トップへ

森田剛の芝居はなぜ生々しい?ドラマ『インフォーマ』の役づくりにも活かされた、舞台での学びとは

2023年02月03日 09:01  CINRA.NET

CINRA.NET

写真
Text by 原里実
Text by 西田香織
Text by 成馬零一

1月19日(木)から関西テレビで放送中、Netflixでも配信中のドラマ『インフォーマ』。総監督を藤井道人、主演を桐谷健太が務めるクライムサスペンスで、次々にターゲットを襲う謎の集団のリーダー・冴木を演じているのが森田剛だ。

『ヒメアノ~ル』(2016年)では連続殺人鬼、『前科者』(2022年)では元殺人犯など、これまでも影のある人物を演じ高い評価を受けてきた森田。「観る人にとっては似たような役という印象があるのかもしれないけど、ぼくのなかでは一人ひとり、ぜんぜん違う人なんです」——今回の役づくりにはじまり、「想像力が一番大事」と語る演じることへの想いなどをたずねた。

森田剛(もりた ごう)
1979年2月20日生まれ。出演作品に、映画『ヒメアノ~ル』(2016年)、『DEATH DAYS』(2021年)、『前科者』(2022年)などがある。舞台でも精力的に活動し、2022年5月に上演された『みんな我が子 -All My Sons-』にも出演した。

「藤井さんとは撮影が始まる前に、冴木という人物についていろいろ話しました。たとえば、冴木の顔には傷があるのですが、この傷をつくることだったり。……でも意外と、普通が一番怖いですよね」

「普通が一番怖い」とは、森田剛の芝居に一番感じることだ。

現在、森田が出演している『インフォーマ』(カンテレ・フジテレビ系)は、ポンコツ週刊誌記者の三島寛治(佐野玲於)が、「インフォーマ」と呼ばれるあらゆる分野に精通する伝説の情報屋・木原慶次郎(桐谷健太)とともに、東京で起きた殺人事件の真相を追っていく姿を描いた連続ドラマだ。

原作・監修は沖田臥竜、総監督は映画『新聞記者』や、ドラマ『アバランチ』(カンテレ・フジテレビ系)といった作品で知られる藤井道人。裏社会でうごめく人々の姿を描いたダークな社会派サスペンスを得意とする藤井監督の強みが本作では存分に発揮されており、劇中には一癖も二癖もある闇社会の住人が多数登場する。

なかでももっとも異質で、不気味な存在感をみせているのが森田剛の演じる謎の男・冴木である。彼はどうやら殺人を生業としているようで、第1話ではある政治家を拉致監禁し、ガソリンを被せたあと、ガスマスクを被せて外に放り出しライターを投げつけ火だるまにする。

凄惨なシーンの続く『インフォーマ』第1話のなかでも、もっともショッキングなシーンだが、躊躇なく相手を焼き殺す冴木は、どこか自分のやっている行為に対して醒めているようにも見え、何とも言えない虚無的な表情を浮かべている。

森田:いろいろとプラスしてつくっていくというよりも、引き算というか、削ぎ落とした人物のほうがいいんじゃないかと感じて。「からっぽの状態」というのは、自分のなかで意識していました。

数々の強面で屈強な男たちのなかにいて、冴木が一番不気味で恐ろしく見えるのは、彼が何を考えているのかわからないからだろう。2016年の映画『ヒメアノ~ル』以降、森田は視聴者の共感を拒むような理解し難い人物を演じる機会が増えている。こうした人物を、森田自身はどのような距離感でとらえているのだろうか。

森田:観ている人には理解できないような人物でも、自分自身ではきちんとつかめていないと、そこに居られないんですよね。冴木として、ほかの登場人物たちと対峙できない。だから、自分のなかでは落とし込んでます。

冴木には、じつは考えられないような過去があって……それも次第に明かされていくんですけど。そのときの体験っていうのが、たぶん、彼のなかには強烈に残ってるんですよね。その過去に対する想像はめちゃくちゃしました。観ている人に「気持ちの悪さ」を感じさせる、余白を残す塩梅は難しかったですけど、全部伝えるというよりは、その手前で匂わせることが求められているのかなと思って演じていましたね。

冴木が部下とともに、ホテルの一室で依頼人と接触する場面。冴木のテーブルの上には大量のお菓子が置かれている。このお菓子を森田は、藤井道人監督からのメッセージだと受け取ったそうだ。

