台湾の書店担当者に聞く、現地で暮らすマンガファンの姿 コミックナタリーでは昨年、
台湾のマンガ事情を伝える特集 や、台湾のマンガシーンのトレンドを発信する建物・
台湾漫画基地を紹介するコラム を展開した。
【大きな画像をもっと見る】 台湾では日本発マンガ・アニメの人気も高く、現地取材を通じて日本でおなじみになっている作品の翻訳版や、グッズを多数目にしてきた。また現在台北で開催中のアニメ・マンガの祭典「台北國際動漫節」には、日本のマンガ家や声優が数多くゲストとして招かれており、現地での日本発のマンガ・アニメに対する根強い人気を感じる。そこで今度は、台湾で人気を集める日本発作品の傾向や、マンガファンの特徴を知るべく現地で取材を実施。アニメイト台北の店長と台湾紀伊國屋書店の担当者それぞれに、利用客の傾向と各店の特徴を聞いてみた。台湾の"オタ活"の実態やいかに?
取材・文 / 佐藤希
■ Webサービスの流行により、トレンドのタイムラグはほぼゼロ
アニメイト台北、台湾紀伊國屋書店の担当者によると、台湾で人気を集める日本発作品の傾向は、日本とほぼ変わりないという。というのも、映像配信サービスやWebマンガサイト、SNSの普及により、台湾にいながらにしてほぼリアルタイムに日本のトレンドを掴むことができるようになったからだ。
単行本の入荷などは船便の都合で遅れることもあるというが、どちらの店頭にも、記者の渡航直前に日本で発売されたばかりの単行本が棚を占めていた。台湾で用いられている繁体字に翻訳された台湾版もあれば、原文そのままの日本語版も並ぶ。ちなみに台湾で日本の書籍を買う場合は、日本で流通している価格に準じて販売される。そのため取材時のニュー台湾ドルと日本円の為替レートに応じて、「本体価格に0.4を掛けた価格が販売価格です」と知らせるポップが、店内のあちこちに貼られていた。
■ 現地のファンは日本よりも若め、トレンド発信地に建つアニメイト台北
アニメイト台北は、台北でも若者がひときわ集まる西門町に建っている。東京・原宿を思わせる活気で、記者が訪れた時間帯が夕方ということもあり、店舗の周辺には学校帰りらしいたくさんの若者たちが連れだって歩いていた。
取材に応じてくれたのは、アニメイト台北の店長・清水剛さん。若者に人気のエリアにあるアニメイト台北だが、主な客層は何歳ぐらいなのだろうか?
「主なお客様は男女問わず中学・高校生などの学生の方や、20代前半の方が多くいらっしゃる印象です。私がこの店舗に来てから客層の若さが特徴的だと感じたのですが、おおよそ日本よりは3~5歳ほど若くなる印象ですね。割合としては台湾の方が9割、日本の方も1割ぐらいいらっしゃいます」
記者が訪れた時間帯は、学生の放課後と重なり、アニメイト台北にとっては一番にぎやかになるコアタイム。確かに店内では、学生や20代と思しき若者たちが、にぎやかに会話を楽しみつつも、真剣に商品を吟味していた。単行本やキャラクターグッズなど、彼らが手に取るものはさまざまだが、清水さんによると、一度に大量にグッズや書籍を買う“爆買い”型よりは、1つひとつを見極めながら欲しいものを探す人が多いとのこと。
「当店では書籍・グッズを扱っているのですが、どれもじっくりと時間をかけて、大切に選ばれる方が多いですね。買ったグッズを自己流にデコレーションする、というように日本でも見かける楽しみ方をされるお客様もいらっしゃいます」
日本でもなかなか見かけない広さを誇るアニメイト台北。書籍以外にも日本のアニメイトでも販売されているグッズ、映像商品など幅広いジャンルが並んでいる。清水さんによると、台湾では日本とは少し異なる形態の“限定版”が人気だという。
「日本マンガの現地版を販売する台湾の会社は、限定版の制作にとても力を入れるイメージがあります。ファンの方々はそういった限定版を買って、写真をSNSにアップしたり、棚に並べたりと、コレクションするのがお好きです」
確かに台湾書籍コーナーに目を向けると、通常の単行本に加え、単行本がゆうに5冊は入りそうな大きな箱に単行本1冊と特典を梱包した限定版が見受けられた。清水さん曰く、こういった限定版やグッズの制作に関して、台湾の会社はフットワークが軽く、近年はハイクオリティな台湾産グッズが増えてきているという。アニメイト台北の中でも、台湾の会社が制作したジオラマ型アクリルスタンドやキーホルダーなどが並んでいた。ちなみに、アニメイト台北の中で売れ筋の作品ジャンルはどういったものになるのだろうか?
