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ネットで話題騒然「女性用風俗店」、結婚している人が利用するリスクは?

2022年12月29日 12:41  弁護士ドットコム

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元アイドルの不倫騒動にからんで「女性用風俗店」がネット上で話題となっている。ことの真偽は不明なので立ち入らないが、女性に性的サービスを施す風俗店が一部で流行しているようだ。中には、既婚の利用者もいるということだが、はたして、法的に問題ないのだろうか。男女問題や芸能法務にくわしい西山晴基弁護士に聞いた。


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●離婚や慰謝料を請求されるリスクがある

――既婚者が風俗店を利用することは、法的に問題ありますか?



男女を問わず、風俗店で性的サービスを受けたことを理由に、配偶者からの離婚請求や慰謝料請求が認められるリスクがあります。



――離婚請求が認められる場合はどんなときですか?



端的に言うと、「婚姻関係が回復できない程度に破綻している」といえれば、離婚請求が認められます。



ただ、配偶者以外の人と性的関係を持つ「不貞行為」は、婚姻関係を破綻させる原因の一例として民法770条に挙げられていますが、不貞行為があれば、ただちに婚姻関係が破綻していると判断されるわけではありません。



配偶者以外の者との性的関係があった場合には、(1)それが不貞行為にあたるのか、(2)その不貞行為により婚姻関係が破綻しているといえるのか、という2段階で判断されることになります。



――慰謝料請求が認められる場合は?



不貞行為があった場合には、(ⅰ)不貞行為をした配偶者に対する慰謝料請求、(ⅱ)不貞行為の相手方に対する慰謝料請求がありえます。



(ⅰ)は、離婚が認められる場合(または、すでに離婚している場合)には、不貞行為により「離婚を余儀なくされたこと」によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料として認められます。



(ⅱ)は、離婚が認められない場合であっても、「不貞行為をされたこと」によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料が認められて、更に不貞行為の結果として離婚に至ったといえる場合には、慰謝料がより大きくなると考えられます。



●不貞行為にあたるケースとそうでないケースがある

――風俗店の利用は不貞行為にあたりますか?



男女を問わず、不貞行為にあたる可能性があります。



過去には、夫が数回にわたり風俗店で性交渉をしたことが不貞行為にあたり、損害賠償の対象となるとしたものがあります(東京地裁平成22年2月5日)。不貞行為は、夫婦ともにありえますから、妻が風俗店を利用する行為も不貞行為にあたると考えられます。



ですが、風俗店の利用が不貞行為にあたるとしても、それだけで「婚姻関係が破綻した」と評価されるにはハードルがあります。



過去には、デリヘルの性的サービスを数回受けたとしても、夫が発覚当初から妻に謝罪し、今後利用しないなどと約束していることなどを考慮して、離婚事由にあたるまでの不貞行為があったとは評価できないとしたものがあります(横浜家裁平成31年3月27日)。



また、裁判では、そもそも風俗店の利用を立証すること自体にもハードルがあります。



過去には、自宅や夫の所持品から、複数の風俗店のポイントカード・スタンプカード・会員証・未使用の割引券・メッセージカードが発見されたケースで、当該事実から、直ちに夫がこれらの風俗店を利用していたとまでは認めることができないとしたものがあります(東京地裁令和3年11月29日)。



また、このケースでは、夫が1度だけピンクサロンを利用したことは自認していましたが、「実際に同ピンクサロンで性的サービスを受けたかどうか、受けたとしてそのサービスの内容がどのようなものであったかについては…証拠がない」から、「不貞行為があったとは認められず、婚姻を継続し難い重大な事由に当たるとも直ちには認めることができない」と判断されました。



●配偶者に対する慰謝料請求が認められたケースがある

――風俗店を利用した配偶者に対する慰謝料請求はどんなときに認められますか?



過去には、夫の風俗通いなどが、婚姻関係の継続を困難にする程度の行為だったとして、妻から夫に対する慰謝料請求を認めたケースがあります(大阪高裁令和2年9月3日)。このケースでは、風俗通いの頻度や、未成年の子どもの存在、婚姻期間の長さなどを考慮して、120万円の慰謝料の支払いを認めました。



なお、風俗店を利用した配偶者だけではなく、風俗店に勤務して性的サービスをおこなった配偶者に対する慰謝料請求が認められた事案もあります(東京地裁平成28年3月28日)。



一方で、配偶者に性的サービスを施した風俗店のキャストに対する慰謝料請求については、基本的には認められないと考えられています。



過去には、クラブのママやホステスのいわゆる「枕営業」による性交渉についても、「売春婦の場合と同様に、顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で、不法行為を構成するものではない」として慰謝料請求を否定したものがあります(東京地裁平成26年4月14日)。



とはいえ、風俗店のキャストであっても、商売を超えた交際関係や肉体関係を持った場合には、慰謝料請求の対象になりえます。そうしたケースも数多く存在するのが実情です。




【取材協力弁護士】
西山 晴基(にしやま・はるき)弁護士
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/