2023年01月30日 10:31 弁護士ドットコム
夫婦間での隠し事に気づいてしまった時、どう対処しますか。夫の風俗利用が発覚して悩んでいる女性からの相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
【関連記事:娘への強制性交、罪に問われた夫に「処罰は望みません」 法廷で妻が語った驚きの理由】
相談者は夫から、仕事の勉強のために「週末だけビジネスホテルに泊まりたい」と言われたそうです。自宅には子どもがいて集中できないからだろうと理解を示して、そのお願いを受け入れた相談者。
しかし、夫は勉強のためとしてビジネスホテルを利用する度、風俗サービスを利用していたことが発覚したのです。夫は罪を認めて謝罪しました。ところがその後もまた、風俗店を利用していたことが判明しました。相談者は「もしかしたら結婚当初から利用していたかもしれない」と疑心暗鬼になっています。
風俗通いという夫の趣味を理由に離婚や慰謝料請求は可能でしょうか。また風俗通いが発覚する以前から夫婦はセックスレスになっていますが、離婚や慰謝料請求をする上で、勘案される事情となるのでしょうか。小田紗織弁護士に聞きました。
——風俗通いをやめないことは、離婚や慰謝料を請求する理由として認められるのでしょうか
夫が風俗通いをやめてくれず、夫に対する嫌悪感でセックスレスに至り、離婚も考えるようになるというお気持ちはよく分かります。ただ、いざ離婚、慰謝料請求をするとなると法的、手続的な観点からハードルがあります。
まず、風俗通い、セックスレスが離婚原因(裁判所が離婚を認める理由)になるのかというハードルです。
離婚原因として民法770条には次の5つが定められています。
(1)配偶者に不貞な行為があったとき (2)配偶者から悪意で遺棄されたとき (3)配偶者の生死が三年以上明らかでないとき (4) 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき (5)その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
ご相談のケースは(1)か(5)に該当するかを考えることになります。もし、該当しなければ、夫が離婚を拒めば、裁判をしてもなかなか離婚は認められません(夫が応じればもちろん離婚はできます)。
——(1)と(5)について、詳しく教えてください
(1)「不貞」は、基本的には性交渉を伴うものであることが想定されています。夫が利用した風俗が、性交渉を伴うサービスだったのかがポイントです。
性交渉を伴うものではなかったとしても、頻度や内容から夫婦間の貞操義務に反するような場合には不貞に該当すると判断されることもあります。とはいえ、裁判所次第ということになるため、現時点では離婚できるかどうかの判断は難しいということになります。
(5)に該当するかは、様々な事情から総合的に判断することになり、これもまた現段階では、裁判所が離婚を認めてくれるかどうかの判断は難しいです。
ただ、例えば家庭裁判所のHPに掲載されている夫婦関係調整調停の申立書式の「申立の動機」欄には、「異性関係」のほか「性的不調和」も明記されています。
風俗の利用をやめてくれないことや、それによりセックスレスになったことも(5)の判断において考慮されるものと考えられます。また、風俗の利用に伴い浪費することがあれば、これも(5)の判断において考慮されるでしょう。
——何か注意点はありますか?
(1)や(5)に該当しそうであっても、それを証明できるかどうか、というハードルがあります。
過去の裁判例をみてみると、風俗店のポイントカードにスタンプカード、さらに割引券などを夫が持っていても、夫が利用したものとは証明されず(夫が「友人からネタでもらった」と言い訳している場合など)、さらにはどういったサービスを利用したか、性交渉を伴うものだったかまでは証明されないと判断されています。
まさに通っている様子が撮影されたものであるとか、LINEなどのやり取りで風俗を利用していることや受けたサービスの内容を確認できることが重要となってきます。
——証拠があれば慰謝料は認められますか?
証拠があっても(1)や(5)の理由で、慰謝料がどのくらい認められるかというハードルがあります。
(1)の不貞では、個人的な相場感では50万円~200万円の間でしょう。
また、夫が風俗利用をやめず妻が夫に対する嫌悪感を抱きセックスレスになり離婚に至る場合(5)の慰謝料は、さらに低くなるのではないかと思います。
たとえば相手が離婚に難色を示した場合、さらに慰謝料も求めると、相手は更に難色を示すでしょう。その場合には離婚調停や訴訟をしても、要した時間と労力、弁護士費用を考えると、裁判所が認めてくれる慰謝料は割に合わないかもしれません。
相談者が風俗を心から嫌がっていることを分かっていながら止めない夫は、これからも風俗以外でも相談者様の気持ちを踏みにじる可能性が高いように思います。証拠や慰謝料のことはいったん横に置き、離婚すべきか、子どもの養育をどうしていくか、を考えられてはどうでしょうか。
【取材協力弁護士】
小田 紗織(おだ・さおり)弁護士
法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士を目指し活躍中。
事務所名:神戸マリン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.kobemarin.com/