2023年01月26日 18:31 弁護士ドットコム
離婚後に同居し、ふたたび別居する際、母親が親権をもたない子ども2人を連れて行ったことは違法であるとして、子の親権を有する父親が、母親とその代理人弁護士らに1100万円の損賠賠償を求めた裁判の控訴審判決が1月26日、東京高裁であった。
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小林宏司裁判長は、請求を一部認容した一審・東京地裁判決を支持し、控訴を棄却した。被告側は上告する方針だ。
一審の東京地裁は2022年3月、母親と母親に助言した弁護士2人に110万円の損害賠償を命じていた。
被告側の弁護団が「一般的な婚姻状態にある子連れ別居の事案ではない」と注意を促すこの裁判で、夫婦はどんな経緯をたどったのか。
夫婦は2003年に結婚。2014年の12月末、父親は次男と三男を連れて別居し、翌2015年1月に離婚は成立した(次男・三男の親権者は父)。同年5月、再構築のため再び同居生活を始めるが、心身に不調が出るようになった母親が約半年後の11月に弁護士に相談。
翌2016年1月に母親は次男、三男を連れて別居し、間もなく親権者変更と親権者指定の申し立てを行い、父親も引き渡し審判や人身保護請求などを申し立てた。現在、三男は父親が監護し、次男は母親の元で生活している。
今回の裁判は、父親が原告となって訴えたもの。母親が次男、三男を連れて家を出たこと、別居前の母親に対する弁護士の助言も違法であるとして、母親とその実母、助言した弁護士2人に1100万円の損害賠償を求めて提訴した。
一方の母親側は、親権者を父親とする協議離婚に応じたのは、事実無根の不貞などで責め立てられ、受け入れざるを得なかったことや、父親との支配関係、精神的暴力をふまえ「子どもを置いて別居することは子の福祉に反する」ことを理由に連れて行ったと主張。
離婚後に同居した期間中、次のような念書を書かされたことを精神的暴力の証拠としてあげた。
「携帯電話やPCはいつでも夫に見せるし、履歴等を消したりしない」 「一方的なセックスレスは決してしない。週末、週一回をめどにきちんと環境を整え機会を作る」 「原告(*父親)に一方的な離婚事由がなく、再度別れるようになってしまったときは、(中略)どんな金額であれ、借金をしてでも原告の言い値の慰謝料を支払う」
助言した弁護士側は「DVが背景にあり、子の監護を主に担う妻(母)と子の安全を確保するために、子連れ別居とその助言は必要だった。親権者が母親に変更される可能性があった中での助言は違法性を欠く」などと主張していた。
一審の東京地裁は2022年3月、請求を一部認容し、母親と母親に助言した弁護士2人に110万円の損害賠償を命じていた。
判決では「子らとの関係では監護に原告(父親)の問題がある状況とはいえないため本件別居、本件助言が違法となる」「独自の見解に基づく違法な実力行使を助言した」として、母親と弁護士らは不法行為による損害賠償責任を負うとした。
一方で、慰謝料については、母親側が精神的暴力の証拠としてあげた念書をもとに、父親が母親を「本件別居に追い込んだ面もあることは否定できず」とし、1100万円の請求に対して、判決では100万円の慰謝料と10万円の弁護士費用の支払いを母親と助言した弁護士に命じた。
東京高裁は判決で、被告側の主張について「子らの福祉が害される危険があったとはいえない」「実力行使を助言することは正当化されない」などとして、いずれも退けた。一方で、慰謝料額を増額するべきとした原告の主張については、「原審が考慮した事情を是認して排斥する」とした。
高裁判決後、父親側は会見で「弁護士に対して損害賠償を認めたのは極めて画期的な判決」(上野晃弁護士)と語った。
「一審では(夫婦関係に)支配関係があったと認定されているが、事実認定は杜撰であり、これに基づいて(慰謝料を)減額するのはおかしいと主張していた。控訴審の判決では、これについてほぼ全く触れておらず、きちんと向き合った判断をしていない。ここは非常に不満が残る」とした。
助言した弁護士側も会見し「DVに無理解な誤った判決である」(弁護団の岡村晴美弁護士)と厳しく批判した。
違法とされた助言についても「母親は携帯電話の履歴は父親に見られるので、子どもがいない時に公衆電話から私に連絡をしてきた。希死念慮もある精神状態であり、逃げるしかないと弁護士として助言した」(被告の助言した弁護士)
判決後、助言した弁護士の弁護団(46名)は連名で、控訴審判決に抗議の声明を出した。
声明では「このような判決は、被害当事者や弁護士をはじめとするDV被害者支援に関わる者に対する萎縮効果が大きく、社会正義に反するものであって、決して容認することはできない」と厳しく批判した。