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ラグジュアリーブランドの悪質クレーム、転売目的の交換要求も 元顧客対応マネージャーがカスハラ対策に奔走

2023年01月05日 10:51  弁護士ドットコム

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ラグジュアリーブランドを代表する「ルイ・ヴィトン」。近藤修さんはルイ・ヴィトンに36年間勤務し、うち10年をカスタマー・ハラスメント(カスハラ)を含む顧客対応にあたった。退職後は業界を超えてカスハラ対策を考える「日本対応進化研究会」を設立し、カスハラ対策としての法制化を目指し活動している。消費者庁の「対応困難者への相談対応標準マニュアル」作成の検討委員も務めた近藤さんに、ラグジュアリーブランドの「悪質クレーム」について聞いた。(ライター・国分瑠衣子)


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●創業家4代目からルイ・ヴィトン・トランクの開け方まで基本をたたき込まれた

――ルイ・ヴィトンではどんな仕事をしてきたのですか。



1977年に高島屋グループに入社し、ホテルニューオータニ内、サンローゼ赤坂店の宣伝企画担当として配属されました。翌1978年にルイ・ヴィトンがニューオータニ内にオープンし、スタッフとして入ったのがスタートです。ルイ・ヴィトンサンロゼ赤坂店長になった翌年、ルイ・ヴィトンジャパンへ転職しました。



創業者一族から直接教育を受けたことが印象に残っています。1979年に本店があるパリへ研修に行きました。当時本店があったマルソー通りの本店で、4代目のアンリー・ルイ・ヴィトン氏からブランドの原点であるトランクの開け方などルイ・ヴィトンのノウハウについて教わりました。



渋谷西武百貨店の店長を経て、1992年に当時アジアで最も大きかった横浜元町の直営店店長になります。



1994年に東日本のエリアマネージャー、リペアーサービスの統括マネージャーを経て2001年から約10年間、顧客対応をするカスタマーサービス担当になりました。



●何年も前に買った商品「使っていないので新品と交換してほしい」

ーー顧客対応ではどんな仕事をしたのでしょうか。



私がルイ・ヴィトンにいたのは2014年までなので、それ以前の話だと思って聞いていただければと思います。



2001年、日本独自の取り組みとしてコールセンターが立ち上がりました。



当時、店舗では接客のため電話に出られないことが多かったのですが、在庫や店舗の場所などの問い合わせに対応することで、サービスの向上につながりました。日本の取り組みに習い、その後パリでもコールセンターが開設されました。



ーーラグジュアリーブランドに共通するクレームの特徴は何でしょうか。



大きく2つあります。1つは接客サービスに対するクレーム。もう1つは商品に対するクレームです。当時は転売に関連したクレームもありました。



ーー転売に関するどんなクレームがあったのですか。



例えば、何年も前に買った商品なのに「ほとんど使っていないから新しいものと交換してほしい」という要求ですね。持ってきた商品が新しいか古いかは一目見ると分かります。海外で大量の商品を購入し、日本に帰国後、例えば50万円の商品を当時5万円の人気商品10点と交換してほしいと言われたこともありました。



こうしたケースは転売目的がほとんどだと思います。他にも限定品の発売日に前夜から並んで大量に買い、2倍、3倍の値段で転売するケースもあります。お客さまから「本来買いたい人が買えないのではないか」というご意見をいただいたこともあります。



●「高額なんだから当たり前」過剰なサービス要求

――転売以外のクレームにはどういったものがあるのですか。



消費者金融で資金繰りに困った人が名義貸しをしたクレジットカードを使い、第三者がカードで買い物をするケースです。例えば、買った商品にわざと傷をつけて「傷がついていたから現金で返金してほしい」と要求されたこともあります。



企業としてはできること、できないことを明確に何度も伝え、それでも納得していただけない場合は、弁護士に対応を依頼します。



正直、ハードなクレームで体調やメンタルを崩したこともありますよ。ただ、弁護士のサポートのおかげもあり、大きなトラブルに発展することはありませんでした。



ブランド品は顧客1人あたりの購入単価が高く、顧客を1人失うことは大きな痛手です。それでもできること、できないことを伝え、ご理解をいただくよう努力することはブランドの価値を守るためにも重要です。



ーールイ・ヴィトンの商品を買えるような所得の高い方のクレームは多いということでしょうか。



2017年、UAゼンセンの調査報告でもありますが、過度なクレームは高所得者に多く見られるんですよ。ブランドのエスプリに共感して製品に愛情を持っていただけることは本当にありがたいことです。ただ、お客様の方にも、高額な商品を購入するのだからそれ相応のサービスを受けても当たり前だという期待と気持ちはあると思います。



●最終的には法制化が必要

ーー近藤さんはルイ・ヴィトンを退職した2015年、業界を超えてカスハラ対策について考える日本対応進化研究会を立ち上げます。



全ての業界でクレーム対応にあたる人たちを守る法律をつくることが目的です。さまざまな業界の顧客対応の担当者たちと定期的に集まり、クレームの定義づけや、クレーム対応についてまとめました。それが書籍「グレークレームを〝ありがとう!〟に変える応対術」(日本経済新聞出版)です。お客さまと企業が良好な関係を築くのに役に立つ話法を伝えたいという思いがあります。



また2022年8月、消費者関連専門家会議が「現場責任者のための『悪質クレーム』対応実務ハンドブック~カスタマーハラスメント対策の手引き~」(PHP研究所)を出しました。私もサブリーダーとして執筆のお手伝いをさせていただいています。



世界的に見ても日本人のクレームはハードで、一線を越えたクレームに現場は疲弊しきっています。カスハラ対策として法制化が進めば「お客様は神様」という発想は変わっていくと思います。カスタマーハラスメントから従業員を守るため、企業が「悪質クレーム」対応を法的に捉える視点になることを願います。