森田:ぼくなりの理解ですけど……冴木が生きることへの意味を持っていないとか、生きることをあきらめていることや、過去のトラウマとか、そういったものが、あのテーブルいっぱいのお菓子で表現されているんじゃないかと思って。そうするとそれをいつ食べるのかとか、手を出さないのかとか。そういったことを考えるのが面白かったです。

このシーンで印象に残るのは、冴木の目線だ。どこか虚ろで、仕事の話をしている依頼人や部下たちとは何か違うものを見ているように感じる。

第3話までの時点では、冴木の背景は不明で、台詞も決して多くないからこそ、細かい身体の所作に目が向かう。たとえば、空港から降り立った冴木が部下を引き連れて歩く場面では、その歩き方ひとつで「この男は何かがヤバい!」と感じてしまうのだ。

森田の芝居を観ていていつも驚くのは、役ごとに身体のクセや動きが微妙に違うことだ。だから演じる役によって、受ける印象はまったく違う。

森田:最初から「こういうふうに歩こう」と決めているわけじゃないですね。そこに立ったときに、自然とそういう姿勢になっているのが理想です。

演技については前もって考えるのですが、現場に入ったら、あとはただ役に集中します。相手の役者さんのやり方でこっちも変わる、その場で何が起きるかわからないっていうのが、なんかすごく楽しかったりもするし。特に映像では、決められたことをやるというよりは、その場で起こったことに対して感じたことを表現できるのがベストかな、と思ってます。

俳優として高い評価を受けている森田だが、映像作品の出演は驚くほど少ない。そして、昨年の『前科者』、今回の『インフォーマ』と、特殊な環境で育ったがゆえに社会からはみ出してしまった人物を演じる機会が続いている。これは本人の希望なのだろうか?

森田:好きっちゃ好きですよ、そういう役柄は。でも「自分が演じたいから」というよりは「求められるから」というほうが大きいと思います。

たしかに、観る人にとっては似たような役という印象があるのかもしれないけど、ぼくのなかでは一人ひとり、ぜんぜん違う人で。だから自分としてはどうでもいいというか、あまり気にならない。普通のサラリーマンだろうが、今回の冴木だろうが、自分のなかでは変わらないですね。

10代の頃から芸能界で活躍してきた森田だが、演じることにのめり込んだきっかけは舞台だった。特に、2008年にいのうえ歌舞伎☆號『IZO』(作:青木豪、演出:いのうえひでのり)で岡田以蔵を演じたことは、大きな経験だったという。

森田:舞台をきっかけに、芝居を楽しいと思うようになりました。なかでも大きかったのが『IZO』という舞台で。それまでも、芝居に興味はあったけど、戸惑いの方が大きかった。どうしていいかわからない、どう頑張ればいいのかわからないという感じでした。

『IZO』で演じた岡田以蔵って、27、8歳で人生が終わってるんですよね。当時、ぼくも同じくらいの歳で。役柄としても、一生懸命でひとつのことにまっすぐ進んでいく人で、すごくやりがいもあったし……初めて自分を「使い切れた」という感じがしたんですよね。

普通の日常からかけ離れた世界に生きる人物を演じていても、森田の芝居には実在感があり、ザラッとした生々しい手触りを感じる。

森田:やっぱり、舞台の経験が大きいと思いますね。技術的なこと、精神的なこともそうですが、何より「想像すること」が大事だと学びました。たとえば、この台詞にはどういう意味があるのかとか、描かれている俺とお母さんの関係とか、お父さんとお母さんの関係とか……過去のこととか未来のこととか。そういうことを、深く想像するようになりました。

芝居に限らず、普段の生活もそうですよね。言われた言葉の意味を想像することや、自分が感じたことを膨らませることってすごく大事だと思います。

一番大事なのは、「想像力」。役柄に対する想像力が細部まで行き届いているからこそ、森田の芝居は生々しいのだろう。

森田:普段だったら感じないようなことも、役を通してだったら、なんかすごく敏感に感じるんですよ。それは言葉だったり、動きだったり。絶対に、人が相手でないと感じられないことなんですよね。

普段はいろんなことを気にしたり、制限のあるなかで生きて、生活しているけど、演技をしているとそこから自由になる瞬間があって。それがなんか楽しいのかな、と。ほかのものでは代えられないところなのかなと思います。

すでに『インフォーマ』の撮影は昨年の夏に終わっている。昨年の映画『前科者』、そして今年の『インフォーマ』と映像での出演作が増えているなかで、今後についてたずねてみると「舞台で学んできたことを、いまは映像で試してみたい」という。俳優・森田剛の活躍からますます目が離せなくなりそうだ。