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「全部さらすからな」性行為の動画拡散を示唆して復縁求めた男 裁判で口にした反省の弁

2023年01月22日 09:31  弁護士ドットコム

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相手に別れ話をされて逆上し、ストーカーや殺人など重大事件に発展したり、交際中に撮影した性的画像や動画をもとに被害者を脅したりする事件は残念ながら後を絶たない。


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2022年、大阪地裁で開かれた裁判で「お互い顔が見えずに不安になってしまった」、「相手を思いやる練習が足りていなかった」と語っていたのは、強要未遂、リベンジポルノ防止法違反に問われた被告人だ。被害者が味わった苦しみに比べて、あまりに軽かった男の反省の弁とは。裁判の全容をレポートする。(裁判ライター:普通)



●彼女を振り向かせたくて「全部晒すからな」のLINE

被告人は20代前半の飲食店アルバイトの男性。見た目は大人しく、自信なさげな表情を浮かべ、裁判に不安なのか沈んだ雰囲気を感じる。



事件は2022年の6月。被害者である19歳の女性(以後、A)は、当時交際していた被告人との交際解消を求めた。被告人は偶然、AのSNSの裏アカウントを見つけると、そこには別の男性との交際を思わせる写真などが多数投稿されていたため立腹した。



話し合う機会をなかなか作れなかったが、それでも交際を継続したいと思った被告人は、交際解消を思い留まらせる目的でLINEを送った。



「名前、住所、電話番号、学生証、ハメ撮り、ガチで全部晒すからな、このクソアマが」
「8月まで彼女でいるって言ったけど、延長しないとマジで許さない」
「リベンジポルノは軽い。50万も払えば許される」



などと、性交時に撮影した動画の拡散をほのめかすメッセージを送った。裁判では、実際に犯行で使われた証拠を取り調べるため、このような文言もそのまま朗読されるため、迫力を感じる。



交際を継続したかったという被告人に一定の同情はできる。しかし、弁護人から「そのようなことをした結果として、交際関係が復活すると思うか」という質問にある通り、私怨が先行した行動には同情の余地はない。



●回収できない拡散された動画

恐怖を感じたAは、被告人のLINEをブロックした。しかし、被告人はそれにさらに逆上し、動画共有サイトにAの顔や胸などが映った動画データをアップロードした。



共有サイトにアップロードした動画は、第3者がダウンロードするにはパスワードがないと閲覧ができないものであったが、他者の投稿動画のコメント欄に記載する形でパスワードを公開した。罪悪感からすぐにコメント欄のパスワードは削除したものの、アップロードした動画自体の削除が遅れた。



アダルトコンテンツの情報を発信するアカウントがTwitterで拡散したこともあり、動画は削除される前に約400回ダウンロードされた。拡散された動画は回収する術もなく、Aは知り合いに「いつ動画を見られるか、すれ違う人がもしかしたら動画を見ているのではないかと思うと恐い」と心情を語っている。被告人の厳重処罰を望んでおり、謝罪文や弁償金の10万円の受け取りを拒否している。



●突発的な犯行を再度しないための対策は

Aに交際関係の終わりを告げられ、逆上した被告人がアップした動画が400回ダウンロードされるまで、これら一連の出来事は1日の内に起きた。一時の感情に任せて行動してしまう被告人の性格が見て取れる。



弁護人からは再犯をしないために、冷静に物事に向き合うよう諭されていた。



弁護人「同じことをしないために何が必要だと思いますか」 被告人「怒りを紛らわせるために、自分を見つめ直す作業が必要なのかなと思います」 弁護人「具体的に、今、何か取り組んでいることはありますか」 被告人「ネットで、自分の向き合い方について調べています」



両親は被害弁償金などを用意しているが、現在被告人とは同居しておらず、また初犯であるこの公判にも情状証人として立つこともなかった。会社勤めもしておらず、自力での更生を望むほかない。



●足りていなかった相手を思いやる練習

検察官からもその衝動的な犯行態様についての質問となった。



検察官「『リベンジポルノは軽い』ってどういうつもりで書いたんですか」 被告人「振り向いてもらいたくて必死で」 検察官「なぜ、そこまで必死に?」 被告人「お互い顔が見えずに不安になってしまって」 検察官「それでこんな文言送って、動画も流出して自分勝手と思わなかったんですか」 被告人「あまり練習とかしてなかったんで」 検察官「練習ってなんですか?」 被告人「相手を思いやる練習が足りていなかった」



判決は懲役2年、執行猶予4年だった。言い渡しの最後に裁判官は、「相手のことを考えてないひどい事案」と評し、被告人に改めて反省を促していた。



【ライタープロフィール】 普通(ふつう):裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にTwitter、YouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。