2023年02月01日 15:01 弁護士ドットコム
東京・八王子市の東京都立大学キャンパスで、同大教授の宮台真司さんが刃物で襲撃された事件。現場から逃走していた被疑者とみられる男性が死亡していた。各メディアが2月1日、一斉に報じている。
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宮台さんは昨年11月29日、頭などを切り付けられて、全治約6週間の重傷を負った。警視庁は防犯カメラに映っていた男性の画像を公開し、殺人未遂の罪で捜査を進めていた。昨年12月の公開手配直後に自殺したとみられるとする一部報道もある。
被疑者死亡の場合、刑事手続はどのように進められていくのか。元警察官僚で刑事事件にくわしい澤井康生弁護士に聞いた。
――被疑者死亡のケースで、今後の刑事手続は一般的にどのようにされていくのでしょうか?
逮捕や勾留などの身柄拘束はできないので、身柄拘束のない在宅事件と同じように捜査することになります。
まず、被害者の方(亡くなった被害者の方の場合はご遺族)や事件の目撃者への事情聴取をおこなって、参考人供述調書を作成するほか、防犯カメラ映像の入手や、実況見分などによって、事件の全容解明に努めます。
被疑者への捜査としては、身元の確認、親族や勤務先への聞き込み捜査による動機の解明、所持するパソコンの解析、通話やメール履歴の確認、凶器の入手経路、犯行に至るまでの行動、前科前歴や通院歴の確認などの捜査をおこないます。
――被疑者死亡でも、事件は送検されるのでしょうか
警察官は犯罪の捜査をした場合には、例外的な場合を除き、原則としてすべての事件を検察官に送致しなければならないとされています(刑事訴訟法246条)。
犯罪を捜査したあとで被疑者を起訴・不起訴にするかの決定権限は検察官がもっていることから(同247条)、警察が捜査した事件は最終的にすべて検察官に送致しなければならないのです。これを「全件送致主義」といいます。
したがって、被疑者死亡の場合でも、事件を検察官に送致することになります。
被疑者死亡で書類送検を受けた検察官は、警察による捜査に足りない点があれば補充捜査を指示しますが、最終的には被疑者死亡により不起訴処分とします。被疑者が死亡した場合には訴訟条件が欠け(刑事裁判にかけるための要件がなくなってしまう)、たとえ起訴したとしても公訴棄却となるからです(同法339条4号)。
ーー被疑者が死亡することによって、どのような問題が考えられますか
被疑者本人の供述をまったく得られなくなるので、犯行動機や凶器の入手経路を突き止めることが難しくなります。また、共犯者がいた場合には、共犯者に対する捜査が困難になるなどの問題が生じます。
警察は、被疑者の供述以外の証拠等を収集することで、事件の全容解明を図ることになります。
弁護士による解説は以上となる。被疑者死亡を受けて、宮台さんが2月1日、YouTube動画(videonewscomチャンネル)で心境を語った。
「家族や関係者に危害を加えられる可能性がなくなりほっとしている」としながらも、犯行の背景がわからなくなったこと「動機がわからず釈然としない気持ちのまま進むのが残念」などと話した。
【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官の資格も有する。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/