2023年02月16日 16:41 弁護士ドットコム
上智大元教授で、美術評論家の林道郎氏から、10年にわたりセクハラを受けたとして、教え子だった女性が訴えている裁判の判決が3月27日、東京地裁で言い渡される。
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訴状などによると、原告の女性は上智大入学後、林氏の講義を受講するようになったことから、林氏を指導教官として大学院に進学した。
女性は、在学時に林氏から性的関係を持つよう働きかけられて、交際を余儀なくさせられたとして、2200万円の慰謝料を請求している。林氏との交際が終わったあと、女性はうつ病と診断されたという。
裁判で、女性側は林氏による「グルーミング」(手なづけ)があったと主張している。
グルーミングとは、若年層に対して、年長者が巧みに信頼関係を築いて、性被害へと追い込むための行動とされる。
これに対して、林氏側は「自由恋愛だった」と反論し、両者の主張は真っ向から対立しており、裁判所の判断が注目される。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
訴状によると、大学院に進学していた女性は2007年10月、林氏からすすめられて、京都のゼミ旅行に参加した。夜に林氏と2人きりで食事をしたあと、林氏からホテルに誘われて、初めて性的な行為をされたと主張している。女性は、林氏が25歳年上の既婚者であることから、混乱してフリーズしてしまい、強く拒絶できなかったとしている。
1月13日に開かれた本人尋問で女性は次のように語った。
「私は別のホテルに部屋を予約していましたので断りました。でも、被告が『何もしないから』といって何回か同じやりとりをして、らちが明かないのでホテルに行くことにしました」
女性はこれ以外にも、林氏に何度も学外へ連れ出され、性的関係を結ばされたと主張した。関係は女性が大学院を修了してからも継続したという。
一方、林氏は、法廷でセクハラがあったとする女性の主張を否定し、「ストーリーが書き換えられている」と語った。林氏は、女性から好意のアピールがあったと述べ、関係を持ったのも「自然な流れだった」などと反論した。
裁判の中で、女性側は、林氏の巧みな囲い込み「グルーミング」があったと指摘している。
女性側は「原告の場合には成人してからの被害ではあるものの、成人して間もない22歳のころから目上の指導教官からグルーミングを受けており、それまでの交友関係や性的経験が乏しかったことからすれば、グルーミングの影響によって被告を信頼し、被告からの性被害を拒むことはできなかった」と主張している。
グルーミングは近年、社会問題化しており、現在、法務省の法制審議会で議論が進んでいる性犯罪に関わる刑法改正でも、子どもに対する「グルーミング罪」が新設される見通しとなっている。
また、徳島大学ではいち早く、学内のハラスメント防止のガイドラインの中で、セクハラの手口として「グルーミング」があると指摘した。
その中で、「他の人よりも明らかに差をつけて懇切丁寧に指導をする」「この人は正しいと信じ込ませることで、セクハラに気づきにくくさせる」「セクハラに気づいても恩義を感じて指摘しにくくさせる」といった手口が紹介されている。
なお、裁判とは別に、上智大は2022年2月、林氏が女性と不適切な関係にあったことを認め、「教育者の姿から逸脱した行為」だとして、林氏を懲戒解雇している。