンドンは、不動産デベロッパーがやりたい放題で、小さなライブハウスの近くに新しいマンションがどんどん建てられている。すると、そのマンションの住民から騒音の苦情が来て会場が閉鎖されてしまうんだ。ライブ会場は薄利で営業しているから苦情に太刀打ちできない。

ロンドンにはファンがたくさんいる個性豊かなシーンや会場がいくつかあるけど、逆をいえば、カルチャー的に重要なものとして目立つことができないと人も集まらないし、生き残れないんだ。ロンドンの文化的価値を高い水準で保つことは、市長や政治家の狙いでもあるとは思うんだけど。

トム:文化も商品のひとつとしてとらえているよね。小さな会場が人気スポットになると、その付近の土地が買い上げられて、高級マンションが建つ。そのエリアがクールでおもしろい、「トレンディ」だといって多くの人たちが引っ越してくる。でも、そういう人たちは騒音が大嫌いだ。

一同:(笑)

トム:ロンドンの有名なクラブ、fabric(※)の近隣の住民が騒音の苦情を言ったと聞いたときは、「じゃあ、なんでお前はそこに住んでるんだよ?」と思ったよ。

ルイス:そのマンションを売るときのセールストークでは絶対に「fabricに近い」って言ってたはずだよな。

左から:ニック・バクストン、フローレンス・ショー、トム・ダウズ、ルイス・メイナード

トム:昔は無名なバンドや駆け出しのパンクバンドが初めてのライブをやるのに向いた小さな会場がたくさんあった。でも、そういうところはすべてなくなってしまった。その状況がシーンの生態系に影響を与えたと思う。

駆け出しのバンドなら何かしらのかたちで、ロンドンでギグをやるべきだ。でも、いまはそれができない。俺たちは幸運にもロンドン生活が長くて、若い人たちよりも慣れていた。そんな俺たちでも、初めてのギグはフロー(フローレンス)の友人のバンドと一緒にやって、彼らがギグの企画を手伝ってくれたから実現できた。

そういう縁で俺たちはここまで来ることができたけど、そもそも俺はDry Cleaningの20年も前からロンドンにいたからね。いまの若い人たちが、今後どうやってバンド活動をしていくのか、想像もつかないよ。

ニック:ジェントリフィケーションは本当に最低だ。俺たちはツアーで世界中を旅して、世界のさまざまな街を見る機会があるけど、都市計画というものがどれだけ効果的であるか、都市計画次第でインクルーシブな街をつくることが可能だということに気づかされるよ。

街がつねに変化している必要はないし、ましてやその変化が資本主義に駆り立てられた都市開発である必要はないはずなんだ。もちろんツアーで訪れる街には、ほんのわずかしか滞在しないから、とても表面的な見解かもしれない。

でも、ロンドンの場合は本当に酷くて、あるエリアが物騒だったり見すぼらしかったりすると、そのエリアを一掃するための自由裁量権がデベロッパーに与えられてしまうんだ。

ニック:彼らの目的は唯一、金儲けをすること。地方議会は、保守党政治に資金を大幅に削減されていて、土地の計画や開発に対する意見を一切しない。(政府の)支出を減らすという名目のもと、デベロッパーのやりたいように開発が進められていく。

政府からしたら、デベロッパーは莫大な利益を得て、開発されたエリアには新しい入居者も引っ越してきて、万事OKということになる。そういうサイクルがいまのロンドンでは普及している。クリエイティブなコミュニティーはひとつのエリアから、別のエリアへと移り、また別のエリアヘと移る。まさに資本主義の基本だよね。

クリエイティブな人たちが手ごろに住めるエリアを見つけて引っ越してくる。するとそのエリアが急におしゃれでイケてるエリアになる。で、そうなったら彼らはもうおしまいなんだ! すごく簡略化して話してはいるけど、俺たちはいまそういうサイクルのなかで暮らしているんだ。

―新作の9曲目、“Conservative Hell”は、保守党政権の続く現代のUKの状況へのあなたたちの見方を端的に表しています。ここ数か月の保守党および政権の混乱をどのように見ていますか?

