トヨタのヤリ-マティ・ラトバラ代表は微笑んでいた。彼は自分がうわさをされたことを知っていた。彼の考えていた計画は露呈していたのだ。
セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリス・ラリー1)とカッレ・ロバンペラ(トヨタGRヤリス・ラリー1)がワン・ツー体制を築いたまま迎えたラリー・モンテカルロ最終日の前夜、陽気なフィンランド人と話すなかで、彼は熱心に意見に耳を傾けていた。
もちろん、オジエはこのイベントで優勝するはずだ。彼は優勝に値する走りを見せ、実際にオジエはそれを掴んだ。この勝利を、2022年モンテカルロの最後の瞬間に起きたパンクによって彼から奪われたものの“見返り”とみなす人もいるかもしれない。
■狙いどおり? のワン・ツー・フィニッシュ
モンテで8回の優勝経験を持つオジエとのギャップを縮めていた現世界王者のロバンペラは、一度ペースを緩めて総合2番手を維持し、最終パワーステージで「プッシュしまくれ!」と言われていたのかもしれない。なぜなら、パワーステージで得られるボーナスポイントはオジエのパートタイムプログラムにはほとんど意味がないためだ。
「それがマスタープランのようだ」とラトバラはにやりと笑って言った。
17時間後、オジエはラリーで優勝し、2位となったロバンペラはパワーステージで最速タイムを刻み満点の5ポイントを獲得した。
ラトバラ代表が描いた“マスタープラン”そのものだった。
オジエの堂々たる姿、そしてWRC初優勝を飾った彼のコドライバーであるヴァンサン・ランデのパフォーマンスを見たサービスパーク内の中立な立場の人々は少なからず8度の世界チャンピオンであるオジエは「またフルシーズンを戦うべきだ」と声を上げていた。しかし、そうはならないだろう。
その代わりに、シーズンの戦いはロバンペラのタイトル防衛に焦点が当てられることになると考えられる。それは並外れたパワーと強さから始まった。ロバンペラは走行順が1番手となる金曜日に大量の塩(凍結防止剤)がまかれたフレンチアルプスを通過する際、グリップの低さに苦戦していなければ、間違いなくオジエとの差を詰めることができただろう。
モンテカルロではオジエがトップに立ったが、現実にはロバンペラがすでに8冠王者の前に出ていると見ることもできる。
■印象的だった勝田貴元のシーズン開幕戦
ライバルを上回るという点ではTOYOTA GAZOO Racing WRTも同様だ。4台のファクトリーGRヤリス・ラリー1は18SS中16本のステージでベストタイムを記録し、開幕ラウンドで全車がトップ6に入った。エルフィン・エバンスが総合4位、勝田貴元は同6位となっている。
金曜日にタイヤのパンクによって後退したエバンスだが、彼はアクシデントが起こる直前まで先頭集団内の2番手にいた。その後も好ペースをみせて順位を挽回した彼は、2023年シーズンの台風の目となるかもしれない。また、昨季は未達成に終わったラリー1カーでの初勝利にも期待がかかる。
今季、ワークス昇格を果たした勝田のスタートもかなり印象的だった。最終ステージ直前のSS17では2番手タイムを記録した彼は、時間をかけてセットアップに取り組みマシンの経験と理解をより深めていった。当然、勝田自身は開幕戦の週末にさらに多くのことを望んでいただろうが、トヨタチームは彼の成績に満足していた。そして彼がこの先の1年に向けて、良い土台を築くことができたと考えている。
■ライバルチームはトヨタの脅威となり得るか
これからの1年については、まずは次戦第2戦ラリー・スウェーデンを見据えるとふたつの大きな疑問がある。ヒョンデはトヨタの覇権の脅威になるだろうか。そしてMスポーツ・フォードのオット・タナクは?
シーズンの第1ラウンドについての妥当な見解は、トヨタはオフシーズン中にアスファルトラリーにおいてもっとも進歩していたということだ。しかし、ティエリー・ヌービル(ヒョンデi20 Nラリー1)の3位表彰台獲得と土曜日に彼がふたつのSSでステージ優勝も飾ったことは、ヒョンデ・シェル・モビスWRTが2023年もチャンピオンシップにおいて大きな存在であることを示している。
なお、チームメイトのふたりはモンテでは苦戦を強いられた。トヨタからヒョンデに移籍してきたエサペッカ・ラッピはi20 Nラリー1に馴染むのに時間が掛かっており、ベテランのダニ・ソルドはハイブリッドのトラブルに悩まされた。
さて、タナクだが、ヒョンデから古巣であるMスポーツ・フォードWRTに復帰した彼に何が期待できるだろうか。手短に言えば多くのことをだ。彼の落ち着いたスタートにだまされてはいけない。それは部分的な戦術とパワーステアリングの小さなトラブルによるものだ。
Mスポーツ復帰戦で総合5位となった2019年チャンピオンが、フォード・プーマ・ラリー1に乗ってやるべき作業は数多くあることは事実だろう。だが、タナクとマルコム・ウィルソン(Mスポーツ創設者)は日曜日の午後にはふたりそろって微笑んでいた。この5年間が空白がまるでなかったかのように、ファミリーはふたたび結集したのだ。
ラリー1規定2年目のシーズンとなる2023年。まずはトヨタが一歩抜け出た印象を残した開幕ラウンドだったが、次のイベントではどんな結果が訪れるのか、シーズン唯一のフルスノーラリーとなる第2戦ラリー・スウェーデンを待つとしよう。