2023年02月05日 08:21 弁護士ドットコム
近年、いわゆる「萌え絵広告」がネットで炎上することが増えています。女性キャラクターの露出度の高い衣装や胸などのパーツを強調したような絵柄が批判の対象になることが多いようです。
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こうした表現を不快に思う人が一定数いることは十分理解できます。ただ、一部の批判の中に「性の商品化」や「性的搾取」、「女性差別」といった言葉が使われていることについては気になる部分もあります。これらの批判は1つの衣装・ポーズ・構図に限らず、キャラクターや作品全体に向けて使われることもあるようです。
筆者はアニメやゲームのキャラクターに扮するコスプレイヤーを数多く取材しています。もしも「萌え絵」が搾取や差別なのだとしたら、そうしたキャラクターの格好をするコスプレイヤーは進んで性を売ったり、搾取や差別を受け入れたりしているということにならないでしょうか。
極端なローアングルや接写など、コスプレの現場に一部、「性的」なものを過度に強調するカメラマンやコスプレイヤーがいることは事実です。一方で「露出=性的搾取、男性向け」などの単純化が進むと、作品を愛好する女性の存在をないものとしてしまうことにもなりかねません。
露出度の多いキャラクターをどう見ているのか、どうしてそういうキャラクターのコスプレをしようと思うのか――。8人の女性コスプレイヤーに尋ねてみました。(ライター・乃木章)
露出が多いコスプレはしないというコスプレイヤーもいるのですが、昨今はグラビア雑誌で水着衣装などのコスプレイヤーを見かける機会が増えたこともあり、読者の皆さんには「コスプレ=露出」というイメージの人も多いのではないでしょうか。まずはどうして露出の多いコスプレをするのか、抵抗はないのかを聞いてみました。
代表的だったのは、そのキャラクターが好きだからというもの。また、「露出が多い=衣装がシンプル」ということで、コスプレをしやすい側面もあるようです。
「そのキャラのコスプレをするかどうかは、作品のストーリーや世界観、キャラクターの性格や声など、総合的に見て判断します。肌の露出やエロは結果としてたまたまそうなったというだけです。ダイエットや筋トレ、食事制限を頑張ってキャラに近づけようとしますし、スタイル維持の原動力にもなります。ただ、一番大きいのは、流行りのコンテンツのキャラに、露出の多いデザインが増えて、ユーザーからも好まれている点だと考えます。また、複雑な衣装は値段が高いか、売っていないことが多いので、自作できない人にはコスプレができないのもあると思います」(Aさん)
「素敵だと思ったイラストの再現ができると嬉しい。あるいは再現できる自信があるからでしょうか」(Bさん)
「ギャルゲや同人誌などをよく見るから、露出があるものには萌える」(Cさん)
あくまでもキャラの再現なので、露出が主目的にならないようにしているという声もありました。実際、原作にない露出多めの衣装は、「フェチ系」と別ジャンルで括られたり、批判されることが多いです。
「そのキャラがその衣装をしているから。露出のあるキャラをやる場合は、フェチだと思われないようにかっこいい系でまとめたり、衣装やメイクのこだわりをツイート内に記載したりするなどして工夫している」(Dさん)
「自分もランジェリーや露出のある衣装を着ることもありますが、原作にない性的な捏造衣装や表現はしないように気をつけています。自分のフォロワーさんに未成年の方もいらっしゃると思うので、さわやかなグラビアや表現の一つとして、作品として見てもらえるよう、過激にならないように配慮しています」(Eさん)
オタクイベントに参加しているコスプレイヤーですが、一般の方がSNSで目にする機会が増えています。とくに近年は、コスプレイヤーのフォロワー数が増えやすい傾向にあり、オタク層にとどまらない関心の高さが伺えます。
そのため、注目を得る狙いもあって、露出が促されているようです。この点については、萌え絵が広告に使われることや、度々炎上していることとも関係がありそうです。
「私はしない身ですが、露出をするコスプレイヤーは注目を浴びるのが好きだからというのと、キャラや作品が好きで表現したいものがあるからというのの、大きく分けての2パターンあると思います。前者については数字がつきもののSNSで、露出のインプレッションが伸び続ける限り、仕方ないことだと思います」(Fさん)
「私自身、上品に見える露出に抑えているつもりなので当てはまるかわかりませんが、ツイッターのバズやフォロワー増やしではないかと思います」(Gさん)
「ツイッターやインスタグラムの反応も良いし自分自身も適度な露出が好きだから。見せるために身体を作っている身としてはある程度の露出がある方がありがたい」(Hさん)
昨今のSNSでのインプレッションを鑑みるに、露出が多い衣装のほうが良い数字が反映されます。また、コスプレイヤーによっては、同人写真集やファンティアなどで写真を販売しているため、数字や売上を求める上で露出衣装を選択するコスプレイヤーはいるでしょう。
一方、全身タイツやシリコンバストというアイテムが普及したことで、肌を晒さずにコスプレをできるようになりました。そのため、それまで露出を避けていた人も好きなキャラの衣装をやってみたいコスプレイヤーは、その思いを具現化しているのでしょう。
では、そんな露出多めのキャラは、コスプレイヤーにとって単なる「エロ」なのでしょうか。まずは露出が気にならない、あるいは肯定的という意見から紹介します。
「エロ可愛い、エロカッコいいと思います。エロも含めてキャラクターのことを好きになったり、嫌いになったりします。曲線美や肌つやなど、エロくても美しい、可愛い、私もああなりたいと思えば、憧れになります」(Aさん)
