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パク・ソダム「人は決して一人では生きられない」。初単独主演映画『パーフェクト・ドライバー』を語る

2023年01月21日 09:00  CINRA.NET

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Text by 羽佐田瑶子
Text by 後藤美波

『アカデミー賞』作品賞受賞『パラサイト 半地下の家族』(2019年)で、主人公一家の長女役を演じ、その存在感を世界に知らしめた俳優パク・ソダム。初の単独主演長編映画『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』は、韓国公開時に『ウエスト・サイド・ストーリー』、『ハウス・オブ・グッチ』を抑えて初登場1位を獲得したという。世界47か国で販売され、日本でも1月20日に劇場公開が始まるなど国内外で注目されている。

『パーフェクト・ドライバー』は、主人公・ウナと、彼女への依頼をきっかけに思いがけず行動をともにすることになった少年ソウォン、二人を追う汚職警官や殺し屋、脱北の過去を持つウナを秘密裏に調査する国家情報院を巻き込んだスリリングな追走劇。ウナが命懸けで守るソウォン役は『パラサイト』で社長一家の息子役を演じたチョン・ヒョンジュンが演じている。

2022年でデビュー10年目を迎えたパク・ソダムは、本作で天才的なドライビングテクニックを持つ「特殊配送会社(特送)」のドライバー・ウナを演じ、激しいアクションに挑んだ。クールだけれど「弱き者を守る」心根の優しさが滲み出るウナの人物像は、彼女だからこそ演じられたもの。女性主演のアクション映画である本作にどのように挑み、どんなメッセージを届けたいのか。単独インタビューで話を聞いた。

1991年生まれ、デビュー10年目で初の単独長編映画主演を果たした俳優、パク・ソダム。切れ長な目元が印象的、クールな佇まいで韓国映画シーンに限らず世界中から注目を浴びている。

彼女の俳優人生の大きな転換点となったのは、『第92回アカデミー賞』で作品賞を含む最多4冠、『第72回カンヌ国際映画祭』でパルムドールを受賞するなど大きな話題となった韓国映画『パラサイト 半地下の家族』で、主人公一家の長女役を演じたことだろう。頭の回転が早く、誰の意見にも惑わされない確固たる意志を持つギジョン。タバコを吸うだけで、彼女の内に秘める何かが現れるような圧倒的な演技力で、その存在感を映画に焼きつけた。

パク・ソダム
1991年9月8日、大韓民国・ソウル特別市出身。韓国芸術総合学校演劇院卒業後、『スティール・コールド・ウインター~少女~』(2013/チェ・ジンソン監督)で映画デビュー。主な出演作は『殺されたミンジュ』(2014/キム・ギドク監督)、『京城学校:消えた少女たち』(2015/イ・ヘヨン監督)、『愛のタリオ』(2014/イム・ピルソン監督)、『ベテラン』(2015/リュ・スンワン監督)、『王の運命―歴史を変えた八日間―』(2015/イ・ジュニク監督)、『プロミス ~氷上の女神たち~』(2016/キム・ジョンヒョン監督)など。『プリースト 悪魔を葬る者』(2015/チャン・ジェヒョン監督)では、悪霊に悩まされる少女を演じるため、丸刈りにして役に挑み、徹底した役作りが絶賛された。そして、『アカデミー賞』最多4冠、世界中の映画賞を席捲した『パラサイト 半地下の家族』(2019/ポン・ジュノ監督)では、“貧しい家族”キム家の長女ギジョンを演じ、国際的なブレイクを果たす。『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』(2022)は初の長編映画単独主演作となる。

しかし、彼女の俳優人生は順風満帆なものではなかった。韓国芸術総合学校(4年制大学)に進学し、俳優としての進路を決意。だが、当時は「2年半のあいだ、新人俳優が参加できるほぼすべてのオーディションに参加しました。月に平均17回のオーディションを受け、毎月17回のオーディションに失敗しました」「いわゆる『スランプ』を経験し、俳優を続けることが私の未来なのだろうかと考え込みました」と、海外メディアのインタビューで語っている(*1、*2)。自主映画を撮り俳優以外の道を模索するなど、自身の進路に悩みを抱えていたという。

2013年、独立映画『スティール・コールド・ウインター~少女~』で長編映画デビュー。2015年に韓国観客動員数1,300万人を記録した映画『ベテラン』に出演、同年『プリースト 悪魔を葬る者』では悪霊に取り憑かれた少女・ヨンシン役で優れた演技を披露し、韓国の数々の映画賞で新人賞を総なめにした。しかし、オーディションを受けずに役を得たのは『パラサイト』が初めてで、当時は事務所に所属せず一人で俳優の勉強をしていたという。

『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』 メイキング © 2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & M PICTURES. All Rights Reserved.

