2023年02月04日 10:01 弁護士ドットコム
事件性のある人間の骨が、引き取り手なしとされた場合、還付不能として、押収物還付公告に記載される。供養の気持ちで扱われるべき骨は、ときには電車に置き去りにされたり、ぞんざいな扱いを受ける。そうした「事件に巻き込まれた骨」が現れる背景について元検察官が解説する。
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「押収物還付公告」とは、事件で押収された物の受還付人(引き取り手)が見つからない場合などに、刑事訴訟法にもとづいて、検察や警察が公告するもの。
官報に記載されたり、各検察庁の掲示板に掲示される。捜査機関が押収した違法薬物や扱うための道具などはよく目にするだろう。
珍しいところでは、窃盗事件の「野球グローブ60個」や、風俗店の絡んだ事件で「ローション」などが押収物として記載される。窃盗事件の「現金約5200万円」なども還付不能として公告された。
公告した日から半年以内に引き取るべき人が見つからないときには、押収物は国庫に入れられる。ただ、半年の期限をまたずとも、価値がなかったり、保管に困ったりするものは、廃棄されたり、公売に出される。
さて、この押収物還付公告に、よく「人骨」や「骨壷」が出現する。
たとえば、今年1月6日の官報にも、鹿児島県出水署の署長の名前で、死体遺棄被疑事件で押収された物として、ある男性の氏名が記載された「骨壷」が公告されている。
またあるときは、「骨壷1個と骨若干」(遺骨遺棄事件・21年11月15日付け官報)、「遺骨2袋」(遺骨等遺棄事件・22年10月17日付け官報)
同じ骨であっても、孤独死や事件性のない遺体や遺骨であれば、官報の「行旅死亡人」欄で公告される。
では、押収物還付公告に掲載された「骨」には、どのような背景があるのだろうか。元東京地検検事の西山晴基弁護士が解説する。
数年前から、「遺骨」の入った「骨壺」が電車の網棚の上や、コインロッカー、駐車場、神社の施設内などに放置される事例が増加しています。
2017年の毎日新聞によると、2013年~2016年までの3年間で、落とし物として全国の警察に届けられた「遺骨」は203件あり、その8割以上は落とし主が見つからなかったようです。
そうした「遺骨」が入った「骨壺」は、埋葬証明書等の身元を特定できる書類が除かれた状態で置き去りにされていることが多く、誰かが意図的に放置したものです。
このように「遺骨」を墓地に埋葬するなど適切な方法によらずに処分する行為は、死体遺棄罪として刑法190条で禁じられており、3年以下の懲役に処される可能性があります。過去には「遺骨」を放置した者が特定され、逮捕に至ったケースもあります。
遺骨が放置される背景には、大きく2つの要因が考えられます。
1つ目は、経済的困窮です。経済的に貧しく、遺骨を埋葬するためのお墓を用意できないなどの理由から、「忘れ物」「落とし物」を装って置き去りにするケースが多いようです。
2つ目は、疎遠となった親族関係があげられます。疎遠になっていた親族や関係性が悪くなっていた親族の遺骨である場合、家族や親族がその遺骨の引き取りを拒否するケースが増えている一方、引き取ったものの「やっぱり保管し続けたくない。だけど、費用をかけてまで処分したくない」という気持ちから放棄するケースもあるようです。
また、配偶者の遺骨を保管してきた高齢者が、自分の死後に「子どもに迷惑をかけたくない」などと思い、その遺骨を放棄する事案もあるようです。
先ほどお話したとおり、置き去りにされる遺骨は、身元がわからないようにして放置されていることが多く、放置した人がわからないままになってしまうケースが増加しています。
このような遺骨は、返還すべき相手もわからないため、還付手続きができません。そのため、身元不明の遺骨は最終的に、警察が、寺院や自治体に引き取りを依頼し、無縁仏などとして供養されているようです。
【取材協力弁護士】
西山 晴基(にしやま・はるき)弁護士
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/