2023年01月22日 09:11 弁護士ドットコム
スキー場で接触事故を起こした際、相手から「ケガしていないし大丈夫」と言われたが、連絡先も聞かなかったため、後日責任を追及されないか心配——。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
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相談者がゲレンデをスノーボードで滑っていた際、前方で立ち止まっていた人がいたようです。尻をついて減速を試みたものの、止まり切れず接触。相手は相談者側に倒れ込む状態となりました。
相談者はすぐに謝罪し、相手のケガの状況などを確認したところ、「自分はケガしていない。大丈夫、気をつけて」との返答でした。
その言葉に安心したのか、「連絡先の交換、スキー場や警察への連絡も忘れてしまった」そうです。後から「もしかしたら後日むち打ちになっているかもれない」など心配になってしまい、罪を問われないかと気になっているようです。
ゲレンデではスピードを出して滑っていることもあり、ひとたびの接触事故が起これば、深刻な事態にもなり得ます。当事者はどう対処すればいいのでしょうか。また罪に問われるようなことはあるのでしょうか。齋藤裕弁護士に聞きました。
——ゲレンデで接触事故を起こした場合、スキー場や警察などへの連絡・報告しなければいけないのでしょうか。
交通事故の場合、交通事故を起こした人は、道路交通法により、事故について警察に報告すべき義務、ケガをした被害者を救護する義務を負います。これらに違反した場合には処罰もありえます。
しかし、ゲレンデでの事故についてはそのような法律上の規定がありません。
少なくとも、相手がケガをしていないと言っており、外見上もケガをしているように見受けられないような場合には、警察などに報告する必要はないと考えます。
——後日ケガをしたなどの連絡があった際、どんな責任を問われる可能性がありますか。
後日ケガをしたなどの連絡があった場合、事故に過失がある側は、ケガによる治療期間等に応じた慰謝料、治療費、通院交通費、休業損害等の損害賠償責任を負う可能性があります。
ただし、被害者側に一定の過失がある場合には、全額の賠償ではなく、過失割合に応じた賠償をすれば良いことになります。
過失割合は、どちらがゲレンデの上の方にいたのか、速度はどうだったか、力量に合ったコースを選択していたか、滑走経路が通常の経路だったか、通常とは違う行動があったか等により判断されます。損害賠償請求を受けた場合には、弁護士に相談した上で支払いについて検討するとよいでしょう。
刑事責任としては、過失致傷罪や業務上過失致傷罪に問われる可能性があります。相手が重大な傷害を負っており、1人では動けないような状況で、それを放置して去ってしまったりすると、保護責任者遺棄罪として罪に問われる可能性もあります。
もっとも、事故直後に相手がケガをしていないと言っているレベルのケガで実際に処罰等される可能性は低いと考えられます。
——今回のようなゲレンデでの接触事故を起こした場合、どのように対処するのがいいのでしょうか。
一応、相手方がケガをしていないと言っているとしても、実際にはケガをしているということがないとは言えません。
後日、ケガをしていることが明らかになった場合に、不誠実な対応をとったと思われ、損害賠償問題等がこじれることにならないよう、一緒に病院等に行くことを申し出るなどはしておいてもよいでしょう。
また、事故について落ち度があるようであれば、きちんと謝りましょう。ただし、あまりしつこいとかえって感情を害しかねないので注意しましょう。
どのような事故だったかについて争いが生じる場合に備え、事故状況についてメモを残しておくことも重要です。
【取材協力弁護士】
齋藤 裕(さいとう・ゆたか)弁護士
刑事、民事、家事を幅広く取り扱う。労災・労働事件、個人情報保護・情報公開に強く、新潟市民病院医師過労死訴訟、トンネルじん肺根絶訴訟、ほくほく線訴訟などを担当。共著に『個人情報トラブル相談ハンドブック』(新日本法規)など。
事務所名:さいとうゆたか法律事務所
事務所URL:https://www.saitoyutaka.com/