「R18作品でもない限り、アニメや漫画を読み進めると、キャラの背景やギャップで萌える部分が多いので、可愛いと思うことが大半です」(Fさん)
「可愛いと思うしエロいとも思う」(Cさん)
「えっちだなと思う20%、可愛いと思う80%」(Hさん)
当然、二次元なら何でも良いというわけではなく、デザインなどによっては露出が下品に感じられることも。以下のような意見は、ポスターなどの広告に対する否定意見にも通じる部分がありそうです。
「可愛らしければ可愛いと思いますし、下品なポーズですと性的に見えます。絵柄や構図などによるのかと思います」(Gさん)
「イラストが上手い、タッチが素敵、衣装やキャラデザインにオリジナリティがあると素敵だと思います。しかし、黄金比から離れている、バランスが悪いと素敵なイラストではなくなる」(Bさん)
「二次元でないとできない表現で可愛く描かれているキャラを、『可愛い』と思うことは多いです。TPOは大事だと思っていて、年齢制限のある作品の中で表現できることと、一般的に見られる場所での表現は異なるので、自分の気持ちやコンディションによって行き過ぎた露出を見てしまうとびっくりすることはあります」(Eさん)
「作品やキャラによる。露出があっても異性に媚びないキャラであれば、芯の強さを引き立たせているという見方もあるので、すべてを一括りにするのは違うと思う」(Dさん)
基本的には「可愛い」「エロい」と感じた上で、コスプレイヤーごとの露出基準に従ってコスプレするかどうかを決めるのがうかがえます。
この点は、コスプレイヤーごとの活動スタイルや本人の審美眼、ルールに基づいて線引きしているのでしょう。実際に、同じ露出寄りの衣装を着ていても、写真の見せ方次第で印象が変わることもあります。
「性の商品化」という言葉についての意見も聞いてみました。イラストや動画でも「性的消費」や「性的搾取」などと批判されるご時世。それを再現するコスプレイヤーを「露出狂」のように見る目も少なからずあります。
「好きでキャラクターのコスプレをしている人にとっては『性の商品化』という言葉で十把一絡げにされては迷惑被る話だと思います」(Fさん)
「『性の商品化』という単語は分からないです。自己表現の自由と思います、他人の価値観で強要されるものではないと思います」(Cさん)
「『コスプレイヤー=露出が多い』と一括りにされることはつらいです。造形や縫製が得意、セクシーな体作りと魅せ方が得意、世界観を作るのが得意、ネタコスが得意など、様々なジャンルのコスプレイヤーがいて、皆それぞれ頑張っているので。世間がそれぞれのプロフェッショナルに敬意を払ってくれるまで理解が進むといいなと願います」(Eさん)
仮に「性の商品化」だとしても、ネガティブに捉えなくて良いのではという意見もありました。
「実際収入に繋がっている人は商品といえば商品なのかと思います。『言い方はどうなのかな?』と思いますが間違ってはいないかと」(Gさん)
「本能に訴え、売れるから商品になるのだと思います。あとは宗教のようなもので何を正義に思うかは人によるんじゃないでしょうか」(Bさん)
「三大欲求に含まれるくらい性って大事なことですし、『性の商品化』と言われても私は別に嫌じゃない。大体のユーザーが性的な目で見ているのは理解しているし、それを理解した上で供給を合わせにいっている面はあるので」(Hさん)
一方で供給後の悩みもありました。受け手が過度に「エロ」なものとして受け取ってしまうケースです。
「『性の商品化』って、悪意を感じる言葉だなと感じます。コスプレに限って言えば、私は好きなキャラクターの衣装を作るところからコスプレを楽しんでいるので、コスプレを『性を商品化』しているコンテンツだとは言って欲しくありません。一方で、アニメや漫画を何回も見て、友達と好きな場面を語り合って、布から選んでこだわって作った衣装を着ているのに、それらには見向きもされず、偽であっても(シリコンの)胸や、お尻だけを見て『いいね』されるのはなんとも耐え難いものがあります。見て欲しいのはそこじゃないんです。キャラクターの魅力そのものに思いを馳せて欲しいなと思います」(Aさん)
なお、広告表現については、以下のような意見もありました。
「露出しているキャラがすべて性として消費されているわけではないと思うが、未成年のキャラが露出しているのは『性の商品化』と捉える人も出てくるのではないかと思う」(Dさん)
SNSのインプレッション稼ぎや写真集などの売上を高めるために露出をするコスプレイヤーにとっては、「性の商品化」と捉えられても仕方がないという意見があり、実際にコスプレイヤーが想定する以上に、性的な視線が注がれることもあるようです。この点は業界や見る側の課題とも言えるでしょう。
ただし、大前提として好きなキャラに近づくための衣装作りや肉体作りといった努力があるので、一括りにされることに対する不快感を感じる人が多い印象です。特にキャラ愛の強い人にとって、作品そのものや露出することを「性の商品化」と括られるのは大きな苦痛と言えそうです。
ちなみに、東南アジアなどのイスラム圏でも、日本の女性キャラは人気があります。宗教上の理由から実際に露出はできないので、頭や体を覆う布をウィッグに見立てた「ヒジャブ・コスプレ」が流行っています。露出せずにどれだけキャラに近づけられるかを真剣に考え、楽しんでいるのです。もちろん、その中で多くのインプレッションを獲得しているコスプレイヤーを見かけることもあります。
ある表現について、公共の場に出すのが適切かどうかという議論はあって良いと思います。ただ、そこでの言葉の選び方によっては、「抑圧」につながりかねない懸念があります。また、作品が正当に評価されづらいラベルが貼られてしまう危険性もあるでしょう。この辺りはもう少し意識されても良いかもしれません。