トム:現在の政権は、「社会という共同プロジェクト」に対して一切興味や関心がない、「個人のための政治」をやっている人たちで成立している印象を受けるよ。

共同プロジェクトっていうのは「好きだから」とか「楽しいから」とか、そういう理由のもとに行動して、他人と一緒に時間を費やすこと。バンド活動もそのひとつで、だからこそ俺はバンドをやるのが好きなんだ。Dry Cleaningもそう。

でも、保守党政権を見ていると、誰もが自分の利益のために動いているように見える。しかも政治的能力を一切持たずにね。現在の内閣はとても弱くて、何の議題に対しても議論をしていない。何の要点も主張せず、うまいことを言って自分が大儲けできる方向に状況を持っていくということしかやっていないんだ。

トム:パンデミックのとき、俺たちはこれまで生きていたなかでも、もっともお互いを守り、頼りあわなければいけない状況だった。看護の仕事をしている人たちには、自分の命を危険に晒して毎日、病人の世話をしないといけなかった。

そんなときに政府のやつらは何をやっていたと思う? ブラジャーを生産する会社を立ち上げて大金持ちになったミシェル・モネという議員がいるんだけど、彼女はパンデミックの期間中、パンデミックとは一切関係のない怪しい会社といくつも契約を結んで、NHS(国民保健サービス)にマスクや医療用保護服などの製品を提供したんだよ。でも、届いた製品は体にあわなくてまったく使いものにならなかった。

そのために国は1億2,200万ポンド(約200億円、2023年2月時点)を支払い、モネ自身やその家族も密かに2,900万ポンドの利益を得た。イギリス議会で巨大な権力を持つ人たちは、2,900万ポンドをせしめることしか考えていないような人たちなんだ。

一方では、自宅に生えたカビのせいで子どもたちが命を落としているっていうのにね。完全な不均衡だよ。議員たちは子どもたちの命のことなんて、これっぽっちも気にしていない。興味があるのは2,900万ポンドだけ。

こういった動きは、1980年代に新自由主義を唱えたサッチャー政権から続いている。労働党政権でも同じことが起きた。トニー・ブレアも新自由主義者だったからね。現在の政治の主流は新自由主義で、臨終に近づいてきてはいると思うけれど、いつまでこの状態が続くのかは誰にもわからない。

左から:ニック・バクストン、フローレンス・ショー、トム・ダウズ、ルイス・メイナード

トム:唯一の希望はコービニズム(※)だったけど、反対派はあらゆる手でコービンを叩きのめした。あらゆる情報機関やメディアを駆使して彼の政治生命を絶とうとした。政策が正しいかどうかを試すチャンスを与えられる前に、彼は失脚に追いやられてしまった。

彼のことを「狂人」とか「反ユダヤ主義者」とか呼ぶ人までいて、本当に酷かったよ。我々はまさに「Conservative Hell(保守党の地獄)」にいる。彼らは、人々の考えを操作して裏では──いや公然と、公共の資金を奪っているんだ。国民が餓死してもまったくおかまいなしにね。

ニック:上手くまとめたね。

トム:えーと……いまのは録音されていないよね? 保守党バンザイ!

フローレンス:自分の汚い行ないを隠すことなく、平然としている。悪事を働いても、何の説明もしないまま肩をすくめて、何もなかったように物事が進む、っていうね。そういう新しいタイプの政治が主流になってきている感じがする。

ニック:いまの新しい政治の時代にでは、政治家が嘘を言ったり違反をしても、何の責任も問われないという流れになってきている。嘘がごく普通にまかりとおる政治になっているんだ。

トム:リシ・スナクが、新首相として最初に表舞台に上がったときに、ある動画が流出した。ロイヤル・タンブリッジ・ウェルズ(※)っていう富裕層が住む高級住宅地で行なわれた保守党のイベントで、彼は党員に向かって「貧しい都市部」から公共資金を取り上げる活動を一生懸命行なっています、って言ったんだ。信じられなかったよ。

で、そのことについて追及されたとき、彼は「そういう意味で言ったんじゃない」と言ったんだ。でも「実際に言ってたじゃん!」って思ったよ。その資金を本当に必要としている人から奪って、あなた方、つまり富裕層にあげますってね。でも、それがまかりとおったんだ。

トム:いまはそんな人がイギリスの首相だ。俺が子どものころは、そんな事件があったら、そいつの政治生命は終わりだった。でもいまはそうじゃない。「あ、そういうことですか」と人々が言って、そこで話が終わるんだ。

ルイス:本当に。「PRが悪かった」ってことで片づけられちゃうよね。

ニック:ごめんね、トムが熱くなっちゃって。

トム:政治のことを延々と話してしまったから、質問に全部答えられなかったよね。

─いいえ、貴重なお話が聴けてよかったです。

4人:ありがとう!

左から:ニック・バクストン、フローレンス・ショー、トム・ダウズ、ルイス・メイナード