「メタバース」が大方の予想通り、大コケしている。「Meta」に社名変更までして取り組んだFacebookは、社員の13%にあたる、1万1000人超の大規模リストラを発表した。
同社のメタバース部門は、今年に入って100億ドル近い損失を出したと報じられている。昨年340ドルぐらいあった同社株は、現在は100ドルそこそこに落ち込んでいる。
なぜなのか。これまでメタバースについて関心が薄かった、ほとんどの賢明な読者の方たち向けに、詳しめに分析してみたい。(文:昼間 たかし)
起死回生の一手はあるのか?
メタバースは、あえて一言でいうと「インターネット上に構築された仮想空間」のこと。そこでは現実世界と同じく、様々な活動・交流やビジネスができるので、これからどんどん活用されるだろうと期待されていた。
メタバースをやったことがなくても、バーチャルYouTuber(VTuber)はチラ見したことぐらいはあると思う。メタバースでは、ああいう存在をもうひとりの自分(アバター)として使って、「もう一つの別の世界」で暮らそうという感じなのだ。
これ、一般社会だと「最近でてきたもの」という認識だろうが、実はフィクションの「SF」の世界では、1980年代ぐらいから登場している存在。メタバースが普及した世界を描いた漫画やアニメ、映画は実に多い。
主人公は、リアルでは悲惨な状態・暮らしをしていても、仮想空間(メタバース)にいけばイケメンになったり、ヒーローになったりできるというヤツである。
そんなわけで、SFファンたちの「夢の世界」が実現!という感じになるので、そういう向きには期待に胸を膨らませていた人は多かっただろう。
でも、現実はこの体たらくである。誰もやっていない。メタバースに入り浸っている人、知り合いに誰かひとりでもいるだろうか?
その最大の理由は、「ちょっと試して見ようか」と思うだけでも、膨大な金額が必要なこと。
筆者はVRが話題になり始めた2019年に「これは知って起きたい」と最低限の機材を導入したのだが、パソコン本体が19万9788円。ヘッドセットのHTC VIVE CE(99HALN070-00)が6万9390円もした。
さらにちょっと予想外だったのが、家具や電源コードの買い換えも必要だったこと。それも合わせると、だいたい初期投資が30万円くらいになった。
うん、この時点で「VRは魅力的なジャンルだが、現時点では絶対に流行らない」と確信した。当たり前である。
最近、一世を風靡した家庭用ゲーム機PlayStationも、見回すと、ほぼ誰も持っていない。「品薄だから」だけではない。本体6万円超えのゲーム専用機を我も我もと買えるほど、みんなお金が余っているとも思えない。かつてセガサターンとPSが市場シェアを争っていた時、両者は熾烈な値下げ競争で2万円を割るところまで価格を下げていた。もう忘れているかもしれないが、インターネットの普及期には、あのYahoo!BBが街頭でモデムを無料で配りまくったりしていたのだ。
つまり、もし「メタバース」を流行させたいなら、メタはYahooを見習って、VRヘッドセット「Meta Quest 2」を世界の街角で無料配布すればよいのだ! まあ、高すぎて無理なんだろうけど。
実際にVR界隈で唯一元気そうに見えるのは、「ソフトを購入したらアプリを起動させて、100円ショップでも売ってるゴーグルに差し込めばOK」を売りにしているFANZAぐらいである。
まあ、ようは「めんどう」で「高すぎる」わけだ。これをクリアして、初めて本格メタバースがやってくる。メタの本社があるカリフォルニアの人たちは、高い物価に慣れすぎて、世界の人々の生活実感を見誤ったのかもしれない。
円安不況で買い控えが続く今「これは買わなきゃ」という意欲を湧かせるのは困難。かつて「Windows95」が発売された時にはパソコンを持っていないのに「なんだか流行っているから」という理由で、よくもわからず「Windows95」のパッケージを並んで買う人もいたほどだ。そんなノリが出てきそうな予兆は、まだ見えてこない。