トップへ

「日々是闘争」カラフルスーツを戦闘服として向かう久保利弁護士の矜持

2023年02月03日 10:11  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

「弁護士は勝ってナンボの世界でしょ。毎日が闘いなんだ。自分にとって元気が出るものを着て挑むのは当たり前です」


【関連記事:夫のコレクションを勝手に処分、断捨離の「鬼」となった妻たちの責任】



色黒な肌によく似合う、目にも鮮やかなグリーンのダブルのスーツで出迎えてくれた久保利英明弁護士。薬害スモン訴訟、ニッポン放送事件、1票の格差訴訟で9回の最高裁大法廷弁論…数々の有名事件にかかわり、NTTやJR東日本の株主総会から総会屋を排除したとして、その名を不動のものとした。法曹界でクボリの名を知らない者は、モグリだと言われる。



自らの仕事を「闘争業」と称する78歳の名物弁護士に、服装にかけるポリシーを聞こうと日比谷パーク法律事務所を訪ねた。ファッション談義から生まれたのは、聞く者を奮い立たせる彼の人生訓だった。





●色を選ぶ基準は「元気が出るかどうか」

弁護士ドットコムでは、会員の弁護士にファッションに関するアンケートを実施。おしゃれだと思う弁護士として複数の声が上がったのが、久保利氏だ。その結果を伝えると「黒い服だけ着てて何が楽しいの? 服を含めて自分でしょ。これから闘おうっていうのに鎧兜をつけない武将はいないよ」とばっさりと答えた。



ピンク、オレンジ、ボルドーと、1シーズンに数十着を着回し、会う人たちを楽しませる。20年来の秘書も「お客さまから『今日の先生は何色?』なんて尋ねられることもあります」と明かす。



すべてオーダーメイドで、生地や裏地、ボタンなどを持ってくる代々の「お抱え洋服屋さん」がいる。今は「塩爺」と呼ばれる70代の男性。イタリアの有名ブランドで鍛えた審美眼に、久保利氏も全幅の信頼を置く。





この日はオレンジや赤、青の花が散りばめられたVITALIANOのネクタイと、薄いオレンジ色のYシャツ、金のカフスボタン、緑色のクロコのローファーを合わせた。



こんなに種類があったら、毎日のコーディネートにさぞ悩むのでは?



「すぐですよ、5~10分程度。明日は裁判でスカッといきたいから、ブルーでいこうとか。乾坤一擲。自分が元気の出る格好にします。考えるのは楽しいし、力もわいてきます」



講演もその日の聴衆にとって説得力を増すような色や柄はどんなだろう、目立つようなラメ入りもいいかななど考えを巡らせる。オンラインセミナーは受けない。一回一回が「ライブ」なのだ。





●人とまみえる場は「合戦」、毎回が命懸け

豪快な性格は母譲り。東大在学中の1967年に司法試験合格、すぐに司法修習にはいかずに半年間、アフリカやインドを歩いた。吠えるライオンに囲まれて縮み上がったこともあったという世界探訪は、その後の彼をますます怖いもの知らずにした。



1970~1980年代後半までは、会社更生や倒産案件などを扱い、バブルがはじけた金融危機のころには反社や総会屋対策などに明け暮れた。社長の後ろに控えていると「ヤクザも着ないような服着やがって!」とやじられたこともあるという。



1998年に独立。2000年代以降は、ロースクールの教授のかたわら自ら大企業の社外取締役などに就任し企業のガバナンス意識を定着させる。一方で、1人1票の実現のためにも奔走している。ピンクのスーツを着始めたのは、このころ。これまで持っていない色だからと作ってみたら、しっくりきた。





「戦国武将は色と形を工夫して旗幟鮮明。赤や黒、金、白銀と迫力を出す色を身につけます。クールビズなんてしません。きょうは暑いからと、甲冑を脱いで合戦に行けますか? そんなのは緩い精神そのものです。傍聴人のいない弁論準備手続きだって、緊張感のかたまり。裁判官の質問に当意即妙に答えなければならない」



「日本人はいつから歌舞伎や能衣裳を忘れて目立つのが嫌、となっちゃったのかな。ファッションは自己演出の大事なツールでもある。会津の人に会うから、故郷の風車モチーフのカフスをつけてみようとか。コミュニケーションのきっかけになる。何も考えないで人に会うなんて、もったいない」



はたからどう見えるかではない。久保利弁護士は、ただただ目の前の相手を見据えている。



【久保利先生に聞きたい!】
Q 「日本一黒い弁護士」とも言われますが、なんでそんなに黒いんですか?





A 小学生の時から、毎年夏休み全部を千葉の海岸で過ごしたり、ラグビーや水泳など外にばっかりいた。黒くてつやつやしてないと自分じゃないみたいで嫌なの。ポパイのほうれん草みたいに太陽を浴びると元気になる。



Q いつ休んでるんでしょうか?





A 土日も含めて仕事しちゃうよね。年齢よりも多くの著書を出すことが目標で、今は79冊。夏3週間、冬2週間だけ休んで、コロナ禍でも海外に行って日焼けする。訪問国も170カ国を超えたね。



Q アフリカに旅に出る際「死んでもいいから行ってこい」と見送ったという肝っ玉お母様のファッションの教えはありますか?





A 靴には服と同じくらいお金をかけろと。人と向き合ってお辞儀をした時に最初に見えるのが足元だからだという。



Q 健康に留意していることはありますか?





A 30年前から昼食抜き。10年前から1日夜のみ1食。食べるとぼーっとするでしょ。1日3回もやってたらもったいない。夜は酒をもちろん飲みますよ、ワインが多いね。



小物類は銀座のお店で購入。マスクは洋服屋さんの手作り




【取材協力弁護士】
久保利 英明(くぼり・ひであき)弁護士
1944年、埼玉県大宮市(現さいたま市)出身。第二東京弁護士会会長、日弁連副会長を歴任。社会人からの法曹人口を増やすための活動も展開し、大宮法科大学院大学設立に尽力、同大教授を務めた。近著に「法務の技法シリーズ 経営の技法」(共著、中央経済社) 「破天荒弁護士クボリ伝」(日経BP社)など。
個人HP:https://kubori.jp/
YouTubeクボリチャンネル:@kubori_channel
事務所名:日比谷パーク法律事務所
事務所URL:https://www.hibiyapark.net/