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【新連載】『機動戦士ガンダムZZ』は本当に“見なくていい”作品なのか? 第一話から「総集編」の不穏な幕開け

2023年02月20日 11:31  リアルサウンド

リアルサウンド

機動戦士ガンダム ZZ 1 [DVD]/バンダイビジュアル

 『機動戦士Zガンダム』に続くガンダムシリーズの3作め、それが1986~1987年にかけて放送された『機動戦士ガンダムZZ』である。ガンダムといえば大変人気のある、日本を代表するロボットアニメだ。しかし、そのシリーズ中の作品でありながら、本作の言われようはけっこう散々である。Googleでタイトルを検索すれば、関連キーワードとして「zzガンダム 見なくていい」「zzガンダム なかったことに」などが出てくる。結構な言われようだ。


(参考:【写真】『閃光のハサウェイ』『逆襲のシャア』など、続々登場する『ガンダム』グッズの細部に注目!


 実際のところ、確かに見なくてもいいと言えばいいのかもしれない。アムロとシャアの物語という点で言えば、初代とZ、そして不朽の名作である『逆襲のシャア』を見ておけば、大体事足りる。その後のOVAは外伝的な内容だし、平成以降の作品は展開が多様で作品間のつながりも弱いため、逆に「見たいものを見てくれればいいです」ということになる。宇宙世紀を舞台にしたアムロとシャアの物語のみにフォーカスすれば、確かに『ZZ』はなくても成立しているのだ。


 そんな『ZZ』の立場を象徴するように、この作品には劇場版が存在していない。初代ガンダムはテレビ放送終了後に劇場版が3本制作され、爆発的なブームを牽引した。『Z』にしても「A New Translation」と題した劇場版作品が3本制作されている。それなら『ZZ』も……となりそうなところだが、現時点ではそういった展開は全くアナウンスされていない。なんだか不憫である。


 しかし、『ZZ』は本当に「見なくていい」作品なのだろうか。なにはなくとも、まずはガンダムシリーズの1作品である。当時のアニメとしては一定以上のクオリティは担保されているはずだ。また、バブル景気に突入する間際の、日本が一番景気の良かった時期に作られた作品でもある。そんな時期の作品から滲み出るパワーも、今ならまた違った味わいで感じられるのではないだろうか。


 キャラクターデザインにしても逆に今見るとちょっとレトロでかわいいし、その他の要素から昭和末期~平成初期の空気感を感じられるところもあるだろう。確かに「宇宙世紀の物語の本筋にがっつり絡むか」というとそうでもないかもしれないが、2023年に改めて本編をじっくり見れば、それなりに新たな発見があるかもしれない。


 ということで、この連載は「今改めて、1話ずつ真面目に『ZZ』を見てみよう」というのが主題である。ちなみに筆者は一応子供の頃に放送されていた再放送で『ZZ』を見てはいるが、正直うろ覚えで細かいところは忘れている部分も多い。どんな作品だったかこの連載で再確認できることを、かなり楽しみにしている。というわけで、まずは第1話「プレリュードZZ」からスタートである。


 ……と始めてみたこの連載であるが、「プレリュードZZ」は初回から総集編である。これまでに放送されてきた『機動戦士ガンダム』『機動戦士Zガンダム』の内容がダイジェストで紹介され、途中には池田秀一ボイスで繰り広げられるモビルスーツのシルエットクイズが挟まり、そして最後には次週放送される『ZZ』初回の予告が長めに挿入されるという、なんともとっちらかった回である。


 まずは有名な「アニメじゃない」のフレーズが印象的なオープニング。この出オチのようなフレーズを有名ロボットアニメのオープニングにぶち当ててくるあたり、80年代の秋元康っぽい山っ気を感じる。ただ、大人に対する不信が地球に固執するオールドタイプに対する怒りへと転化されるあたりは、ガンダムシリーズの楽曲であることを割とちゃんと踏まえていると思う。番宣キャッチフレーズは「子供はみんなニュータイプ! 見せてやろうじゃないの! 大人たちにさ!」だったそうだし(似たようなセリフはこの第1話の中でジュドーも口にしている)、やたらと子供アゲな歌詞も「まだ内容が固まりきっていない新作ガンダムのテーマ」に向き合って作られたのだろう。


