コロナ禍のキャンプブームなどによって好調のアウトドアブランドだが、各社で「女性客からの支持」を次なる課題として抱えている。ブームによって認知度は向上したものの、購入者の男女比率では9割以上が男性といったブランドも少なくない。各社が女性へのアプローチを強化しているが、アウトドアブランドの強みである機能性を求める人が多い男性に対して、女性はデザイン性を重視する傾向が強いことから、“アウトドアブランド=男性”というイメージが根付いており、大きな障壁になっているという。そんな中、ウィメンズやキッズなど新しい市場で支持を集めているブランドの代表例として名前が挙がるのは「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」だ。
実際にザ・ノース・フェイスは、女性の購入者がメンズ・ユニセックス品番を含めると3割を超えるという。ゴールドウイン事業本部ザ・ノース・フェイス事業一部の宮﨑浩氏は「引き続き女性の支持率を広げていきたい」と女性客の獲得には更に力を入れていくそうだが、ザ・ノース・フェイスの売上規模を考えると他社のブランドと比べて女性からの支持を得ていると言える。その理由を深堀りする。
ザ・ノース・フェイスは、10年以上前の2011年3月にアウトドアブランドとしては異例の女性向け業態「THE NORTH FACE 3 (マーチ/march)」を原宿にオープンした。当時は“山ガール“というワードが流行し、アウトドアブランドを着用する女性が急増したタイミングだった。宮﨑氏は「アウトドアブランドでウィメンズだけのショップなんて確実に失敗するといった声も多かったんですが、このままでは女性のアウトドアが一過性のブームになってしまうという危機感がありました」と当時について振り返る。2011年頃は、現在の他社アウトドアブランドと同様に女性の購入者数が全体の1割程度だったそうだが、ショップでのイベントや、メディアを通した情報発信などに注力し、購入者数を増やしていった。
また、女性客の獲得に成功した理由として宮﨑氏はコレクションの多角化についても言及する。「色々なところで女性のタッチポイントを増やし続けた」と言うように、ザ・ノース・フェイスは本格アウトドアウェアのほか、ランニングウェアやフィットネスウェアなど幅広いウィメンズアイテムを展開している。2019年にはマタニティラインをスタートし、2021年に初の抱っこ紐を発売。アウトドアとマタニティはカテゴリーとして一見かけ離れているように見えるが、新しいことに挑戦し革新性を求めるブランドパーパスの観点からトライする価値があると判断して製作に至ったそうだ。抱っこ紐のディテールはトレイルランニングのバックパックを参考に開発。企画チームにはこれまで培ってきたテクノロジーやアイデアで“それまでの市場にはない良いもの”が作れるという自信と情熱があったといい、「新しい素材を開発することも、見たことがない景色を見るためにハイスペックな商品を作ることも、妊婦や育児中の親をサポートするためにマタニティアイテムを開発することも全て同じ“ブランドとしての使命“という考えがあります」と宮﨑氏は説明する。実際に販売を開始すると、想像以上の反響を呼び、公式オンラインサイトでは再入荷しては即完売を繰り返す状況が続いた。現在はヌプシジャケットのフロントジップに取り付けることができるブランケットなど、ユニセックスのマタニティウェアの開発にも力を入れている。