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【試乗記】実証実験中のEVバイク「ヤマハ・E01」に乗ってみた

2022年12月27日 12:21  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
脱ICE(内燃機関)が進む中、次々に登場するEVバイク。ヤマハの場合、日本国内ではテレビ番組「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」(テレビ東京)に登場する「E-Vino」が有名ですが、2019年の東京モーターショーに登場し、2022年の春から実証実験を行っている「E01(イーゼロワン)」というモデルもあります。



50ccクラスの短距離利用を想定したEVバイクと異なり、「E01」は本格的な中距離コミューターを目指したそうですが、その実力はどんなものでしょうか?今回は、なぜか昔からヤマハのバイクに縁がある筆者が試乗してみました。


1.概要:125ccクラスに迫る中距離コミューター



電動モーターを利用する乗物は、バイクのほかに自転車やクルマもあります。小型電池を脱着できる自転車はだいぶ普及しましたが、大電力を必要とするクルマは固定式電池になり、給電設備などの課題がまだ残っています。



クルマほどの電力を必要としないバイクの場合、自転車のように着脱式バッテリーを家庭用の100Vで充電できるEVスクーターも販売されました。ただし、最高速度は30~50km/hで航続距離は30~50km程度と、短距離利用のモデルがほとんどです。



「E01」は、最高速度と航続距離の両方で「100km」を両立するEVスクーターです。バッテリーは大容量を確保するため固定式ですが、これだけの性能があれば片道20~30km程度の通勤・通学のほか、ショートツーリングにも使える125ccクラスにグッと近づいたといえるでしょう。


2.デザイン:エコ以外の何かを予感させるスタイリング

○ルックスはスポスク風



スクーターは足を揃えて乗るイメージですが、「E01」は同社の「NMAX」やホンダ「PCX」のようなセンタートンネルを持った“スポーツスクーター”的なルックス。ここにはヤマハが自社開発した大容量4.9kWhの固定式バッテリーが搭載されており、1回の充電で最大104kmの走行を実現するそうです。


○YZF風のフロントマスク



フロントマスクは「NMAX」とは異なり、ヤマハスポーツの最高峰「YZF」シリーズに似た精悍なもの。リトラクタブルライト風のパネルは充電プラグを差し込むリッドで、ヘッドライトはカウル下に備わっています。


○EVならではのスッキリしたテール



シャープなテールカウルは光沢面が裏側まで回り込むという凝った作り。ガソリンエンジンなら絶対に必要なエアクリーナーやマフラーもなく、サスペンションは車体中心に寄せてフェンダーも独立式にするなど、テールカウルのスッキリ感を強調しています。


○普通のスクーターとは違うリアの足廻り



フロントの足廻りは見慣れた構造ですが、リアは一般的なスクーターのようなエンジン・ギアボックス・スイングアームを一体化した「スイングユニット」ではなく、いかにも軽そうなスイングアームにベルトドライブという組み合わせ。軽量化のためか、ホイールの肉抜きも徹底しています。


3.走行:「EV」というだけで済ませられない魅力的な走り

○普通のバイクと違和感のない操作系



さて、早速試乗してみましょう。ハンドル廻りは普通のバイクと同じで、キーレスとメインスイッチも「NMAX」と同タイプ。スイッチのノブをONに捻ればメーターが点灯します。『もう動いてしまうのか?』と、恐る恐るスロットルを捻るも、まったく動きません。


メーターを見ると「PUSH」の点滅表示。普通のバイクでセルボタンのある位置にスタートボタンがあり、これを押すメーター上部に緑色のインジケータが点灯し、スロットルを捻るとスルスルと動き出しました。個人的に「セルボタンを押す」という様式が残っているのは安心します。



ちなみに「E01」は1km/hでバックができます。エンジン車ではバッグギアの機構が必要ですが、これもモーター駆動のメリットでしょう。超重量車ではありませんが、狭い駐輪場の出し入れのほか、段差や下り坂で後退させる際には重宝しそうです。


○静かなだけでなく、パワフルでコントローラブル



気を取り直して走り出すと、予想してはいたものの、やはり無音のスタートには驚きます。加速時は「ヒュオーン…」とモーター音はしますが、巡航時はかすかに高周波の音が聞こえるだけ。一般的なスクーターのような単気筒の音や振動はなく、高級リムジンのような不思議なフィーリングです。



