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小袋成彬とMelodies International代表が語る、ロンドンのクラブシーン。レコード屋の情報も

2022年12月29日 11:00  CINRA.NET

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Text by CINRA編集部
Text by Hiromi Matsubara(松原裕海)

今夏に自身最大規模となるジャパンツアーを開催した小袋成彬と、ロンドンのリイシューレーベル「Melodies International」で代表を務めるSeiji Onoことエリオット・バーナードの特別対談。

前編では、ソウルやファンク、ハウスなどのオブスキュアな過去の音源をリイシューするかたわら、「世界中のソウルを祝う」をテーマに掲げるパーティー『You’re A Melody』を世界各地で開催する背景や思いについてたっぷり語っていただいた。そしてこのインタビュー後編では、「Melodies International」のロンドンでの活動や、ロンドンの音楽シーンの最前線について話を掘り下げていった。

ロンドンに移住し3年以上が経つ小袋成彬と、長きにわたって現地の音楽シーンを見つめてきたエリオット・バーナード。ふたりが個人的に勧めるレコード店やクラブなど、コアな情報が満載な内容となった。

(前編はこちら:小袋成彬が日本に持ち込んだクラブパーティー『You’re A Melody』とは。「世界中の文化を日本に輸入することが俺の役割」)

Melodies InternationalのSeiji Onoことエリオット・バーナード(左)、Théo Terev(中央)、Mafalda(右)

―後半では、「Melodies International」(以下、Melodiesに省略)のビジネスや、2人がどういう風に音楽やシーンと関わりながらロンドンで暮らしているのかを伺っていきたいと思っています。

エリオット:ぼくのロンドンでの生活はスタンダードではないですよ。日々、自分たちのレーベル「Melodies International」の運営に時間を費やしています。運営にはいろんな人たちが関わっていて、例えば、レーベルを立ち上げたFloating Pointsことサム・シェパードは特に深く関わっている1人。彼はどういった作品をリイシュー(再発)していくかという点において、いつもレーベル全体のディレクションをしてくれています。彼はレーベルのパーティー『You’re A Melody』でもプレイしています。アートワークを担当しているネヴィル(エリオットの弟)や今回は一緒に来日できなかったレイラ・ラザフォードというDJもいたり、それ以外にも本当にたくさんの人が「Melodies」には関わっています。

エリオット:ぼくの家がレーベルのオフィスになっていて、すべてのレコードがありますね。ぼくはクリエイティブな部分を担当しているので、リリースを買ってくれているDJたちに向けてどういった音楽を提供し続けるかアイデアを模索したり、あとは経理とか、ライセンシングのメールのやり取りとか、退屈な管理業務かな……(笑)。

実際は退屈ではない重要なことですが、クリエイティブな部分に関しては、デスクに座っていてもアイデアは自動的に湧いてくるわけではない。ロンドンには音楽を聴くのに良い場所がたくさんあるので、バーとかクラブとか、外に出ていろんな音楽を聴いている人たちと会ったり話したりするのが大事だと思っています。ぼくはそこまで頻繁にクラブには行かないんですけど……。

小袋:本当に!? 毎晩俺をクラブに連れて行っていると思うけどな。去年の夏とかクレイジーだったよ。

エリオット:あぁ、コロナから明けて、いろんなところが再開し始めた時はたくさん行ったね。

小袋:毎日ね!(笑)

エリオット:2月とか3月にNariが一時的に日本に戻るまではずっと出かけていたね。いまもバーとかにはよく行くけど、「朝の5時まで!」みたいなクラビングはあまりしないね。特定の誰かに会いに行ったり、誰かのセットを聴きに行ったりする以外は、そんなにクラブには行かない。

―そうなんですね。ちなみに『You’re A Melody』はどのぐらいのペースで開催しているんですか?