そんなソダムはポン・ジュノ監督から直々のオファーを受け、『パラサイト』に出演が決定。名だたる俳優たちのなかでも強烈な存在感を放ち、一気にスターダムの階段を駆け上ることになる。

国際的なブレイクを果たしたソダムは、次にどんな映画に出演するのだろうか。彼女が同作撮影後に参加していたのは、『パラサイト』とはまったく毛色の異なるアクション映画『パーフェクト・ドライバー』だった。

『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』 © 2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & M PICTURES. All Rights Reserved.

表向きには廃車処理場を運営している会社だが、裏ではどんな「ワケあり」荷物も届ける特殊配送会社「特送」でドライバーをしているウナ。ある日、海外への逃亡を図る賭博ブローカーとその息子・ソウォンを港まで運ぶことになったが、思わぬアクシデントに巻き込まれてしまい命懸けで逃亡する。

ハリウッド顔負けのスタイリッシュなアクションシーン、カーチェイスシーンが登場する本作。彼女のパワフルな演技は見ものだ。

パク・ソダム(以下、ソダム):20代はじめに短編映画でアクションの経験があり、いつか長編映画でもっと多くのアクションに挑戦してみたいと思っていました。ウナは数人を一度に倒せるし、銃を撃つこともできる。本作の話を伺って、これはチャンスだと思い、どうしてもウナ役をやりたいと思いました。

ドリフトなどテクニカルな動きもあり、アクションスクールで訓練を受けながら、スタントチーム・振付チームにもより自然な動きを教わりました。 - 『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』 メイキング © 2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & M PICTURES. All Rights Reserved.

映画を見終えた第一印象は、ひたすらパク・ソダムがカッコいい、ということ。かつての女性アクション映画には、お約束のように「色仕掛け」が盛り込まれたり、ロマンスシーンが絶対的な要素として盛り込まれたりすることもしばしばあった。しかし、本作にはそれが一切ない。依頼人のなかには「女ドライバーかよ」と自分の命運が女性に握られることに嫌悪感を示す人物はいたものの、圧倒的なテクニックと実力で彼らの考えをいとも簡単にひっくり返してしまう。媚を売ることもない。重ねてきた信頼関係を軸に生きながら、手の届く範囲の人たちを大事にしている主人公の姿は好印象だった。

ソダムはウナという役を表現するために、何度も髪を染めたりユニークな衣装を着たり、見た目にもこだわったという。

ソダム:ウナは、ただ立っているだけでも目立つ存在にしたかった。夜のシーンが多かったので、メイクや髪の毛の色を派手にすることで存在感を強調したいと思っていました。 - 仕事ではハードな場面が多く、相手にあまり感情を見せないクールな印象の強いウナだが、部屋のシーンではネコ好きのキュートな側面も覗かせる。感情の起伏があまり激しくないキャラクターだったが、ウナという人物をどのように解釈して演じたのだろうか。

ソダム:初めてウナの家のセットを見たとき「ああ、よかった」と思い、美術監督に感謝を伝えました。というのも、ウナは命の危険と隣り合わせのようなハードな仕事をしているので、彼女にも休める居場所が絶対に必要だと思っていたからです。

彼女自身は非常に淡々としています。映画の序盤で、特送を頼んできた男性が「女か」と嫌悪を示すシーンがありますが、文句を言うこともなく「ベルトしてくださいね」とクールに伝えてきっちり仕事をする。強くたくましい女性のようですが、感情を抑えているばかりでは苦しいこともあると思うので、自分だけの特別な世界は大事です。猫に対して子どもに接するように「お母さん、仕事に行ってくるからね」と声をかけるシーンはすごく好きでした。

仕事と家を区別して、「絶対にクライアントを守る」という責任感のある人物だと思っていたので、私自身がウナというキャラクターをしっかり包み込んであげることで彼女の温かさや優しさを演じ切れるのではないかと思っていました。 - 『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』 メイキング © 2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & M PICTURES. All Rights Reserved.

