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亡くなった親に借金があった、そんなときの「相続放棄」のやり方 弁護士が徹底解説

2023年01月20日 09:51  弁護士ドットコム

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少子高齢化が進む秋田県。厚生労働省の「人口動態統計」(2021年)によると、秋田県の出生率、死亡率はともにワースト1位。将来的に日本が直面する社会問題に、どこよりも早い対策を迫られている。


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秋田市に事務所を構える田中伸顕弁護士は「最近、遺産相続の相談が増えている」と話す。いつも市民相談では債務整理や離婚相談が大半を占めていたが、遺産相続、中でも相続放棄についての相談が多いという。



「親などから引き継がれる権利や義務を、まず自分が相続すべきかどうか悩むため、相続放棄のやり方やその効果について知りたい方が多い印象です」(田中弁護士)



相続放棄に関する基本的な内容とともに、よく寄せられる相談についても解説してもらった。





●相続放棄とは?

——先生が事務所を構える秋田県は、日本一少子高齢化が進んでいるとも言われています。相続に関する相談が増えているとのことですが、なぜなのでしょうか。



遺言の保管制度や相続登記を義務付ける不動産登記法などの改正が重なり、遺産相続に関する問題意識が高まっているのではないでしょうか。



——そもそもですが、相続とは何ですか。



亡くなった方(これを被相続人と言います)の財産を、その死亡により、相続人に承継させることです(民法896条本文)。これにより亡くなった方の財産(これを相続財産といいます)は、被相続人に死亡と同時に、一応、相続人に承継されます



よく、「不動産の名義を変えていないから、未だに相続されていない」とおっしゃる方がいますが、これは誤りです。



相続財産は、被相続人の死亡と同時に、相続人に承継されるため、登記の名義だけが変わっていないだけであり、その不動産は既に一応相続人のものとなっているのです。



相続財産を相続した相続人は、相続の承認または放棄するまでの間、相続財産を管理する義務を負います(民法918条)。



——「相続放棄」といって、相続を放棄することもできるんですよね。



相続放棄とは、相続の開始によって一応生じた相続の効果を、全面的・確定的に消滅させる(拒否する)行為です(民法938条)。



相続放棄をすれば、相続放棄をした者は、はじめから相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)。



要するに、相続放棄とは、先代の借金などが相続されるのを遮断する制度なのです。



たとえば、父親に借金があって、母親が既に死亡しており、子が1人いるとします。借金が残ったまま父親が死亡した場合、その借金は相続により、子に承継されます。



しかし、子が相続放棄をすれば、その子は父親の借金を承継せずに済むことになります。



●残された借金は、他の相続人に引き継がれる

——相続放棄をすれば、親の借金は帳消しになりますか。



相続放棄をしたとしても、借金がなくなる訳ではなく、あくまで引き継がずに済むだけになります。残された借金は、他の相続人に引き継がれることになります。   先程の例では、母親が既に死亡しており、子は相続放棄をしています。



そうなると、もし父親の両親が存命していれば、父親の両親に借金が承継されます(民法889条1項1号)。もし父親の両親が既に死亡しており、かつ、父親に兄弟がいた場合は、父親の兄弟に借金が承継されます(民法889条2号)。



したがって、父親の兄弟において、相続放棄をするかどうか検討する必要があります。



——他の相続人に引き継がれるということは、例えば、亡くなった父親から見て孫がいた場合は、孫も相続放棄をしなければならないのですか。



する必要はありません。



代襲相続といって、相続人が既に死亡等の相続することができない事由が生じた場合、死亡等した相続人の子が、相続することになります(民法887条2項、3項)。



しかし、相続放棄をすると、相続放棄をした者は、最初から相続人ではなくなるため、代襲相続は生じず、相続放棄をした者の子も当然相続しないことになります。



したがって、相続放棄をした者の子は、相続放棄をする必要はありません。



●相続放棄が必要なとき

——どのような場合に、相続放棄が必要になりますか。



先程の例のように、被相続人の借金などの債務(いわばお金を支払う義務のこと)を承継したくないときは、相続放棄をする必要があります。



また、借金などがあるか分からないものの、後から借金が見つかって自分が払う事態にならないように、予防的に相続放棄をする場合もあります。



——相続放棄をした場合、預貯金などプラスの財産も放棄することになるのでしょうか。



なりますね。 相続放棄は、マイナスの財産だけでなく、プラスの財産の承継も拒否するものです。



——亡くなった人に借金があるかどうか、聞かされていない場合はすぐに分からないと思うのですが、どうすれば借金の有無が分かるのでしょうか。



例えば、相続人に対し、銀行から借入の返済を求める連絡があったり、死亡直前に入院していた入院費用を請求する通知書が届いたりするなどして、借金などの債務が発覚することがあります。



●相続放棄のやり方

——相続放棄は、どこで、どのようにすれば良いですか?