エリオット:以前は2か月に1回開催でしたが、9月からは1か月に1回のペースにしようと思っています。あと、これまではサムがパーティーの中心的な存在でしたが、いま彼はたくさんのプロダクションを行なっているし、彼がいなくてもパーティーを続けられるようにする必要があると思っていて。彼には来られる時に参加してもらうようにしているんです。

ぼくたちがパーティーをやっているCorsica Studiosはサウス・ロンドンにあるとてもナイスなクラブで、良いサウンドシステムを備えた300人規模のブラックボックスといった感じです。150人ぐらい入るセカンドルームもあるんだけど、ここ最近はメインルームだけを使うようにしていて……。というのも、ぼくらがスペシャルゲストを発表しないようにしたので、以前のようにはお客さんも来なくなっていて、ソールドアウトさせるのが少し難しくなっているんです。

エリオット:でもぼくたちは「有名な誰かがプレイするから」ではなく、パーティー自体の評判でソールドアウトできるようにしたくて。スペシャルゲストはあくまで良いサプライズにしたい。

例えばサムとFour Tetことキーラン・ヘブデンが出演したときは、みんなとても盛り上がってくれました。だけど、やっぱりレジデントだけでも十分なパーティーにできるようにしないといけない。だからここ最近はツアーをしていて、メンバーと一緒にプレイをして実践を重ねています。その結果、とても良くなっていると実感しますし、今回のNariとのツアーに至るまでの準備もかなり上手くいったと思います。

―ディープな世界に入りやすくしたり間口を広げたりするという観点では、「Melodies」はパーティーだけでなくレーベルとしても着実に支持を得ているというのが個人的な印象なのですが、やはりそこにも試行錯誤はあるのでしょうか?

エリオット: レーベルとしても「無名の音楽をどうやって紹介するか」ということを考え続けていますが、とても興味深いですよ。

そのひとつのアイデアが、『Melodies Record Club』というアーティストやDJがキュレーションを務める12インチシリーズをつくることでした。1作目はキーラン・ヘブデンがキュレーションしたんですが、彼の音楽のファンだったら「Four Tetが勧める作品(楽曲)だったらきっと間違いないだろう」と聴いてくれると思ったんです。A面はJackie McLean & Michael Carvinのドラムとサックスによる12分半のジャズ・バンガーで素晴らしい楽曲なんですけど、おそらく何も知らなかったらほとんどの人が5秒聴いてスキップしてしまうと思うんです。でもキーランがレコメンドすることによって、「Four Tetはこういう楽曲が好きなんだ、もっと時間をかけて聴いてみたら面白いんだろう」と思ってもらえる。そして、実際にこの方法は本当に上手くいきました。

エリオット:2作目はBen UFOで、彼はローリー・シュピーゲルの70年代のパーカッシブで実験的な約7分のコンピューター・ミュージックを選んでいるんだけど、普通だったら聴いてみて「あぁ、実験音楽だ」ってなると思うんです。でも例えば、メインステージでプレイしているBenのセットを聴いてみると、テクノの楽曲をつないでいく間にこの楽曲を12インチでプレイしたりしていて、本当に頭がおかしくなりそうになるんです(笑)。

家で聴くこともできるけど、「クラブでプレイするためにフォーマットをスイッチする」ということ。つまり、ある種の魅力的な方法で、そういった知られざる楽曲を、より多くの人々にプレゼンテーションができるということです。もちろんぼくたちは何百万人の人たちに向けて紹介をしているわけではないんですけど、それでもファーストステップとしてはとても素晴らしいことです。それは僕たちがパーティーでトライしていることともつながっていますし、そのなかで楽しい時間を過ごしてくれたらと思っています。

―そのほかに、現状のロンドンのシーンに足りていないものなどはありますか? もしくはそこに対して「Melodies」としてアクションしたいことがあれば教えていただきたいです。

エリオット:ロンドンには新しいクラブが必要だと思います。それこそPlastic Peopleのようなクラブや、もっと音楽好きが集まるようなクラブが必要ですね。

小袋:150人規模ぐらいで、素晴らしいサウンドシステムを備えたクラブができたら良いなと思いますね。

エリオット:そういうクラブと、もっと大きいクラブが必要かもしれない。いまのところ、Corsica Studiosの深夜はクラブミュージックが中心になっているんです。ぼくらのパーティーは日曜の午後4時から深夜0時までのデイタイムに開催しているんですけど、その方が、ぼくたちがプレイしているタイプの音楽に適しているなと思っています。