だからこそウナは、他人に対して生半可に優しい態度をとらない。相手の人生に責任を負えないのならば、思わず感情移入してしまいそうな相手だとしても距離をとる。そんなウナの信念にソダム自身も共感する一方で、行き場のないソウォンを突き放すシーンを演じるのは心苦しかったという。

ソダム:本来は、あんなにも小さくて幼くて保護を必要としている子どもに対しては、どんな理由があっても大人が守るべきだと思います。

ただ、ウナがソウォンに手を差し伸べることができなかったのは、自分の抱えている痛みと重なる部分があったから。自分自身も幼いころに脱北した経験を持ち、多くは語られませんが大変な目にあった。彼女の場合は社長が愛情を持って育ててくれたけれど、いざ、自分が社長の立場になったとき「最後まで責任をとれるのだろうか?」と心配になったのだと思います。もちろん直感的には「子どもを助けなきゃ」と思ったはずです。でも、責任をとれないのならば手助けすべきではない、という葛藤を感じました。

私も演じていて辛かったですし、ソウォンとのシーンで監督の「カット」がかかるたびに、(ソウォン役の)ヒョンジュンのもとに駆けつけて、抱きしめていました。 - 『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』 © 2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & M PICTURES. All Rights Reserved.

しかし、弱き者を見捨てることができない愛情の深さと守り切る強さによって、ウナは決心する。ウナという役を通じて、弱き者を助けるという態度についてどのように考えたのだろうか。

ソダム:どんな物事も、最終的に判断したり行動に移したりするのは自分の責任です。ウナは葛藤しながらも、自分で考えて、判断して、責任をまっとうしていました。それは弱き者を助ける態度として大事なことだと思います。 - 『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』 © 2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & M PICTURES. All Rights Reserved.

弱き者を守り、助け合うこと。それは昨今の社会において非常に重要なテーマであり、本作は人種や生まれ育った環境を超えた「擬似家族」的なつながりも見せながら、お互いに手を差し伸べる姿を描く。ソダムも今作の撮影を通じて、自身の経験に照らし合わせる部分があったようだ。

ソダム:人は決して一人では生きられない。仕事でも、私がカメラの前に立つまで多くの方が助けてくれていることを忘れず、常々感謝するように心がけています。ウナを演じる際も、数多の人が手助けしてくれ、費やしてくださった時間や情熱によって、「うまく演じたい」と責任を感じることができましたし、私も誰かを支えたいと思えました。

これまで周りの人たちから言われた言葉で印象的なのが、「助けてもらえるときは、助けてもらいなさい」ということ。人の支えがあることによって最善を尽くすことができますし、そこで育まれた感謝や信頼から今度は自分が誰かを手助けできるようになるのだと思います。

ファンの方からの声も力になりますね。日本のファンの方で、私を強く応援してくださっている方がいて、「いつになったらこの作品を日本で見られるんですか?」と待ってくださっていました。日本公開が決まったニュースをいち早く教えてくれた方もその方で、どんな感想をいただけるのだろうと楽しみです。 - 『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』 © 2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & M PICTURES. All Rights Reserved.

『パラサイト』のギジョンや本作のウナなど、他人の意見に惑わされない、クールな女性役がよく似合うソダム。これらのキャラクターに内在するある種の「強さ」は、ソダム自身のなかにあるものなのだろうかと質問すると、「はい(笑)」と恥ずかしそうに、しかし自信に満ちた表情で即答してくれた。

ソダム:私は最初から、ウナという人物に惹かれていました。自分の口からこんなことをいうのはなんですが、一見するととても強い女性だけれど、内面は情に厚いし、豊かな感受性を持ち合わせている。そうした部分は自分と似ています。 - 『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』 © 2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & M PICTURES. All Rights Reserved.

自身のデビュー10周年を迎える年に、大ヒットを記録した本作。しかし、ソダムは甲状腺乳頭がん手術のため本国のPR活動に参加することができないなど、苦しい場面もあった。いま振り返って「初の単独主演」はどのような経験だったのだろうか。

ソダム:PR活動に参加できなかったことはとても残念でしたが、応援と激励をたくさんいただきました。

映画の最初から最後までほぼ出ずっぱりなので、チャン・ウナとして映画を導いていけるのだろうかという心配はありましたが、監督やスタッフには本当に感謝しています。

撮影前、初めて共演者やスタッフの皆さんにお会いした際、たくさんの先輩方が「私たちが助けるから、やりたいことをやりなさい」と声をかけてくださったんです。その言葉をもらって勇気が出ましたし、これほど周りの人に助けられた作品はいままでなかったと思います。本作に関わった皆さんに一生感謝し続けると思いますし、私もそんな言葉をかけられる先輩でありたいです。 -