2023年01月12日 19:01 弁護士ドットコム
名古屋刑務所で収容中に死亡した71歳の男性受刑者の遺体に、身体拘束や暴行を受けたような痕があったとして、遺族が死亡の真相究明をもとめて第三者委員会に調査を申し入れた。男性の弟が1月12日、都内で記者会見を開いて明らかにした。
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名古屋刑務所をめぐっては、複数の刑務官が受刑者らに暴行や暴言を繰り返していたとして、法務省が2022年12月に有識者による第三者委員会を設置。2021年11月~22年8月にかけて、顔を叩いたりする暴行や土下座させるなどの不適正な処遇があったと報告されている。
男性も2022年3月1日に亡くなっており、上記期間にあてはまる。
男性の弟は会見で、遺体の写真を見せながら「これが普通のことだと思いますか? すごく残酷でかわいそうです。体罰を受けたんだと思います」と声を詰まらせた。
(記事後半に遺体の写真があります。読む際には注意してください)
弟や代理人らによると、男性は暴行罪で刑期6カ月の有罪判決を受けて、名古屋刑務所に入り、2022年4月に出所する予定だった。
同年2月22日、刑務所から男性のきょうだいに「男性が体調を崩し重症指定になり、病名は心筋梗塞の疑いと多臓器不全で、容態が急変する可能性がある」との連絡があった。それから1週間後の3月1日、多臓器不全で死亡したとの知らせを受けたという。
刑務所の医師が作成した死亡診断書には、死亡日時のほか、「直接死因:多臓器不全、その原因:心筋梗塞」と書かれていたそうだ。
遺体は当初、死装束をして棺桶に入れられている状態だったが、着物や脚絆などを脱がすと、数えきれないほどの全身の傷や、拘束されたと思しき両手首の痕が見つかった。
不審に感じた弟らが、刑務所で経緯や死因の詳しい説明をもとめたところ、担当した医師ではなく、その上司が「1週間くらい入院していたが、男性がこれ以上治療をしたくないと断ったので病院から出てきた」などと回答。それ以上の事柄や、入院先の病院を聞いても「教えられない」「もうこの件は終わりました」として、引き止めには応じず、足早にその場を去ったという。
弟はその後、愛知県警に連絡し、司法解剖が実施された。被疑者不詳の殺人事件として送致されたが、名古屋地検岡崎支部は5月30日に不起訴処分とした。不起訴の理由や司法解剖結果は遺族に明らかにされていない。
そのような中、名古屋刑務所の暴行問題をめぐる第三者委員会が設置されたことを受けて、遺族は、男性の死の真相究明もあわせておこなうように求めることを決めた。2023年1月10日、第三者委員会に死亡経緯の調査申し入れをおこなった。
このほか、不起訴記録の開示請求手続きや、男性の医療記録や捕縄や保護室などの使用履歴等の証拠保全を東京地裁に申し立てている。
1月13日には第三者委員会が刑務所で現地調査をおこなう予定だという。今回の遺族の動きは、それにあわせたものだ。
「私は兄の真相を知りたいです。ちゃんと調べてやっていただきたいと思います。法務省もちゃんと調べてください」
マスコミ各社に示された遺体写真には、手首の傷や、えぐれて肉が見えている足のかかと、脚から出血した様子などがうつっていた。
「兄の体を見たら、全身傷だらけでした。着物を脱がしてもらったら、脚など血が出てたり、腕にはひもでしばったような痕があった。これはおかしいと思って、すべて写真を撮りました。すごく残酷で、かわいそうでした」
弟は対面した兄の変わり果てた姿を思い出し、声をつまらせてこう話した。
「兄も間違いなく体罰を受けたんだと思いました」
弟の代理人をつとめる海渡雄一弁護士は、刑務所内で受刑者が「変死」した場合、公表しなければならないとして、すでに規則違反だと指摘する。
また、入院先まで教えないことから、入院したのかさえ怪しいところがあるとも考えられるとし、「刑務所にとって説明できないようなことがあり、隠そうとする意図があるのではないかと考え、徹底的に真相究明しなければいけない」と述べた。