社会問題化している奨学金の返済問題。将来のため高い学費を払ったのに、その後日本が低成長・低賃金時代に突入し、なかなか返済が追いつかないという人が多数いる。
しかし、単純に督促をスルーして滞納していると、ついに学生機構から「訴えられる」ところまで行くケースもある。
今回、話を聞いた北関東在住の40代男性(会社員、年収400万円)は、そんな、行き着くところまで行ってしまったケースなのだが、男性は「訴えられたことで、気分が楽になった」と語る。それは、いったいなぜなのか?
ブラック企業で疲弊、退職→バイト生活で収入激減に……。
男性が奨学金を返済できなくなった理由は、シンプルに収入が減ってしまったからだという。
「就職氷河期でなんとか正社員で入社できたのですが、とんでもないブラック企業で3年目に逃げるような形で退社しました。しばらくは、就職活動をする気にもなれなくて日雇いバイトで暮らしていました」
会社員時代は手取り月20万円程度だったが、バイト生活になってからは月13万円程度、文字通りギリギリで暮らしていたそうだ。
そんなときに使える制度もあるのだが……。
「最初は、返済猶予の申請を出したりしていたのですが、それも面倒くさくなって……放置するようになりました」と男性。
もちろん、放置することにヤバさは感じていた。時々、送られてくる催促の書類では返済金額に加えて金利が積み上がっていく。2年、3年と月日が経つうちに電話もかかってくるようになった。
「電話がかかって来たときには、ヤバいなと思ったんですが、当時はコールセンターでアルバイトしていたので、この電話をかけてきているのもコールセンターのバイトなんじゃないかと気づいて……適当にはいはいと聞き流すようになってしまいました」
その後、バイト生活を辞めて再び会社員になった男性。手取りは20万円程度に戻ったが、それでも返済再開とはならなかった。
「奨学金って、将来は収入が増えることを前提にした制度じゃないですか。でも収入が増えないから払えないのは当たり前。奨学金の返済に関する報道も増えていましたから、きっと、なにか法律が出来て帳消しになるんじゃないかと期待してたんです」
あまりに虫のいい話だが、2009年頃の男性は「民主党政権になったので帳消しになるはず」と本気で考えていたという。
しかし、もちろん、そうはならなかった。
「2013年のことですが、ついに裁判所から特別送達が届いたんです」
裁判所から来た書類には、男性が日本学生支援機構から訴えられていること。話し合いに応じる余地はあるので、弁明を記して送付するよう指示が記されていた。
このとき男性は「逃げ切れなかったことに、悔しさを感じました」という。
いや、逃げ切れないだろ。
結局、弁明書に返済の意思はあるので分割での支払いを求めることを記して裁判所に送り、出頭することになった。
「和解ということになったんですが、和解の話し合いをするのは法廷です。法廷に立たされて、裁判官から『和解は判決と同じですから、ちゃんと支払って下さいね』と、念を押されました」
こうして、男性は月に3万円ずつを分割で返済することになったそうだ。
「確かに厳しいのですが金利は増えなくなりました。また、どうしても支払いが困難な時は電話すれば減額にも応じてくれますし。サラ金とかよりは厳しくないですよ」
現在、ようやく残債は200万円ほどまで減ったという。
「今は仕方なく払ってますけど、それでも、自分の残債があるうちに帳消しになる法律ができないかと、まだ期待はしています」
……どうやら、楽天的な性格は、これぐらいの経験では変わらないようだ。