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岡口裁判官の不適切投稿めぐる訴訟、原告側が控訴 一審勝訴も「納得いかない部分があった」

2023年02月10日 14:31  弁護士ドットコム

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仙台高裁の岡口基一裁判官(職務停止中)のネットへの不適切投稿をめぐる訴訟で、3つある投稿のうち1つのみが名誉毀損に当たるとして、岡口裁判官側に44万円の賠償を命じた東京地裁判決を不服として、女子高生殺害事件の遺族が2月10日、控訴した。


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原告の岩瀬正史さん、裕見子さん夫妻は「一番問題視していた『洗脳発言』については妥当な判断をしてもらったが、どうしても納得いかない部分があった」などとするコメントを発表した。



岡口裁判官はこれらの投稿をめぐり、裁判官をやめさせるかどうか判断する弾劾裁判にもかけられている。



●訴訟の概要

岡口裁判官は、岩瀬夫妻の次女・加奈さん(当時17)が殺害された事件をめぐり、以下のような投稿をおこなった。




(1)刑事裁判の判決文のURLを貼った上で、ツイッターに「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男 そんな男に無惨にも殺されてしまった17歳の女性」と投稿



(2)両親が岡口氏が当時所属していた東京高裁に抗議した後の2018年10月、ブログに「遺族には申し訳ないが、これでは単に因縁をつけているだけですよ」と投稿



(3)2019年11月12日、フェイスブックに「遺族の方々は、東京高裁を非難するのではなく、そのアップのリンクを貼った俺を非難するようにと、東京高裁事務局などに洗脳されてしまい、いまだに、それを続けられています」と投稿




東京地裁(清野正彦裁判長)は1月27日の判決で、「裁判官という司法作用に直接携わる公的立場にあった者として、〔……〕一般のSNS利用者とは一線を画す影響力を有していたとみられるのが相当であって、拡散範囲ないし影響力は、比較的大きかったものと推認される」などとして、(3)の「洗脳投稿」について名誉毀損を認めた。



岡口裁判官はすでに控訴しないと発表しており、高裁では(1)と(2)の投稿について争われる。



●遺族はどこに不満があるのか

(1)の投稿について、東京地裁判決は、裁判官の義務に違反する不適切な行為とはしたものの、岡口裁判官にも一般国民としての表現の自由が保障されているなどとして、不法行為とまでは認めなかった。



この点について岩瀬さん夫妻は、投稿への抗議に対し、東京高裁を通して、岡口裁判官が事件に関して二度と投稿しないことや、真面目な投稿を心がけると反省していた旨を聞いたとして、約束が何度も反故にされたと強調。すべての発端になった投稿について、裁判官の職責などの観点から、判断の見直しを求めたいとした。



また、(2)の投稿については、投稿が削除されていることなどから、東京地裁は岩瀬さんたちに向けた投稿だとは認めることができないとした。この点についても、「遺族」が自分たちであることは明らかだとして、高裁の判断を仰ぎたいとした。



●岡口裁判官の謝罪の言葉、信じられない遺族

夫妻のコメントには、岡口裁判官のふるまいについても触れられている。



裕見子さんは、「もちろん旅行に行くのも自由ですし、投稿自体に違法性があるわけではありません」と断わりながら、次のように記した。



「私たちが尋問を受ける日の岡口氏のSNSの投稿には、翌日から温泉旅行に行くので、PCRの陰性証明をとりにいってくる、という内容でした」



正史さんも次のように憤る。



「心から謝罪したいと本当に思っているのであれば、一度たりとも自身の裁判に出廷もせず、証人尋問の当日にあのような投稿ができるはずはありません」



実際に岡口裁判官側にどういう意図があったかは分からない。ただ、岡口裁判官が「洗脳」投稿をしたのは、次女・加奈さんの命日だった。岡口裁判官は1月31日に発表した声明で「(遺族に対し)改めてお詫びの意を表する」としたが、遺族は今もなお岡口裁判官から揶揄・挑発されていると感じている。



「犯人を憎むだけで済むはずだったものを、刑事裁判では被告弁護人には心をえぐられるような弁論を聞かされ、上告の際の被告弁護人にも傷つけられ、今は高裁の判事(編註:岡口裁判官)とそれを擁護する人たちにも心を乱されている日々です」(正史さん)



現在審理されている弾劾裁判では、今後夫妻の証人尋問も予定されている。