「最近ですと当店では中国と韓国発のBLがトレンドです。私が赴任した2016年頃はライトノベルが人気で、それが一度落ち着いた頃にBLが流行り始めましたね。中・韓のBL作品は先ほどお話したような限定版が豪華で、すごく売れ行きがいいです。BL以外のジャンルですと、『チェンソーマン』や『SPY×FAMILY』などアニメ化した作品も注目が集まっている印象です。商品の提供スピードに関しては、なるべく早く台湾のお客様に届けたいと考えております。そのほかにも他店との差別化を図る面では、日本のアニメイトで取り扱うグッズ付き限定版を当店でも買える、というような部分もアピールしていきたいですね」
■ 紀伊國屋書店担当者が語る、言語の壁を越えたファンの熱意
続いて、紀伊國屋書店・台北微風店へ。高級ショッピングモール・微風広場のビル内にある紀伊國屋書店台北微風店のマンガコーナーも、アニメイト台北同様に日本で人気のマンガがずらりと並ぶ。取材に応じてくれた担当者・三浦雄也さん曰く、「呪術廻戦」などティーンエイジャーに人気のマンガも取り揃えているほか、取材時期は映画「THE FIRST SLAM DUNK」の公開が迫っていたことから、原作「SLAM DUNK」の問い合わせが増えていたという。
「『SLAM DUNK』はもともと30~40代のお客様を中心にご購入いただいていたんですが、映画の影響もあって、台湾でもこれまで以上に盛り上がりそうだなと思っています。紀伊國屋書店は総合書店ですから、若者が多いというよりは親子連れから年配の方まで、さまざまな年齢層のお客様にご利用いただいています
書籍以外にもグッズも取り扱っているが、中には「鬼滅の刃」をモチーフにした高価格帯のアクセサリーも。先述のアニメイト台北で見かけた箱入りの限定版の姿も見かける。
「台湾の出版社では、日本の会社が思いつかないようなグッズを付けて販売することがあるので、引きがあって非常に興味深いですね。例えば日本で新刊が出た作品で、カバーが本来1種類のところ、台湾オリジナルのカバーを数種類作ってみたり。こういった台湾独自の付録やグッズは、こちらの会社のアイデア力と行動力の高さでできたものだと思います」
売り場には台湾産マンガとともに日本のマンガも数多く並ぶが、中には繁体字に訳されていない日本語版のものも少なくない。「中文新刊」と書かれた翻訳版のコーナーの隣には、「コミック新刊」と書かれた日本語版のコーナーも。これら日本語版は日本人向けに販売されているのかと考えたが、決してそうではないようだ。
「紀伊國屋書店台北微風店のお客様には日本人の方もいらっしゃいますが、8~9割は台湾の方なんです。これは日本の話ではありますが、以前中国のBL小説『天官賜福』シリーズの繁体字翻訳版を、台湾の紀伊國屋書店が日本に輸出したところ、大変な人気をいただきまして。どういう方にご購入いただいたのか調べますと、日本語に翻訳される前により原作に近い繁体字版で読みたいという、日本人のお客様が少なからずいらっしゃったんです。ニュアンスの違いなどのお好みもあると思うんですけど、好きな作品を原文に近い繁体字で読みたいという気持ちだったのかと思います。紀伊國屋書店台北微風店で販売している日本語版のマンガも台湾のお客様にご購入いただいていますし、そういうモチベーションはあるのかもしれませんね」
ファンならではの探求心の強さが、言語の壁を越えた例だ。ちなみに、ワンフロアで展開する台北微風店には、マンガを含む中文の書籍と日本語の書籍12万点に、文具や雑貨を含めた16万点が揃う。三浦さん曰く、今後も日本・台湾にかかわらずマンガ人気は加熱していく、という予測からコーナーの拡充を考えているという。
「売り場面積を増やしていきたいなというプランはありますが、書籍だけでなく今後はグッズも種類を増やしたいな、と。現在は少し足りないと考えていて、在庫量ももちろんですが、『ここに来れば欲しいものが必ず見付かる』と言っていただけるような売り場作りを目指していきます。また、欲しいもの以外にも、お客様が新たな発見ができるようなお手伝いができればうれしいですね」