エリオット:ロンドンでは、ヴェニューやプロモーターなどのほとんどの人たちがコロナから立ち直りつつあるように感じます。ただ、まだ回復している途中だからか、あまりリスクを冒してプログラムを組むことはない。どこも同じようなアーティストラインナップで、来ている人の雰囲気も同じ感じなんです。

それ自体はそこまで問題ではないとも思っているんですが、そこを中心としてコミュニティーが生まれるような場所は必要ですね。あと、そういう場所から新しい音楽が生まれないといけない。明確なアイデアはまだないのでもう少し考える必要はありますが、場所が必要なことは間違いないと思います。とはいえ、場所を見つけるのが本当に難しいのもたしかですね。借りるにしても高すぎるし、ビジネスを続けるのも難しいですね。

小袋:インフレが凄いからね。音楽的にも金銭的にも継続をするのがどんどん難しくなっているのは強く感じます。

エリオットと小袋成彬。写真:Nevil Bernard

―徐々に海外に渡航する人も増えてきて、このインタビューを読んでさらにロンドンへ行ってみたいと興味を持つ人もいると思うんですが、2人がおすすめしたいロンドンのレコード屋はどこですか?

エリオット:コロナもあったから、正直なところ、レコードショップにはあまり行っていなくて、ほとんどオンラインで買ってます。何に興味を持つかによってオススメは変わるんですけど、間違いないお店はいくつかありますよ。

でもぼくは特に古いレコードをディグするのが下手なんですよね。やればやるほど上手くなっていく感じが、レコードディグは運動みたいだなと思うんです。プロデューサーやレーベルが分かってくると、そのお店のセレクションの作りが分かってきて、新入荷も分かってきます。ディグの楽しさは過度にキュレーションされていない時にこそ分かるものだとも思うんですよね。でもそういうショップに行きたいのであれば……Yoyo Recordsが良いと思います。もともとトロントにあるCosmo Recordsの分店なんですけど、いまはもう完全に独立して、良い店になっていますね。

小袋:Idle Momentsはどう?

エリオット:Idle Momentはぼくたちの友人のお店で、Brilliant Cornersというオーディオマニア向けのバーレストランを運営していて、『Giant Steps』というパーティーも開催している人でもありますね。Idle Momentはワインショップでもあるんですが、リンタロウが運営しているVinyl Delivery Service(※)というショップがセレクトして送ってくれているレコードも販売しています。

エリオット:もしディグが好きなら、歴史のあるCrazy Beatが良いですね。ロンドンより少し東のエセックス(Essex)にあります。

小袋:Flashback Recordsは?

エリオット:あまり詳しくはないんだけど、サムがFlashback RecordsでAged In Harmonyの“You’re A Melody”という、僕らのパーティーの名前にもなっている、とてもレアなレコードを見つけたんですよ。

新譜ならAlan’s Records、クラシックならPhonica Records、新譜と再発盤の両方を探したいのであればSound Of Universeかな。ぼく自身は全然チェックできていないんですけど、最近、新しいレコードショップがたくさんできているという話を友人たちがしているのを聞きました。

ぼくからすると、日本はディグするという感じより、「あれもこれもあって凄い!」という感じですね。今回も行ってみて、前よりもディスクユニオンやHMVからクレイジーなレコードが減っているという気はあまりしなかったんですけど、リンタロウが言っていたのは、コロナ以降に買い手と売り手の出入りが激しくなっていて、基本的に在庫があまり補充されないらしいんです。それでも未だに、しっかりとした良いレコードを見つけることができるのが日本のレコードショップだと思います。

小袋:良いレコードを探すなら日本が1番ですね。

―ロンドンのおすすめのクラブも教えてください。

エリオット:そこに行ったらどんな曲でも素晴らしく聴こえるという感じのクラブはそれほど多くないと思いますね。誰が演奏しているかによりますが、Corsica Studiosは本当にしっかりしていて大好きです。

小袋:俺はFOLDが大好きです。

エリオット:ぼくはFOLDにはそんなに行ったことはないんですけど、良い噂はたくさん聴きますね。もっとテクノな感じなのかな?

