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トヨタの新型「プリウス」は売れる? 速い? 3つの疑問に回答!

2023年01月04日 11:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
2022年11月にモデルチェンジを果たし、通算5代目に進化したトヨタ自動車の「プリウス」。デザインについては先代が賛否両論だったのとは対照的に、おおむね好評なようだ。しかしながら、今回発表された情報は一部であり、まだわからない部分も多い。マイナビニュース編集部から3つの疑問が寄せられたので、私なりにお答えしてみよう。


○疑問1:なぜ電気自動車(BEV)にしないの?



新型プリウスは初代以来の伝統であるハイブリッド車(HEV)と3代目から登場したプラグインハイブリッド車(PHEV)の2種類となる。



世界中の自動車メーカーが続々とBEVの新型車を送り出している中、なぜプリウスには設定がないのか。この疑問については「トヨタのカーボンニュートラルは全方位戦略だから」というのが答えになる。



トヨタのBEVというと、2021年12月に行われたBEV戦略に関する説明会を思い出す。あの場でトヨタは、「bZ4X」(2022年に発売)を含む計16台のBEVを一挙にお披露目した。


しかし、同じ席で豊田章男社長は、「これからもあらゆる動力源について真剣に取り組んでいく」と表明していた。グローバルでフルラインアップを展開するトヨタとしては、各国のエネルギー事情に違いがあり、クルマの使われ方も多様化していることを踏まえ、BEVのみに注力することはしないという姿勢を示したのだ。クルマを選ぶのはユーザーであり、メーカーが決めることではないというのが同社の一貫したスタンスである。



トヨタはBEVについて及び腰だとの意見もあるが、すでに日本ではbZ4Xを販売しているし、中国では「bZ3」を発表、米国では「bZコンパクトSUVコンセプト」を公開している。2030年に350万台のBEVを販売するという計画の達成に向けて、着々と足場を固めているように思える。


一方で、全方位戦略のトヨタにはBEV以外にも強力な車種が必要となる。HEVとPHEVのラインアップ強化に必須となるのが新型プリウスなのである。



エンジン車とBEVのプラットフォームを共通にした例もある。日産自動車の軽自動車「デイズ」と「サクラ」はその典型だ。しかし同じ日産でも、「アリア」と「エクストレイル」のプラットフォームは別物としている。



BEVはHEVやPHEVと比べて、バッテリーの搭載量がはるかに多くなる一方、エンジンは不要となるなど、パッケージングにおいてはかなりの違いがある。だからこそ、BEVを専用車としているわけだ。



こうした使い分けはトヨタや日産だけでなく、フォルクスワーゲンも取り入れており、理にかなったラインアップだと思っている。

○疑問2:新型プリウスは再びベストセラーカーになれる?



これに関しては、微妙というのが正直なところだ。



そもそもプリウスに限らず、現在の新型車は半導体不足や外国からの部品供給の遅延などが影響して生産の遅れが続いている。なので、仮に新型プリウスに大量の受注が入っても、それがストレートに登録台数に結びつかない状況だ。


それ以外にも理由がある。ひとつはHEVの選択肢が他社も含め多くなったこと。現在のトヨタブランドでいえば、ラインアップの半分以上にHEVをラインラップしている。もちろん他の日本ブランドもHEVを用意しており、輸入車では2022年にルノーが独自開発のHEVを日本で発売した。

HEVが欲しいとなれば、昔はプリウスなど数えるほどの車種しかなかったのに対し、今は数多くの選択肢がある。ユーザーはライフスタイルに合わせてクルマを選ぶことになるので、プリウスに集中する可能性は低いのではないかと予想している。



もうひとつの理由はデザインだ。今回のモデルチェンジを見ると、デザインに関しては現行「カローラ」や新型「クラウン」と同じように、若返りを図る目的があるのではないかと思っている。


低めのルーフやフロントフードとフロントウインドーを一直線とした「モノフォルムシルエット」はキャラクターラインも控えめでスマートだが、車両の見切りのしやすさはあまり期待できなさそうな感じもする。つまり万人向けであることよりも、個性を強調する方向にシフトしたようだ。


プリウスがデビューして約25年。ロングセラーカーの常で、ユーザーの平均年齢は上昇を続けていた。このままこの傾向が続けば、やがては販売に影響を及ぼす。そこでカローラやクラウン同様、数を売ることよりも若者にアピールするクルマづくりにシフトしたのではないかと思っている。

○疑問3:ひょっとするとめちゃくちゃ速い?



新型プリウスはメカニズムにも注目点がある。プラットフォームは先代と同じTNGAの発展型で、ハイブリッドシステムも基本的には同じなのだが、エンジンの排気量は従来の1.8リッターに加えて2リッターも用意され、PHEVは2リッターのみとなった。



発表資料で目についたのはPHEVの性能だ。システム最高出力は164kW、0~100km/h加速は6.7秒という数字が記されていたからである。この数字、2.4リッターエンジンを積むスポーツカー「GR86」の最高出力173kW、0~100km/h加速6.3秒に近い。



実用車がこういう数字を出すのは、最近では珍しい。スポーツカー並みのダッシュの持ち主であることをアピールしているといってもよさそうだ。


新型プリウスのPHEVは、モーターのみでの走行距離が先代より50%以上向上している。大幅に増加したバッテリー容量の一部を、加速性能に振り向けているのだろう。



この背景には、「HEVは走らない」という一部の噂を払拭したいというトヨタの思いがあるのではないかと想像している。低くてスマートなプロポーション、精悍なインテリアカラーにもそれが表れている。


同様の意志は、新型クラウンからも伝わってくる。クラウンではこの課題に対して、まったく新しいハイブリッドシステムを投入することで応えた。プリウスはクラウンよりボディが小柄で、車両価格を高くすることはできないうえに、PHEVがあることから、こちらでパフォーマンスを発揮させたと見ている。



ちなみに新型プリウスのPHEVは、先代ではラゲッジスペース床下に収めていたバッテリーをHEV同様リアシート下に移した。重いバッテリーを車体の中心近くの低い位置に積むことになったわけで、ハンドリングも良くなっていると予想できる。



実際にどういう走りを見せるかは乗ってみないとわからないが、歴代プリウスに比べると新型は「早くステアリングを握ってみたい!」と思わせる度合いが強い。走りへのこだわりはユーザーにも伝わっているのではないだろうか。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)