2023年02月18日 09:11 弁護士ドットコム
東京・日比谷公園界隈で、鳥に餌付けする女性が目撃されている。編集部は2023年1月、西幸門の植え込みや、園内のレストラン「松本楼」付近の草むらでトートバッグから細かい粉末状の餌をまく女性を確認。2022年11月には霞が関の中央合同庁舎の植え込みに女性が生肉を置くと、すかさずカラスが取りに来て、あわや通行人に直撃…という場面も見かけた。
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公園を管理する東京都は、餌やり自体で違法性を問うことはできず「やめるようお願いするしかない」との回答だった。2022年末からハトやスズメへの餌やりが確認され、直接注意しているが、“餌付けおばさん”は再び現れるのだという。
担当者はベンチへの糞害などに苦慮しているといい、立て看板などでも注意を呼びかけている。有効な対処法はないのだろうか。動物をめぐる法律に詳しい鈴木智洋弁護士に聞いた。
ーー餌付けおばさんは繰り返し出没していますが、何か責任は問われないのでしょうか?
野生の鳥への餌やり行為自体を直接禁止する法律はありません。一部、条例で禁止している自治体もあるようですが、まだ、その数は少数にとどまっています。
餌やりが原因となって、その結果として糞害などが発生することもあります。継続的に餌やりをしたことによって、具体的な被害の申告があったり、行政から指導されたりしたにもかかわらず、餌やりをやめないような場合には、民法上の不法行為が成立する可能性はあります。糞害を被った人の損害(例えば、清掃費、修理費等)を賠償する責任が問われることになります。
ーー通行人がけがをした場合、責任を問うことはできますか?
餌やりの結果、それに向かっていく鳥などと通行人が衝突してけがをし、その結果、通院費がかかったり後遺症を負ったりした場合には、一応、通行人から行為者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求を行うことが考えられます。
しかしながら、その請求が認められるためには、餌やり行為と被害者に生じた損害との間に、相当因果関係が認められる必要がありますが、その立証はほぼできないでしょう。実際のところ、餌やりをしている人に損害賠償請求をすることはできないと思います。
また、餌やり場所(公園など)の管理者に対して責任を追及することも考えられますが、こちらも責任を認めさせるのは難しいと思います。従前から被害申告が行政に対してなされており、しかも行政もそれを把握していたのに、適切な措置を取っていないまま、漫然と放置していた、というようなケースに限られるでしょう。
ーー都では「野生動物にエサをあげないで!!」とホームページで訴えている。特にハトについてはチラシの中で、栄養状態がよくなるため、一年に何度も繁殖し、鳴き声や糞などにより生活環境に被害をもたらすと説明しています。行政は注意喚起しかできないのでしょうか?
都道府県知事は、動物への餌やりに起因した騒音または悪臭の発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生等によって周辺の生活環境が損なわれている事態として環境省令で定める、以下のような事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、必要な指導又は助言をすることができます(動物愛護法25条1項)。
① 餌やりに伴う鳴き声、糞尿、臭気等が周辺住民の日常生活を著しく支障し、かつ、
② ①について周辺住民の共通認識が存在すること等
また都道府県知事は、行為者に対して、期限を区切って、生活環境の支障の除去のために必要な措置を取るべきことを勧告できるとされ(動物愛護法25条2項)、当該勧告も無視した場合は、勧告に従うよう命令をすることもできるとされています(同条3項)ので、これらに則って、指導・助言・勧告・命令を行うことが求められるところです。
なお、都道府県知事からの命令(動物愛護法25条3項)を無視した者には、50万円以下の罰金が科されるとされています(同法46条の2)。
ーー鳥インフルエンザなどの危険性はないのでしょうか?
野生動物が楽に餌をもらうことに慣れると、生態系への影響も考えられます。ハトの糞には病原菌も含まれていますので、人への感染症の危険性が増大する可能性もあります。
環境省によると、餌やりによって多数の鳥が密集している場所で鳥インフルエンザに感染した野鳥が多数発見されています。
野鳥に対して安易に餌やりを行うことは、密集することで野鳥同士の接触が進み、高病原性鳥インフルエンザなどの感染拡大や、人の与える食物への依存を招く恐れがありますので、その点からも行うべきではありません。
すなわち、法的な観点だけではなく、生態系や人間の健康への影響という観点から考えても、安易に野生の鳩に餌やりをすることは控えるべきだとも考えられます。
【取材協力弁護士】
鈴木 智洋(すずき・ともひろ)弁護士
専門は労働法(使用者側限定)、行政法(行政側限定)、動物法・ペット法。動物法・ペット法に関しては、ペット法学会・日本法獣医学会に所属する他、国立大学法人岐阜大学応用生物科学部獣医学課程の客員准教授、名古屋市獣医師会顧問弁護士も務めている。
事務所名:弁護士法人後藤・鈴木法律事務所
事務所URL:http://www.gs-legal.jp/