2023年02月07日 10:01 弁護士ドットコム
離婚が成立した際、慰謝料や養育費、財産分与などについて、夫婦の間で合意したことを証明するために、公正証書を作成することがあります。公正証書は公証人が作成するもので、公文書として法的効力を持ちます。
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この公正証書にどのようなことを盛り込むかは、夫婦の間で決めることになりますが、ツイッターで最近、「公正証書に『今後問題が起きた時には話し合いをする』という一文を入れてはいけない」というウワサが広まっていました。
その理由は、「この一文が入っているだけで、養育費の支払いが止まった際に、当事者間の話し合いでまずは解決してくださいと言われてしまい、相手の給与差押ができなくなるから」とのこと。しかし、このウワサ、本当なのでしょうか。
離婚問題にくわしい村上真奈弁護士に聞きました。
「『今後問題が起きたときには話し合いをする』という一文を入れたことを理由に、強制執行ができなくなることはありません」
村上弁護士はまず、ネットのウワサを否定します。一方で、公正証書に入れておいたほうが良い文言は別にあるといいます。
「強制執行できるかどうかは、公正証書に(1)『強制執行認諾文言』があるか、(2)お金の支払いについて 『金額や支払時期が特定されているか』などで決まります。
『強制執行認諾文言』とは、公正証書で決めたお金の支払いについて、債務者(お金を支払う人)が、支払いが滞ったときに、公正証書によって強制執行を受けることを承諾した、と公正証書に明記する文言をいいます。
過去にご相談にのった方で、ご本人同士で作成した公正証書をお持ちだったのですが、『強制執行認諾文言』を入れていない方がいました。『強制執行認諾文言』がないと、公正証書で直接、強制執行することはできません。
もちろん、公正証書で決めた内容の意味がなくなるわけではないのですが、強制執行するためには、「再度、強制執行認諾文言を入れた公正証書を作る」「民事訴訟を提起する」または「調停を申し立て、調停調書または審判書をもらう」ことなどが必要になってきます。
また、強制執行認諾文言があっても、金銭の支払いについて、具体的な金額が記載されていなかったり、支払時期が決まっていない場合も強制執行できません」
では、「今後問題が起きたときには話し合いをする」という文言は入れておいたほうが良いのでしょうか。
「そのときのご当事者の関係性や将来のことを考えて、入れるかどうか決めるといいと思います。将来、話し合いができそうな関係で話し合いたい気持ちが強ければ入れる、できる限り話し合いの可能性を少なくしたければ敢えて入れないということです。
ただ、公正証書に『話し合いをする』と記載しなかった場合でも、お互いの状況が変わったときに、話し合いをしなくていいと決まったわけではありません。
特に、養育費は、長期間の支払いであるため、将来お互いの状況、お子さんの状況が変わること(失職、再婚、進学、病気など)はよくあります。
現実的には、離婚される場合、将来的に話し合いが難しいことがほとんどですので、将来の話し合いをできるだけ回避するために、たとえば、お子さんの年齢や進学の段階に合わせて段階的な養育費の金額にしておく、再婚時の対応を決めておくといった工夫があってもいいと思います。
公正証書は公証人が作成してくれますが、ご本人同士の合意をベースにしており、どちらかに有利に作ってくれるわけではありません。法的に看過しがたい重大なミスは指摘してくれることが多いですが、ご本人同士が合意しているならと、そのままの内容になることもあります。
一度作った公正証書の内容を覆すことも大変難しいです。作成前には弁護士にご相談されることをおすすめします」
【取材協力弁護士】
村上 真奈(むらかみ・まな)弁護士
千葉県弁護士会所属。夫婦・親子問題に特化した事務所を運営。これまで4500件以上の離婚相談に対応し、全国でも有数の取扱件数を誇る。「一歩前に進める」離婚相談が好評。他の弁護士からの紹介案件も多い。
事務所名:弁護士法人とびら法律事務所
事務所URL:http://www.tobira-rikon.com