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歌舞伎町をさまよう27歳女性、万引きで4度目の刑務所へ 母の自殺、性暴力やDV…壊れたこころ

2023年02月12日 08:41  弁護士ドットコム

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27歳のマナさん(仮名・女性)は、万引きを繰り返し、3回の服役経験がある。成人してからの日々はほとんど刑務所で暮らした。2023年1月、約2300円分の菓子を盗んだとして、4度目の刑務所行きが決まった。


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「ずっと自分は、かわいそうな人間だと思っていました。歌舞伎町には、私なんかよりも、もっとつらい経験をしている子たちもいるけれど…」



男性に翻弄され、破壊されていったこころ。子どものころから傷を負い続け、いつしか、盗むことで「発散」するようになっていた。彼女はどんな人生を送ってきたのか。



●子ども時代、身近にあったのは「アルコールと暴力」

「物心ついたころから、父親の仕事の関係で、キャバクラやホストクラブ、おっぱいパブ、裏カジノの店舗などに連れて行かれました」



根元が黒くなりつつある金髪ボブに上下グレーのジャージで東京拘置所の面会室にあらわれたマナさんは、こう語り始めた。水商売をしている母親は重度の精神疾患があり、入退院を繰り返していた。父親と行動をともにしていた子どものころ、面倒を見てくれたのは「夜のお店のお兄さん・お姉さん」たちだ。



「初めてアルコールを飲んだのは、小学生のとき。それから、お酒をやめられなくなってしまって」



身近には、アルコールだけではなく、暴力もあった。



「父は、母や私に手を上げる人間でした。父の知人に性暴力を受けたこともあります」



母親とは、会えない期間もあった。しかし、父親とは違う。小学生のころ、いじめられているマナさんの味方をしてくれたり、一緒に出かけたりした思い出もある。



マナさんが17歳のころに母親は、この世を去った。自死だった。父親とは音信不通で、今も何をしているのかは分からない。



●初の服役は20歳ごろ、DV夫と子供がいた

好きなことは「歌うこととダンス。音楽が好きなんですよ。ヴィジュアル系もよく聴きます」。歌は褒められたこともあるという。しかし、音楽だけでは、こころの空洞を埋めることはできなかった。





マナさんは少年院のほか、刑務所に3回入所している。罪名はすべて、窃盗。小・中学生のころから、友人の筆記具などを盗むことがあり、精神科で「クレプトマニア(窃盗症)」と診断された。今回の逮捕後、クレプトマニアの専門病院で「入院治療の適用がある」と言われたという。



「ほかにも10代のころにアルコール依存症、解離性障害、パニック障害、不安障害、反応性愛着障害、適応障害などと診断されています。ここに来てからも裁判のことが不安で、過呼吸を起こして保護室に連れて行かれました」



盗むことで「ストレス」が発散できた。初めての刑務所は、20歳を過ぎて間もないころ。当時は結婚して子どももいたが、産後うつに悩まされていた。夫は違法薬物を使用し、マナさんに暴力をふるった。盗みに走るようになり、夫と離婚。我が子とも引き離された。



仮釈放後は、依存症回復支援施設に入所。アルコール依存症の回復を目指そうとした。しかし、施設から抜け出し、新宿のネットカフェで生活を始めた。仮釈放は取り消された。



その後も盗みに走っては、刑務所の出入りを繰り返した。出所後に手持ちの金がなくなり、生活保護の申請をしようと考えたこともある。申請先までの交通費を工面しようと書籍数点を盗み、古本屋で買い取ってもらおうとした矢先に逮捕されたこともあった。



●歌舞伎町に求めた救い 盗みは止まらなかった

2度目の受刑以降は、出所後のことを考えると不安に駆られた。3度目の受刑中は、毎日のように自傷行為を繰り返していた。刑務所内の人間関係にも悩まされる日々だった。



社会に戻っても、行くあてがない。仕方なく向かった先は、東京・新宿の歌舞伎町。ネットカフェで生活したこともあれば、トー横キッズの話を聞き「私よりもつらい境遇の子たちがいる」とこころを痛めたこともある。





歌舞伎町に行けば「出会い」があり、生きていくことができた。2度目の出所後は、ここで出会った男性と2度目の結婚をしたが、長続きせずに離婚した。3度目は、別の男性と同棲を始めた。夜はキャバクラ嬢として働いた。



「指名はそれなりにいただいていました。私の歌が好きと言ってくれるお客さんが多かったです。ただ、同棲している彼は朝早くから仕事だったので、すれ違いの毎日でした。給料もほとんど彼に巻き上げられて、生活も苦しかった」



病気の症状が出ても、彼は助けてくれなかった。自分で自分をコントロールすることもできなかった。ストレスが溜まると、盗む。スリルを求めてしまう。今回もそうだった。約2300円分の菓子を万引きして逮捕され、常習累犯窃盗罪で起訴された。3度目の出所から3カ月も経たないうちの出来事だった。



「明日は判決だから、どうなるか不安で…」。マナさんは、最後にこうつぶやいた。すでに被害店舗には弁償し、示談も成立している。しかし、刑務所に行く覚悟を決めなければならなかった。



●裁判所「頼るべき人を頼って」

東京地方裁判所は2023年1月、マナさんに懲役2年の実刑判決を言い渡した。求刑は3年6月だったが、示談金が支払われていることなどから減刑となった。



弁護人は、マナさんが両親の愛情を十分に受けられなかったこと、クレプトマニアや愛着性障害などの持病があること、同棲相手に報酬を取り上げられて金銭的に余裕がなかったことなどを主張した。弁論では「刑事施設に収容することによる処罰は本来的に適合するものではない」とし、早期に適切な社会的治療を受けさせる必要性を述べていた。



司法は、マナさんを「犯罪(窃盗)を繰り返す女性」として裁いた。今後、彼女は刑務所に送られることになる。裁判官は「更生の機会が与えられたにもかかわらず、3カ月以内に犯行に及んだこと」から常習性を指摘。最後に「頼るべき人を頼って、2度と犯罪を犯さないようにしてください」と述べた。



出所後の引受先は、受刑者や出所者の支援をおこなうNPO法人マザーハウスだ。理事長の五十嵐弘志さんは「依存症の専門家などとも連携して、支援にあたりたい」と語る。