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不倫中の公務員夫、出張先にも相手を呼び寄せていた 妻が職場に通報する法的リスクは?

2022年12月25日 09:31  弁護士ドットコム

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配偶者の不倫についての相談は弁護士ドットコムに多く寄せられています。今回は「夫が出張時に宿泊先に不倫相手を呼んでいることを通報したら、名誉毀損になるのか」という相談をご紹介します。


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公務員である夫は、出張の宿泊先に不倫相手を呼び、一緒に宿泊しています。ただ、メールなどで発覚しただけで、他に証拠があるわけではありません。相談者は「行動がエスカレートしていかないか」と心配しています。



相談者が内部の通報窓口へ連絡することは、夫に対する名誉毀損にあたるのでしょうか。また、通報の法的リスクはあるのでしょうか。田中伸顕弁護士に聞きました。



●通報窓口へ連絡することは控えるべき

——よく配偶者や不倫相手の職場に通報したいという話は聞くが、今回のケースはどう考えられる?



結論から述べると今回の事案では、夫が出張時に不倫相手を呼び出していることを、夫の職場の内部の通報窓口へ連絡することは控えるべきだと思います。



——配偶者や不倫相手の職場に対し、不倫の事実を連絡することは名誉毀損になる?



原則として、名誉毀損になると思います。



配偶者や不倫相手の職場に対して不貞(不倫)の事実を伝えることは、配偶者やその不倫相手の社会的評価を低下させることになるため、名誉毀損になると考えられます。



また、配偶者や不倫相手の私生活上の知られたくない事実を職場に伝えることにもなるため、配偶者と不倫相手に対するプライバシー侵害にもなり得ます。



●離婚するつもりがないなら一層リスク

——配偶者や不倫相手が公務員だった場合は?



参考になる裁判例として、東京地裁平成28年10月17日判決があります。



この判決は、国家公務員の妻を持つ原告が、妻と不貞をした同じく国家公務員である被告の仕事に関係のある事務所等に対し、原告の妻と被告との不貞行為による損害賠償請求の訴状等をFAX送信したという事案です。



この裁判で原告は、FAXを送信したことは、公共の利害に関する事実にあたり、かつ、公益を図る目的があることから、名誉毀損が成立しないという主張をしました。



しかし裁判所は、FAXを送信した行為は、原告の妻と被告が不貞行為をしたという被告の職務に関連しないプライベートな事柄であるため、公共の利害に関する事実でなければ、公益を図る目的も認められないとして、名誉毀損が成立すると判示しました。



このように、配偶者や不倫相手が例え公務員であったとしても、名誉毀損は成立するのです。



なお、相談者の方において、公務員である夫と離婚するつもりがなく、今後も夫と生活を共にするつもりなのであれば、今まで述べた法的なリスクの他にも、事実上のリスクがあります。



詳細な検討はここではしませんが、公務員の場合、職務中の問題行動を理由に処分される可能性もない訳ではないからです。もちろん、職務と関連しないプライベートな事柄であることから、必ず処分されるとは言えませんが、場合によっては職務専念義務違反などで処分されてしまうかもしれません。



もし夫が処分を受ければ、夫の収入が減ったり、従前まで期待できた昇給もなくなったりしてしまう可能性があります。したがって、いたずらに夫の職場に連絡するのは控えた方がいいでしょう。



——内部の通報窓口に通報しても名誉毀損になるのか?



基本的に名誉毀損が成立すると考えられます。



一般的に内部の通報窓口というのは、職員の職務に関係する不正行為を通報するものです。



しかし、不貞行為は、先程紹介した平成28年の判決で指摘されているように、基本的に職務とは関連しないものだと考えられています。そのため、内部の通報窓口に通報したとしても、平成28年の判決と同様に名誉毀損が成立すると考えられます。



●職場に不倫の事実を告げる文書を送付→名誉毀損が成立

——配偶者と不倫相手が職場の同僚であったり、取引先の関係であったりした場合は?



この場合も、基本的には名誉毀損が成立するものと考えた方がいいでしょう。



参考になる裁判例として、東京地裁平成27年6月3日判決があります。



この判決は、被告の夫と、その夫が経営する会社に出入りしていた保険の営業担当者である原告が、不貞行為をしていたというものです。そのような状況において、被告が、原告の職場等に対し、原告が被告の夫と不貞行為をしたことについて、企業として原告に対して厳正な処分を求めるなどの内容の文書を送付したという事案です。



裁判所は、被告が既に弁護士に依頼している状況で、その弁護士が原告の職場に連絡を試みているにもかかわらず、あえて被告自身においても原告の職場に上述した連絡をしていることに着目しました。



そして、被告には、原告の勤務先に不貞の事実を認識させて原告に社会的制裁を加える意図があったと指摘した上で、原告の勤務先に上述した文書を送付することは相当性を欠くため名誉毀損が成立すると判示しました。



また、職場の同僚同士の不貞行為であっても、同様に名誉毀損が成立すると考えられます。



●不倫相手の職場に連絡する場合も注意が必要

——ちなみに、不倫相手の個人の住所が分からず、やむを得ず不倫相手の職場に連絡したような場合でも名誉毀損は成立するのか?



どうしても不倫相手の個人の住所が分からない場合は、不倫相手に連絡を取るために、やむをえず不倫相手の職場に連絡することもありえます。



ただしそのような場合でも、いたずらに不倫相手の名誉を毀損したり、プライバシーを侵害したりしないように慎重に連絡する必要があると考えられます。



例えば、手紙を送付するにしても、不倫相手宛てにし、「差出人まで連絡をください」と一言書くにとどめて、極力不倫相手の職場に不貞行為のことを知られないように配慮する方法があります。



——では、相談者はどうしたらいいでしょうか?



まずは、重ねて夫に不倫を止めるように促すとともに、不倫相手に対して直接連絡を取る試みをすべきでしょう。



そして、夫の職場に連絡することは、相談者にとってデメリットの方が大きいと思われますので、避けるべきだと思います。



それでも、夫が不倫を止めなかった場合は、離婚を提案し、その中で夫とその不倫相手に対して損害賠償請求することなどを検討する流れにならざるを得ないと思います。




【取材協力弁護士】
田中 伸顕(たなか・のぶあき)弁護士
秋田弁護士会所属。交通事故、離婚、債務整理から、インターネット上の誹謗中傷まで扱う。「住む地域にかかわらず、悩みを解決できるようにしたいです。事件には、大きいも小さいもないと考えています。そのため、どのようなご相談・事件についても一所懸命、全力で取り組みたいと思いますので、お気軽にご相談ください」
Twitter:https://twitter.com/n_tanaka_akita
事務所名:田中法律事務所
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