パワーモードは「ECO(エコ)」「STD(標準)」「PWR(パワー)」の3つが選択できます。普通に走るには航続距離の伸びる「ECO」で問題ありませんが、最高速度は60km/h程度で発進・加速はマイルドなもの。対して、「STD」や「PWR」は125cc以上にトルクフルで思わずニヤリ。立ち上がりも気持ちよくトラクションがかかり、急坂もグイグイと登ります。



スロットルは発進時に全開にしても、いきなり「ドン!」とバイクだけが飛び出すことはなく、二次曲線的に力強く加速していきます。モーターの抵抗を利用したエンジンブレーキは4スト・スクーターのように使えますが、止まりそうなほどの極低速はとてもコントロールしやすいものでした。


○コーナリングは明らかにスクーターと違う感覚



もう一つ気がついたのは、一般的なスクーターとは異なるコーナリングの感覚です。スクーターはリアに重いエンジンがあるためフロントが軽めですが、「E01」はバッテリーを車体の前方下部に設置したためか、前輪の接地感が高く、軽いバンクでもステアリングがリニアに反応します。左右の切り返しやコーナリング中の安定感には、BMWのように重心が低いバイクの印象を受けました。



また、足廻りやシートはフワフワ・フカフカではなく適度な硬さがあり、荷重しやすくロードインフォメーションも分かりやすい味付け。こういったところも「E01」の性格を示しているようです。


4.充電・収納:充電方法は簡単! 充電器を外せばトランクも広い



充電方法は、専用設備を必要とする「急速(1時間で90%)」「普通(5時間で100%)」のほか、家庭用の100Vから充電できる「ポータブル(14時間で100%)」があります。ポータブル充電器はシート下のトランクに収納でき、その下にも小物を入れるスペースが残されています。



トランク容量は23Lもあるため、ポータブル充電器を入れなければヘルメットも収納できました。シートはスプリングで開いたままにでき、ヒンジの根元にはフック型のヘルメットホルダーも2つ装備。フロントのインナーには2つのグローブボックスがあります。


5.まとめ:楽しくなければバイクじゃない!「E01」はEVバイクの未来像を見せてくれた



実を言うと筆者はEVバイクには懐疑的でした。インフラや航続距離のほか、静かすぎても危険だし、バイクから音や振動が無くなったら面白くないのでは?と思っていたのです。ところが、歩行者の多い路地は注意が必要なものの、今まで自車のエンジン音でかき消されていた周囲の音に気がつき、これはこれで安全性が高まるようにも感じました。



また、「E01」にはエンジン車のような刺激的なサウンドや、身体を揺さぶる鼓動はありません。しかし、「エコな中距離コミューター」という一言では片付けられない何かを感じ、乗るたびに充電警告灯が点灯するまで走り込んでしまいました。


初めてのEVバイクということで頭がいっぱいでしたが、ようやく気づいたのは「E01」が“ハンドリングのヤマハ”のバイクであること。それはただコーナリング性能が高いのではなく「バイクを操る楽しさ」を提供してくれるもので、過去に乗った多くのヤマハ車に共通していたことです。



「E01」が実証実験中のEVバイクにもかかわらず、ヤマハのDNAがしっかり継承されていたことは嬉しく感じました。というか、そうでなければヤマハのエンブレムは付けられないでしょう。125ccスクーターを凌駕する走行性能が素晴らしいだけに『航続距離があと50km長ければ…』と思うものの、『バッテリーの性能が飛躍的に向上したり、トランクへの増設が可能になったら…!?』と、EVバイクの明るい未来を期待させてくれるモデルでした。



一般向けのリースによる実証実験は2022年の5月から開始され、冬には第二期の募集が行われました。第三期は未定ですが、気になる方は実施されたら応募してみてはいかがでしょうか?


津原リョウ 二輪・四輪、IT、家電などの商品企画や広告・デザイン全般に従事するクリエイター。エンジンOHからON/OFFサーキット走行、長距離キャンプツーリングまでバイク遊びは一通り経験し、1950年代のBMWから最新スポーツまで数多く試乗。印象的だったバイクは「MVアグスタ F4」と「Kawasaki KX500」。 この著者の記事一覧はこちら(津原リョウ)