 オープニングの映像に関して言えば、類人猿から進化した人類が進化の果てにニュータイプの若者となり、その手がモビルスーツの手に重なるというシーンも印象的だ。この時期のガンダムシリーズは人類の進化の次の段階に対して真面目に向き合っており、そんな姿勢を端的に表現した映像だと思う。特に、モビルスーツは名前の通り「スーツ」であり、着用するような感覚で使うものであるという点まで表現しているのには、素直に感心させられた。『ZZ』のオープニングは、「アニメじゃない」の部分以外もけっこうちゃんと味がするのである。


 第1話がいきなり総集編という点からはなかなか不穏なものを感じさせるが、実はこの総集編、前半に関してはけっこうよくできている。なんせ放送されているガンダムシリーズが初代と『Z』しかないため、まとめる情報量が少ないのだ。


 それゆえに紹介する内容もタイトかつ的確にまとまっており、人類の宇宙進出と宇宙世紀の始まり、スペースコロニーでの人類の生活、コロニー開発用の機材から発展したモビルスーツの誕生、コロニーでの独立機運の高まり、そしてモビルスーツとコロニーを効果的に使ったジオン公国の攻撃と一年戦争の開始、そしてアムロの戦闘への参加と、ガンダム世界の前提情報を実にコンパクトかつわかりやすく説明している。ガンダムがわからないという人は『ZZ』の第1話を見ればいいじゃん……という出来栄えだ。


 続いて『Z』についてもダイジェスト的に紹介。ティターンズとエゥーゴとの戦いの経緯をあっさりめに紹介し、この時期は混沌の時代で人がたくさん死んだ、ということを解説している。ただ、このあたりはいきなりサイド1に移動するアーガマの艦内に視点が移ったり、かと思えば『Z』本編の映像になったりして、なんのコーナーなのかかなりわかりづらい。あくまで雰囲気で把握してくれという感じである。


 さらに唐突に始まるモビルスーツシルエットクイズで、混乱は頂点に。なぜか池田秀一(別にシャアであるとは断言されていない)がシルエットで登場した百式などのクワトロ・バジーナの乗機を褒めまくり、シンタとクムに突っ込まれるという衝撃の展開である。このあたりはいかにも80年代的なオタクの悪ふざけという感じで、なんとも大らかだ。しかし、自分はこれを見るまで「喜望峰の発見者であるバーソロミュー・ディアスが、リック・ディアスという機体名の由来である」というのは知らなかった。勉強になるな……シルエットクイズ。


 以降は『Z・刻をこえて』をBGMにしたイメージ映像やら、次週放送されるであろう『ZZ』の本編第1話のダイジェスト(にしては見せすぎな気がする)やらが流れて終了。放送前の特番や前番組の総集編という扱いにしても、どうにも散らかった印象で、のっけから不安になる内容だ。昭和のテレビって、けっこういい加減だったんだなあ……。


 ただ、前半だけに限れば「宇宙世紀もののガンダムの基礎設定の説明」としては非常によくまとまっていたのも事実。1986年時点では説明することもさほど多くないという理由はあるが、それゆえに短時間で「ガンダムシリーズとはこういう作品です」という点をうまく説明しており、この点だけは今見てもなかなか面白いと思う。あと、シルエットクイズに関しても、ネタ的な面白さはあった。「必見!」というほどではないですが。


 ということで、いよいよ次から本編である。一発目が総集編というなかなか不穏なスタートとなった『ZZ』というアニメの幕開けは、一体どんなものだったのだろうか。


(しげる)