小袋:テクノな感じだけど、素晴らしいよ。Ben UFOのプレイをFOLDで見たんだけど、人生で最高のクラブ体験だったね。

エリオット:その話は、たとえとして、さっきぼくが言いたかったことを完全に言い表しているね。レコードショップの質問と一緒で、完全に答えるのが難しいよね。「ここに行くのが良い、あそこに行くのが良い」とか「あのクラブはやばい」みたいなことがちゃんと言えたら良いんですけどね……。Brilliant Cornersもすごく良い場所なんですけど、クラブではないんですよ。

小袋:The Lion and Limbはどう?

エリオット:クールだよ。The Lion and Limbはパブを改装してサウンドシステムとかロータリーミキサーをインストールしている100~150人規模の場所です。パブのようでもあり、クラブのようでもあります。じつは、以前に『You’re A Melody』をやっていた場所でもあります。最初は日本のレコードだけをかけるパーティーをやっていて、その後に『You’re A Melody』をやることになったんです。ただ唯一、住宅街の中にあるから、あまり外で会話をしたりはできないんですよ。

ブリクストンにあるPhonoxも良かったですね。ぼくが行った時はHuneeが12時間ぐらいプレイしていました。彼も『Melodies Record Club』シリーズのキュレーターを務めてくれていて、テストプレスを渡しにPhonoxに行ったんですけど、6時間ぐらい彼のプレイを見てしまいました。シームレスに色んなスタイルを融合させていて素晴らしかったです。

―2人ともすごい体験ばかりで正直とても羨ましいです。イギリスはフェスティバルもたくさんあると思うんですが、遊びに行ったりしましたか?

小袋:去年、コロナの後に最初に行ったのはペッカムの『GALA Festival』ですね。「Hessle Audio〉のPearson Soundのプレイを見たり、Overmonoを見たり、あとシンガーのオスカー・ジェロームのライブを見たりしました。すごく良かったですね。ソーシャルディスタンスのルールもなくて、もうその時からみんなマスクもしていませんでした。

エリオット:そうだね。ぼく自身はそんなにフェスティバルに行ったことがないんですけど、フェスティバルは各地にたくさんありますね。

『GALA Festival』の話だと、以前にNTS Radioの人気番組でもある「Breakfast Show」を担当していて、いまはNTSを辞めて、Do!! You!!という自分のDIYラジオステーションを持っているチャーリー・ボーンズというDJがいて。彼は今年のフェスティバルでテイクオーバーというかたちで会場から番組放送をしていて、ぼくもラジオに出演しました。

エリオット:木曜日に会場に着いた時に、彼から「土曜日に出演してくれないか?」と言われて、正直、ラジオだからなんでも良いかなと思って、彼のテントに行ったんだけど、想像以上に素晴らしかったです。150人ぐらいいたかな。ほかのステージだとステージ同士の距離が近くて音が干渉してしまっていたんですが、そのテントは完璧でした。テントに着いた瞬間、プレイするのが待ち切れないぐらいでしたね。サイズは小さいですけど、LIQUIDROOMのパーティーの時みたいな雰囲気でした。

彼の人気はカルト的で、ぼくも大ファンなんです。Charlie と一緒にラジオを運営しているOscarという男がいるんですけど、その時、彼に何人がラジオを聴いているのか尋ねても教えてくれなかったんですが、「イビサ島のスタジアムを埋め尽くすぐらいの人数は聴いてるよ」って言ってました(笑)。

小袋:チャーリーはすごいキャラクターの人だよね。インタビューしたほうが良いですよ。

エリオット:要するに、Nariが音楽の展覧会みたいと言っていた通り、ロンドンはいろんな人がいて、いろんなことが起こっています。

小袋:俺らが行ったことのないような、もっとインディーなパーティーもたくさんあるよね。

エリオット:ぼくらも歳を取ったんだよ(笑)。あとウェアハウスパーティーも増えたような気がするな。

小袋:それで言うと、そういうテイストのMOTもクールなクラブだね。

エリオット:そうだね。ぼくはロンドンのシーンの百科事典とかではないですが、パーティーやフェスティバルがたくさんあるのは確かです。

【編集協力:平岩壮悟】