相続開始地、すなわち亡くなった方の最後の住所地(民法883条・22条)を管轄する家庭裁判所で行います(家事事件手続法201条1項)。



あくまで家庭裁判所で行う必要があるため、自分で「相続放棄をした」などと一方的に宣言しても相続放棄は成立しません。



よく「相続放棄をした」とおっしゃる方を見かけますが、よくよく聞くと、家庭裁判所で何も手続きしていないことがあります。また、「他の相続人から相続放棄のような題名の書類が送付されてきて、そこに署名押印して返送したから相続放棄が完了した」などとおっしゃる方もいます。



しかし、相続放棄は、家庭裁判所に対して行うものですので、上述した例はいずれも相続放棄をしたことにはなりません。



やり方は、家庭裁判所に対し、以下の提出が必要になります。



(1)相続放棄申述書を作成して提出
(2)亡くなった方の戸籍(除籍)謄本
(3)亡くなった方の住民票(又は戸籍の附票)
(4)相続放棄の申述(いわば申込み)をしている相続人の戸籍謄本



また、被相続人と相続放棄の申述をしようとしている相続人との関係が、上記(2)と(4)だけでは分からない場合は、追加の戸籍謄本等の提出が必要になることがあります。



なお、東京家庭裁判所では、相続放棄のときに提出すべき戸籍の範囲等について、説明文書をインターネット上で書式と一緒に公開しています。そのため、あらかじめこの説明文書を読んで収集が必要な書類を確認するといいでしょう。



申述書の書式は、家庭裁判所に行けばもらうことができると思います。



また、裁判所のホームページには、申述書の書式がPDF形式でアップロードされているので、それをダウンロードの上印刷して作成することもできます。



ちなみに、裁判所のホームページは、裁判所全体のホームページと各地方の裁判所のホームページが分かれていて、掲載されている内容に違いがあります。ワード形式の書式データを使用したい場合は、東京家庭裁判所のホームページから書式をダウンロードするといいでしょう。



●相続放棄は亡くなってから3か月以内にしなければならない

——相続放棄は、いつまでにする必要がありますか。



「自己のために相続の開始があったことを知った時」から、3か月以内とされています(民法915条1項、この期間を熟慮期間といいます)。



この「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、(1)死亡などの相続開始の原因となる事実を知り、かつ、(2)それによって自分が相続人になったことを知った時とされています(大審院大正15年8月3日決定民集5巻679頁)。



このように被相続人が亡くなってからでしか相続放棄はできません。仮に亡くなる前にしたとしても、それは無効です。



——熟慮期間は3か月以内とされているんですね。伸ばすことはできないのでしょうか?



相続財産の内容が複雑で調査に時間が必要な場合など、被相続人の死亡後3か月以内に相続放棄をするかどうか決めることができない場合は、家庭裁判所に請求して伸長(いわば延長)することができます(民法915条1項但書)。



——借金があるとは知らず相続放棄をしなかった場合は、3か月を過ぎると相続放棄はできなくなってしまうのでしょうか。



相続放棄をすることができる可能性があります。



判例によれば、被相続人に相続財産が全くないと信じたことに相当の理由がある場合には、相続人が相続財産の全部もしくは一部を認識した時か、通常認識し得た時から3か月(熟慮期間)を起算するとしています(最高裁昭和59年4月27日判決民集38巻6号698頁)。



そのため、全く借金がないと思って特に相続放棄をしていなかったところ、亡くなってから3か月を経過した後に借金の存在が発覚した場合、相続放棄をすることができる余地があるといえます。



