2023年01月28日 09:01 弁護士ドットコム
動物虐待に厳しい視線が向けられている。警察庁の発表によれば、2021年に動物虐待で検挙された数は過去最多の170件、逮捕・書類送検も199人で最多となった。被害動物の中で最も多いのは猫(95件)、次いで犬(60件)、この他フェレット、カメなどへの虐待もあった。
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そんな動物虐待事件の判決が、2023年1月17日、大阪地裁であった。飼育していた子猫2匹を殴って死なせたとして、動物愛護法違反に問われた20代の男子大学生に、執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。男の言い分は「鳴き声がうるさかった」「就職活動で追い込まれていた」という信じ難いものだった。さらに裁判では、女子高生に対する痴漢行為も明らかにされた。(裁判ライター:普通)
被告人は20代の大学生の男性。容姿からは年齢以上に若さというより、幼さを感じる。しかし、そんな見た目に反し、4件の凶行に及んだとして起訴されている。
2022年1月と4月に同棲していた交際相手と飼っていた猫に暴行を加えた結果、死亡させたとされる事件2件(動物愛護法違反)と、駅構内にて女子高生の下半身を触るなど痴漢行為を働いたとされる事件2件(大阪府迷惑防止条例違反)だ。
検察官の証拠では、猫を左手で固定して殴りつけたといった犯行態様や、耳を塞ぎたくなるような虐待された猫の容体(目が飛び出し、下痢が止まらない)が明らかにされた。
診療した医師は、「これまで被告人、または交際女性が連れて来た6匹を診断したが、そのうち4匹が後に死亡した」と供述しており、虐待を疑い解剖を薦めたこともあったという。しかし、交際女性は解剖に同意したものの、被告人が頑なに拒んだという。
これらの犯行動機について被告人は、「就職活動で追い込まれていて」と証言した。
弁護側の証人として被告人の父が出廷した。父がコロナ禍で退職したため、被告人の学費は、奨学金や被告人がバイトすることで捻出していた。そのため「ストレスがかかっていたのではないか」と証言した。
また、被告人の監督を行うために、事件以降は被告人と交際相手を家で生活させていることも明らかにした。
しかし、事件をなぜ起こしてしまったのかという原因については、被告人と話している様子はなく、どこか他人事のような受け答えだった。
検察官はその点を厳しく追及した。
検察官「4件も事件を繰り返したのは何が理由だと思いますか」 証人「それは本人しかわからないですけど、僕は間違ったことはしてはいけないと言っている」 検察官「あなたが思う、何か理由みたいなものはないですか」 証人「それは僕もずっと考えているんですけど、急に怒ったりもしてきて、もうコントロールできる範疇ではないので」 検察官「あなた監督をすると言っても、何をする気なんですか」 証人「相手のことを考えて、やってはいけないことはしてはいけないよと伝えたい」
最終的には裁判官からも、「監督をすると言いながら、コントロールできないというのは、なんのために来たのですか?」、「もう少し、このお父さんのもとであれば安心だと思えることを言えばいいのに」などと苦言を呈され、少しうなだれたように見えた。
被告人質問では、学費と生活費のため、昼は学校へ行き、夜は夜勤のアルバイトなどをしていた当時の生活状況について語られた。
その一方で、同棲中に飼っていた複数のペットについては、ローンを組んで被告人自身が総額100万円以上出していることも明かされた。精神的に辛く外出が難しかった交際相手の気持ちを少しでも安らげようと飼ったというが、そのペットに手をかけたら交際相手がどう思うかには思いが至らなかったようだ。
大学では、教育系の学部に通っている被告人。教員になる夢はあったが、大学で授業を受ける中でギャップを感じ、一般企業への就職活動へと志望を変更した。就活で、面接官に「教育学部なのに、なぜ当社へ?」と聞かれる点が、他の就活生に比べて不利に感じたなどと証言した。面接を受けた会社は10社ほどであった。
猫への暴力行為は、就職活動がうまくいかない中、「鳴き声にイライラした」ため。駅での痴漢行為に関しては「性欲を抑えきれなかったため」と証言した。犯罪という意識はあったものの、「正直、当時は軽く考えていた」などとも証言した。
質問に答える際はうなだれ、被害者への謝罪の弁を述べる様子などからは、現状では反省しているようにもとれた。しかし、今後社会人を迎えるにあたり、さらに増えるであろうストレスが溜まった際の対処としては「周囲に相談する」と答えるのに留まった。
最後に、痴漢の被害者からの書面による意見陳述が行われた。事件の際は、被告人からずっと視線を感じ、必要でない駅で降りるなどしたが、なおもつきまとわれ被害にあったという。その日から、電車などの人ごみに関わらず、男性と目が合うだけで何かされるのではないかと恐怖を抱いているという。
判決は懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年)だった。裁判長は最後に「それぞれの事件について重みを考えた上で生活してください」と付け加えた。
【ライタープロフィール】 普通(ふつう):裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にTwitter、YouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。