コロナ禍で一気に浸透したリモートワーク。”通勤”がなくなり、時間の余裕ができた一方で、職場によってはコミュニケーション不足や生産性の低下も起きているようだ。というのも、世間には、適切に「管理」されないと、仕事をしない(できない)人が一定数いるわけで……。
今回は、もともと会社の仕事が暇だったところでリモートワークになり、時間を持て余すようになってしまったシステムエンジニア(31歳男性)の働きぶりを紹介する。(取材・文:伊藤 綾)
下請けSEのブラックなイメージは今や昔?
「いまは人生で一番時間があります」
と語るAさん。
31歳といえば仕事にも慣れ、バリバリ働いていてもおかしくないタイミングなのだが、そんな彼を待っていたのは、「バイトをしていた学生時代よりも暇」という皮肉な毎日だった。
Aさんは都内の有名私大を卒業後、小売業界に就職。2018年春に大手総合ITベンダーのグループ企業を主な取引先とするSES会社へ転職し、企業の業務システムのサーバーを構築するインフラエンジニアとして現在働いている。
「(書店と違って)SEなら座って仕事ができる。数十名規模の中小会社なので家賃補助はないものの、年4か月分のボーナスが出るという話だったので、今の会社に就職しました。当時のSES(システム・エンジニアリング・サービス)業界はひどく人手不足だったようで。20代後半の未経験者でしたが、きちんとした給料で普通に採用してくれました」
ブラックな話も耳にする業界というイメージだが、実際にAさんが転職活動を始めた当時は、すでに業界として残業対策やコンプラ改善がかなり強く意識される体質になっていたらしい。Aさん自身も、月45時間を超える残業をしたことはないという。
「仕事は、顧客企業のシステムの保守契約が切れるタイミングで、定期的に機械とシステムを一新するプロジェクト業務に携わるかたちですが、新しいシステムと言ってもほぼ現行踏襲ですし、受注先の企業もほぼ変わりません。SEでも一部の超できる人はべらぼうに残業していますけど、そもそも下っ端はトラブルの対処とかもできないので、常に業務量は少なめです」
プロジェクトはシステムをリリースする1年半ほど前から設計を始め、半年ほどかけて構築。最後の半年ほどで実際の運用者への引き継ぎ作業を行うというのが大まかな流れ。プロジェクトチームは自社社員で言うと5人前後で、とくに仕事がないのが最後の「引き継ぎ作業期間」だという。
入社当初は、取引先企業に毎日出社していたため、余った時間でサボるにも限度があった。しかし、コロナ禍でリモートでも仕事ができる環境が整備されたため、自宅作業が可能になり、限界突破が可能になってしまった。
「コロナ前の暇つぶしは自席でネットサーフィンするくらいでしたが、リモートだとやりたい放題ですね。今のプロジェクトはこの夏くらいから暇な期間に突入していて、運用手順書という、実際のシステムの運用者向けの使い方のマニュアル・取扱説明書をつくるだけ。それ以外のタスクは一切ない状態です。今日の段階だと、その作成すら終わっていてドキュメントの修正依頼がチラホラくるだけ。そんな状況がしばらく続きそうです」
Excelマクロで「離席状態」を回避
「朝9時出勤なので、目覚ましは8時55分にかけています。ミーティングが入ることもありますが、だいたいシャワー浴びたり、たばこ吸ったりして午前中は終わりますね。昼食後もなんだかんだやる気が起きず、14時ぐらいまでゴロゴロして。そこから30分ほどで割り振られた手順書の修正タスクを終わらせ、マネージャーへ報告・確認してもらったら、退勤時間の18時まで特にやることがありません。ちゃんとPCの前に座って仕事しているのは14時から15時までの1時間ほどです」
実際のところ仕事を指示されないので、やることもないらしいが、「サボってると思われない工夫」はちゃっかり導入しているという。
たとえば、チャットツールの「離席状態」だ。今使っているツールでは、PC操作が5分以上ないと自動的に退席中の扱いになる。それを回避するため、業務時間中はExcelの「VBAマクロ」を動かし続けているという。
「Excelマクロはサボりツールとして有名な機能で、指定したExcelの座標を3分に1回、自動でクリック操作するプログラムを実行させています。コード素材はネットに落ちているものをコピペしました。自分の手でキーボードやマウスを操作せずに済むので、映画などもゆっくり観られますね」
サボっていると思われないための工夫は、他にもある。それが、「即レス」だ。
「(映画を見ていて)自分宛のメッセージ通知に気づかないと良くないので、ヘッドホンは使わず、会社PCの通知音を最大にするなど、微妙な配慮は一応しています」
これでいつでも「即レス」が可能ということだ。むしろ、会議や仕事に集中している人よりも、レスが早い可能性すらある。
ただでさえ仕事をしていないのに、上役にツッコまれない範囲のギリギリを見極め、30分~1時間ほどカラ残業する日もあるそうだ。ここまで来ると、もはや会社にとっては害悪だろう。
「アイドルが好きなので、定番ですけどTWICEやKep1er(ケプラー)といったK-POPアイドルのPVはよく観ています。あと、普通の大人は無理だと思うんですが、FANZAの日替わりセール対象商品を漏らさずチェックするのが日課になっていて……。僕の場合、あまり有意義な時間の使い方はできていませんが、デキるやつならスキルアップ転職も全然可能な環境です」
それだけサボっていると、同僚にブチ切れられないのか、と心配になるが、聞けば同じチーム・メンバーは上司も含めて、みな似たり寄ったりの状況を共有しているようだ。
「たまにサーバーを触りに現場へ行ったとき、『やることなくて暇だ』って話は、メンバー同士で普通にしています。退勤前に日報を書くんですが、マネージャー側も仕事ないことはわかっていてほぼ茶番みたいな感じなので、正直そこの内容はあまり気にしていないです。『そんなの30分で終わるじゃん』って思っても、とやかく言ってくる野暮な人はいない職場というか。「過剰に仕事している感を演出する必要はないとはいえ、やった仕事が『特になし』とも書けないので、1日でやったことを5日間に分けて書いたりはしています」
みんなでサボるという点において、抜群の「チームワーク」が遺憾なく発揮されていると言えそうだ。異動や転職などで誰か「暗黙の了解」を破る人が出てくるまで、この状況は続いていくのかもしれない。