したがって、3か月を過ぎていても、今説明したような状況であれば、あきらめずに相続放棄した方がいいでしょう。



●相続放棄にかかる費用

——相続放棄するのに費用はいくらかかりますか。



相続放棄の申述をする相続人ごとに、800円の収入印紙を用意して申述書に貼る必要があります(民訴費3条1項・別表第1第15項)。



また、切手を納める必要があります。納めるべき切手の金額と数は、申述をしようとしている家庭裁判所のホームページを確認したり、電話をかけたりして、あらかじめ確認するといいでしょう。ちなみに、秋田家庭裁判所では、ホームページによれば84円切手が2枚必要となります。東京家庭裁判所では、説明文によれば84円切手が4枚、10円切手が4枚必要となります。



——遠方の場合、直接行かずに郵送で手続きすることもできますか。



できます。郵送先となる家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所となります。管轄や受付窓口は、各裁判所のホームページに記載されています。



●複数の相続人がいたら?

——相続人が複数いた場合、まとめて相続放棄をすることはできますか。



相続放棄の申述は、同じ順位の相続人であれば、1通の申述書でまとめて行うことができます。



しかし、異なる順位の相続人、先程の例でいうと、子が相続放棄をしたら相続人になる父親の兄弟は、子が相続放棄の申述をした後でなければ、相続放棄の申述をすることができません。



したがって、自分が相続放棄をしたことによって、他の親族に影響があることを気にするのであれば、影響がある親族に対し、あらかじめ相続放棄によって順位が繰り上がる可能性があることを連絡しておくといいかもしれません。



——相続放棄の効果はいつ発生するのですか。



家庭裁判所に相続放棄の申述が受理された時に発生します(家事事件手続法201条7項後段)。



——相続放棄をすると、何か通知などが届くのですか。



家庭裁判所が相続放棄の申述が受理されると、家庭裁判所から、相続放棄申述受理通知書が発行されます(家事事件手続法規則106条2項)。これにより、相続放棄の申述が受理されたことが分かります。



そのため例えば、亡くなった方の借金の請求の連絡が来ているような場合、この相続放棄申述受理通知書のコピーを連絡元に送付するなどして、自分が相続放棄をしたことを証明したりします。



なお、この相続放棄申述受理通知書は再発行することができない模様です。



相続放棄申述受理通知書が手元に無い状況で、相続放棄をしたこと証明する必要がある場合、家庭裁判所に対して申請をすれば、相続放棄の申述が受理されたことを証明する相続放棄申述受理証明書が発行されます。



●相続放棄しても不動産の管理義務は残る!

——相続放棄をすれば、いらない不動産についても放置してOKですか。



いえ、相続放棄をした相続人は、新しい相続人または管理人によって相続財産が管理されるまでの間、相続財産を自分の財産と同じ程度の注意義務で管理しなければなりません(民法940条1項)。



そのため、相続人になり得る者が全員相続放棄をした場合、相続放棄をした者は、事実上ずっと管理義務を負うことになります。



したがって、例えば相続財産が土地のケースだと、土地に雑草が茂って虫が発生して近所迷惑となった場合、除草や虫の駆除を行わなければなりません。



建物の場合、建物が老朽化して崩落したりしないように管理しなければなりません。実際に崩落しそうになった場合は、市町村から警告文が届いたりすることもあるようです。



また、崩落して周囲に損害が発生した場合は、賠償義務を負うことがありますので、あらかじめ火災保険や施設賠償保険に加入することも検討したほうがいいでしょう。



——相続放棄をしても、管理し続けなければならないのですね。どうにかして、相続放棄をした相続財産を手放す方法はないのでしょうか。



家庭裁判所に対し、相続財産管理人の選任の申立をし、選任された相続財産管理人に相続財産を処分してもらう方法があります。



ただしこの方法は、選任申立のときに相続財産管理人が活動するために必要な費用を一定程度用意する必要があります。用意すべき金額は、ケースバイケースですが、不動産を売却するとなると、最低でも30~50万円は用意する必要があると感じています。



なお、相続放棄をした場合ではないですが、土地を相続した場合、一定の条件を充たせば、相続土地国庫帰属制度を利用して、土地を国に取得してもらう方法があります。この制度は、2023年4月27日に施行されます。



