2022年12月29日 11:01 弁護士ドットコム
たびたび議論になる死刑制度。廃止や執行停止などに踏み切る国が増える中、日本は死刑を存置し、執行し続けている。
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2022年は死刑をめぐり、葉梨康弘前法相の失言が批判を呼んだ。報道によると、「だいたい法相というのは、朝、死刑のはんこを押しまして、それで昼のニュースのトップになるというのはそういう時だけ、という地味な役職」などと発言したという。
葉梨前法相は「死刑のはんこ」を1度も押すことなく、辞任する結果となった。しかし、2022年には古川禎久元法相の命令によって、加藤智大元死刑囚(39歳)の刑が執行されている。
今年の死刑は1件で終わるとみられる。刑事収容者施設法では、12月29日から31日は死刑を執行しないとされている。今年の死刑執行を振り返る。
刑が執行された加藤元死刑囚は、2008年6月8日に東京・秋葉原で無差別に7人を殺害し、10人に重軽傷を負わせたとして、殺人などの罪で死刑が確定していた。
事件は、買い物客などでにぎわう休日の歩行者天国で起きた。加藤元死刑囚は、トラックで歩行者天国に突っ込み、3人をはねて殺害し、2人にけがをさせた。その後、トラックを降り、ダガーナイフで通行人など4人を刺殺し、8人に重軽傷を負わせた後、現行犯逮捕された。裁判では、インターネット上で嫌がらせを受け、怒りを覚えたことを動機のひとつとして語ったとされている。
一審(東京地裁)・二審(東京高裁)ともに、言い渡されたのは死刑判決。最高裁もこれを支持し、2015年2月に刑が確定した。
加藤元死刑囚は、裁判のやり直しを求める再審請求をおこなっていた。しかし、第二次再審請求中の2022年7月26日に刑が執行され、東京拘置所で39年の生涯を終えた。執行命令を出した古川元法相は臨時会見の概要で「慎重な上にも慎重な検討を加えた上で、死刑の執行を命令した」と説明している。
加藤元死刑囚の刑が執行された後、日弁連や各弁護士会、NGO「アムネスティ・インターナショナル」などから抗議の声明が公表された。古川元法相は、死刑について、次のように見解を示していた。
「国民世論の多数が、極めて悪質、凶悪な犯罪については、死刑もやむを得ないと考えており、多数の者に対する殺人や強盗殺人などの凶悪犯罪が、いまだ後を絶たない状況等に鑑みますと、その罪責が著しく重大な凶悪犯罪を犯した者に対しては、死刑を科することもやむを得ないのであって、死刑を廃止することは適当ではないと考えています」 (2022年7月26日の法務大臣臨時会見の概要より)
2022年に刑が執行されたのは加藤元死刑囚ひとり。しかし、古川元法相が死刑執行を命じたのは、初めてではない。2021年に東京・大阪拘置所の2カ所で執行された3人についても、執行命令書にサインしている。
このとき執行されたのは、2003年に群馬県でパチンコ店員2人を殺害するなどし、強盗殺人などの罪で刑が確定した高根沢智明元死刑囚(54歳)と小野川光紀元死刑囚(44歳)、2004年に兵庫県で親族など7人を殺害するなどした藤城康孝元死刑囚(65歳)の3人だ。2020年の執行数は0件だったため、2021年12月におこなわれた3人の刑は話題となった。
2022年11月6日時点で死刑判決が確定し、刑事施設に収容されているのは106人。冤罪の可能性が指摘されている袴田巌さんは釈放されているため、含まれない。袴田さんについて、東京高裁は本年度中に再審開始の可否を決定する見通しだと報じられている。法務省によると、7月26日時点で、再審請求中の人は61人いるという。