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森口将之のカーデザイン解体新書 第59回 スピンドルボディに込められた意味とは? レクサスの新型「RX」

2023年01月12日 11:41  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
レクサスの中核車種として世界各地で根強い支持を受けるSUVの「RX」がモデルチェンジした。スタイリングについては人気車種だけに大きな変化はないものの、「スピンドルボディ」をはじめ随所に新しい要素を盛り込んでいる。今後のレクサスの姿を占う1台といってもよさそうだ。


○スピンドルボディと電動化の関係



新型RXは日本では3代目だが、グローバルでは5代目になる。日本では初代と2代目がトヨタ自動車ブランドの「ハリアー」として販売されたためだ。デビューは1998年で、まず北米に投入された。



それまで、ほとんどのSUVはピックアップトラックをベースとし、ラダーフレームに縦置きパワートレインを組み合わせていた。その中でRXは、横置きパワートレイン前輪駆動のセダン「カムリ」のプラットフォームを採用するという、プレミアムブランドのSUVとしては初の試みに挑戦した。



結果的にはこの設計が高い評価を受け、2022年9月末時点までに約95の国と地域で累計約362万台を販売。近年は世界でいちばん売れているレクサスになっている。



だからだろう、新型のスタイリングはパッと見た感じでは先代と大きく変わらない。「フローティングピラー」と名付けられたリアクォーターの処理、リアの点灯時にL字型に光るリアコンビランプなどは先代から継承している。


ボディサイズも全長は先代とまったく同じ4,890mmで、全幅は25mm幅広い1,920mm、全高は5~10mm低い1,700~1,705mmと大差はない。



しかしながら、新型ならではという部分もある。なによりもまず取り上げるべきは「スピンドルボディ」だろう。発表順で行けば電気自動車(EV)の「RZ」に続く採用になるが、RZはまだプロトタイプの段階であり、市販車ではこちらが初になる。


近年のレクサス各車はフロントに「スピンドルグリル」を掲げていた。トヨタのものづくりは豊田佐吉が発明した自動織機にルーツがあることから、糸を紡ぐ際に使う紡錘(スピンドル)をモチーフとしたものだ。


しかし、RZはEVなのでグリルは不要。そこでスピンドルをパネルで造形し、ヘッドランプやサイドのルーバーと対比させた。


一方のRXはエンジンを積む。そこでグリルは残しつつ、ボディパネルをロゴマーク下端まで下げ、左右端ともどもグラデーション処理を施すことで、ボディとグリルをシームレスにつなげた。



RZほど明確ではないものの、グリルを枠で囲むことをやめ、境目をグラデーション処理としたことで、スピンドルボディであるというメッセージとしたようだ。



レクサスは2035年に全車をEVにするとアナウンスしており、今後ますます電動化比率が上がるはず。そのメッセージとしてスピンドルボディを導入したのかもしれない。

○Fスポーツ差別化の手法に変化

スポーティーグレードの「Fスポーツ」(Fスポーツパフォーマンスを含む)とそれ以外のグレードの差別化も手法が変わった。



先代はグリル内がFスポーツはメッシュ、それ以外は横桟としていたのに対し、新型は全車メッシュとしつつ、Fスポーツはグリル上辺のグラデーションの位置が上がり、サイドのインテークも大きく、周辺の彫りが深くなった。ここからも、グリルではなくボディで表現するというメッセージが伝わってくる。


先代と似ているように感じるボディサイドは、よく見るとノーズが水平に近づき、リアエンド近くではなだらかに下がっていくなど、ウエッジシェイプが弱められている。ホイールアーチが台形から円形になったこともあり、伸びやかで落ち着きが増した。



それでいて、フロントピラーの付け根を後ろに下げたことでノーズの存在感が強まり、サイドシルからリアフェンダーにかけて跳ね上がるラインで後輪まわりの力強さが強調されるなど、開発の主眼となった乗り味や走り味のよさをアピールする姿勢も目立つ。



リアまわりも後端を下げたリアウインドーや左右をつなげた水平基調のコンビランプなどにより、落ち着いた雰囲気。サイドから回り込むリアクォーターウインドー、少しずつ太くなるウインドー上端のモールなどにより、エレガントにもなった。それでいて、台形の彫りの深いキャラクターラインでしっかりと踏ん張り感も出している。



サイドについてもいえることだが、キャラクターラインが整理されたことで個々の造形の主張が明確になり、全体としてメリハリがついたことは褒められる。

○インテリアは「NX」の手法を継承



エクステリアよりも変化が大きいと感じるのがインテリアだ。こちらは2021年にモデルチェンジし、新しいコックピット思想 「Tazuna Concept」を導入した「NX」(RXよりひとクラス下のSUV)との共通項が多い。


メーターがフルデジタルになり、センターディスプレイがすぐ隣に置かれるインパネ、センターコンソールのレイアウトやセレクターレバーの形状、プッシュ式のドアハンドルなどがNXと共通する部分だ。これらもスピンドルボディ同様、今後のレクサス各車に反映されるのだろう。



多くのスイッチをセンターディスプレイ内に表示しつつ、エアコンのコントロールはダイヤルを残しているところや、ステアリングスイッチの操作の様子をヘッドアップディスプレイに映し出す仕組みなどもNXと同じだ。タッチパネルを用意して終わりとしなかったところに、日本のプレミアムブランドらしい配慮を感じる。



NXと違うのは、インパネ上面からドアパネルにかけての面をスムーズにつなげたところ。広がり感と包まれ感が得られそうだ。シルバーのアクセントラインが多くなることもRXの特徴だが、先代と比べるとそのラインは繊細になっていて、より大人っぽい空間になっている。



スペースは、前席左右の間隔が全幅の拡大を受けて20mm拡大したとのこと。前後ヒップポイント間の距離は先代と同じだそうだが、前席背もたれを薄くすることで、足元を広くしているという。



荷室容量は後席を立てた状態で612リッター。先代の553リッターを大きく凌ぐスペースを確保している。両脇とゲートの合計3カ所にLEDのランプを用意するなど、プレミアムブランドらしい配慮もしっかり押さえているようだ。


レクサスに限らず、売れている車種のモデルチェンジは予算を多くかけられる反面、大胆な変革をしにくいというジレンマがある。そのなかでクルマの顔といえるグリルを一新した新型RXは、かなり大胆な進化に打って出たと感じている。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)