●相続放棄が認められなくなるケースとは

——相続放棄が認められなくなることはありますか。



相続開始によって一応生じた相続の効果を、全面的・確定的に帰属させる行為である単純承認をした場合、相続人は被相続人の権利や義務を引き継ぐことになります(民法920条)。



つまり、単純承認となる行為をした場合、相続放棄が認められなくなってしまいます。



また、一定の事由が存在した場合、単純承認したことになってしまうものが、法律に定められています(これを法定単純承認といいます。民法921条)。



その代表的なものとして、相続人が相続放棄をする前に、相続財産を「処分」してしまうと、単純承認したとみなされて相続放棄が認められなくなってしまいます(民法921条1号)。



この「処分」とは、相続財産の現状やその法的性質を変える行為とされています。



要するに、相続財産の状態に変更を加えると「処分」に該当してしまい、相続放棄が認められなくなってしまう可能性があるのです。



たとえば、預金口座を解約したり、不動産の名義を変更すれば、「処分」に該当して相続放棄が認められなくなってしまうと考えられます。



また、故人が愛用していた品物を分ける「形見分け」についても、「形見分け」をした相続財産の価値などによって「処分」に該当するかどうかが判断されていると考えられますので、慎重に検討した方がいいでしょう。



——葬儀費用を相続財産から支払う場合は、「処分」に当たりますか



相続人が被相続人の預貯金を被相続人の葬儀費用や墓石購入費用の支払いに当てる場合、「処分」にあたらないか問題になることがあります。



これについては、実務上、葬儀費用等の額や相続財産の多少等を考慮し、社会通念に照らして相応の支出であるかぎり、「処分」に当たらないと解されています(大阪高裁平成14年7月3日決定家月55巻1号82頁)。



つまり、葬儀費用や墓石購入費用の支払いに被相続人の預貯金を充てるのであれば、基本的には相続放棄は認められるということになります。



——自分の財産で、被相続人の借金を返済した場合は、「処分」に当たりますか



例えば、死亡した父親の借金が残っており、相続人である子が自分の財産でその借金を返済する場合、「処分」にあたらないか問題になることもあります。



これについては、相続財産の「処分」に当たる可能性があるという見解と、「処分」に当たらないという見解があります。



ただ実際のところ、どうせ相続放棄をする訳ですので、わざわざ自分の財産を減らして、しかも相続放棄が認められなくなる危険を犯してまで、被相続人に借金を返済する必要はないと考えられます。



したがって、このような状況では返済をするべきではないでしょう。



●不動産登記法の改正の影響は?

——不動産登記法が改正されて、2024年6月より不動産の相続登記が義務化されます。相続放棄をすれば、相続登記をする必要はないのですか。



必要はないと考えられます。



相続放棄をすれば、その相続人は最初から相続人ではなかったとみなされます(民法939条)。そして、相続登記をする義務を負うのは、「相続により所有権を取得した者」とされています(改正不動産登記法76条の2第1項)。



したがって、相続放棄をした者は、相続により所有権を取得しないため、相続登記をする必要はないと考えられます。



●相続放棄を弁護士に依頼すべきときは?

——相続放棄は弁護士に依頼した方が良いですか。



相続放棄の手続自体はそこまで難しくありませんので、必ずしも弁護士に依頼する必要はありません。



ただ、仕事が忙しくて戸籍等を収集する時間がなかったり、戸籍等の収集のやり方が分からなかったり、死亡後3か月の期限が迫っていたりする場合は、弁護士に依頼した方がいいかもしれません。



——弁護士費用はどれぐらいですか。



弁護士事務所によります。



弊所の場合は、相続人1人につき基本的に4万円程度としていますが、相続放棄をする相続人の数が増えたり、急ぎだったりすると、いただく料金が増額します。ご依頼を受ける前に御見積をお伝えするようにしていますので、その金額を見て依頼されるか判断いただければと思います。




【取材協力弁護士】
田中 伸顕(たなか・のぶあき)弁護士
秋田弁護士会所属。交通事故、離婚、債務整理から、インターネット上の誹謗中傷まで扱う。「住む地域にかかわらず、悩みを解決できるようにしたいです。事件には、大きいも小さいもないと考えています。そのため、どのようなご相談・事件についても一所懸命、全力で取り組みたいと思いますので、お気軽にご相談ください」
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事務所名:田中法律事務所
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