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わずか1年で成し遂げた「全種類コンプ」 とあるどんぐりクラスタの奇跡の物語

2023年01月13日 18:01  おたくま経済新聞

おたくま経済新聞

わずか1年で成し遂げた「全種類コンプ」 とあるどんぐりクラスタの奇跡の物語

 人それぞれ夢中になる何かがありますが、Twitterユーザーのどんぐりの人さんは、ハンドルネームの通り「どんぐり」に魅了された人物。


 その「矛先」は、日本国内に自生する種を収集することに向けられるようになり、なんと2022年の1シーズンで国内産全種類コンプリートを達成しました。


 様々な協力者のもとで成し遂げたそれは、運をも味方につけた奇跡の冒険譚となっています。


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 幼少の頃から、様々な造形物を好んでいたというどんぐりの人さん。特に形のはっきりしたものが好みだったそうです。


 社会人になり疎遠となっていく中で、大きな転機となったのが3年前。子どもと行った「どんぐり拾い」でした。


 「元々同じ樹種のどんぐりでも、大小様々であることは知っていましたが、同じ形状や大きさのどんぐりは、1つの木が落とす範囲でもある半径数メートルほどの範囲で、まとまって落ちていることに気づきました」


 以前より、自然界に存在するものにも興味を持っていたどんぐりの人さん。ふとした気づきから、現地での観察やネットなどでブナ科の「樹木」について詳しく調べるようになり、その結果、同種でも木によって実らせるどんぐりの形態が異なることを知ります。


 「それからもっと色々な種類や個体差も見たいと思うようになり、観察していく中で、どんぐりの奥深さ、美しさにも気づき、どんどん『どんぐり』の魅力に引き込まれていきました」


■ ググって歩いて教わってどんぐり採集

 俳句の季語にもなるほど、秋の季節では公園などで目にする機会の多い「どんぐり」。一方、種類によってはなかなかお目にかかれないものも存在します。


 「そういったものは、大型の公園などで公開されている『どんぐりマップ』や、どんぐりについて活動している方のブログなどで情報収集して、私の観察眼を養っていきました。また、Twitterのフォロワーさん達からもどんぐりに関する様々な知識を教わりました」


 これにより、未訪問だった公園の他に、神社や里山にも足を運んで“どん活”に勤しんだどんぐりの人さん。なお、日本では22種ものどんぐりが分布しているそうですが、先の情報をもとに収集活動を行った結果、なんと20種まで採集が出来ました。


 その中には、「絶滅危惧種」に認定されている「ハナガガシ」も。加えてこの種は、四国と九州の一部にしか生育していないのですが、偶然近くで植栽されていることを知り採集にいたったそう。


 「いつかはコンプリートしたいとは思ってはいましたが、特に目標にしたわけではありませんでした」


 「完全制覇」が視野に入ったこともあり、折角ならと挑戦してみることにしたどんぐりの人さん。ところが、残る2種は先のハナガガシに匹敵、あるいはそれ以上の「難敵」だったのです。


■ 運も味方にした「年間制覇」

 この時点で、どんぐりの人さんが未採集だったのは、「イヌブナ」「オキナワウラジロガシ」という種。まず獲得を目指したのが「イヌブナ」ですが、ある特徴を有していました。


 「イヌブナは、『豊作』の周期が5~7年などんぐりなんですが、『不作』の周期に入ると、徹底的に実を付けないものでもあるんです。実はこれまで実物を見たことがありませんでした」


 しかし、ここで強運を発揮したどんぐりの人さん。念願の採集が叶ったのが2022年秋でした。ついに残すのは、「オキナワウラジロガシ」ただ1つ。


 「ここまでくれば1シーズンでの制覇を意識するようになりました」


 運も味方につけたどんぐりの人さんですが、最後に待ち受ける「ラスボス」にはさらなる高いハードルがありました。


 「オキナワウラジロガシ」という名前の通り、この種が生育するのは沖縄県。もしくは、「大和浜のオキナワウラジロガシ林」が国の天然記念物に指定されている鹿児島県奄美地方に存在するのですが、どんぐりの人さんはいずれの住民ではありません。


 もはやこれまでか……12月に入ろうとするタイミングもあり、半ばあきらめかけていたところである「秘策」を打ち出します。


 「家族旅行で沖縄に向かうことにしたんです。近場の温泉にでも……と言っていた話を思い切って変更しました」


 さらに、家族の了承を経て「単独行動」の許しも得たどんぐりの人さん。自身の趣味は、ついに一家を巻き込む壮大なプロジェクトとなりました。


 とはいえ、与えられた時間はわずか「1日」。さらに、オキナワウラジロガシというのは、沖縄でも奥地でしか生育しておらず、現地の人でもそう簡単にお目にかかれません。


 「正直、限られた時間で見つけられるかは不安でした」と語る中、どんぐりの人さんを強力にサポートしたのがTwitter。自身と同じ「沼」の住人たちに、沖縄在住のフォロワーからアドバイスを受け、たった1度のチャンスに全てを賭けます。そして……


 「ついに!」


 2022年12月12日午後3時過ぎ。自身の掌を写した投稿にあったのは、「オキナワウラジロガシ」の姿。


 「憧れのどんぐりだけあり、初めて出会った時は感動でした。Twitterのフォロワーの皆さん、そして何より私の道楽を許してくれた家族に感謝です」


 たった1年で成し遂げたどんぐりの人さんの「国内産どんぐりフルコンプリート」。周囲の理解とサポートと、運も味方につけての「奇跡」でした。


■ 実は結構違う「どんぐりの背比べ」

 自身の「どんぐり道」に一定の道筋をつけたどんぐりの人さん。しかし、「まだ見ぬどんぐりの木の住処を開拓したい!」と探求心が尽きることはありません。


 ところで、「どんぐりの背比べ」なんて言葉があるほど、「代わり映えしない」の代名詞で捉えられがちなどんぐりですが、実のところは意外と大きさの違いがあります。


 フルコンプリートにあたり、どんぐりの人さんは、亜種変種等の4種を含めた26ものどんぐりを紹介。その中には、指先でつまめるものもあれば、「日本最大のどんぐり」とも称され、今回“ラスボス”として立ちはだかった「オキナワウラジロガシ」のように、ゴルフボール大まで育つものも存在します。


 しかも今回採集できたそれは、曰く「標準サイズ」とのこと。どんぐりは日本国外で生育する種も存在し、寧ろここからが、「どんぐりGO」のスタートラインといってもいいのかもしれません。


 「今回は限られた時間でしたので、まだまだ探索し足りない気持ちはあります。最大級のどんぐりを求めて、またいつか奥地を訪れてみたいです」



<記事化協力>
どんぐりの人さん(@donguribito)


(向山純平)