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完全禁煙なのに喫煙する客、法的責任を問える? 女将は「良心に委ねてきたが…」対応に苦慮

2022年12月23日 10:41  弁護士ドットコム

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山形県・白布温泉にある旅館の女将が、「館内敷地内 完全禁煙」のルールを破って部屋でタバコを吸った客に対し、「宿を何だと思ってる?」と苦言を呈したツイッターでの投稿が話題となりました。


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投稿した、湯滝の宿「西屋」女将は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、部屋で喫煙する客について「禁を犯す方は後を絶ちません。(建物の外にある)駐車場までわざわざ足を運んで喫煙するのが面倒なのか、部屋で吸われてしまうケースが続いております」と対応に苦慮している実情を明かしました。



●完全禁煙後も「年に3~4回ほど」違反客があらわれる

西屋の創業は鎌倉時代までさかのぼり、かやぶき屋根が残る歴史ある古宿です。ホームページのトップには「当館は全面禁煙です」と表示されており、電子タバコも不可と明確に方針を示しています。



女将によると、完全禁煙ルールにしたきっかけは、2020年4月に施行された改正健康増進法で、公共施設での原則完全分煙が義務化されたことでした。



元々西屋では館内に喫煙所を1カ所設けており、そこでは喫煙可としていましたが、「築100~200年になる建物は良くも悪しくも通気性が抜群で、タバコ臭がどうしても館内にもれてしまいます」という事情や、2000年の火事の教訓や嫌煙の客との兼ね合いもあり、完全禁煙に踏み切りました。



しかし、完全禁煙後も「年に3~4回ほど」はルール違反する客が現れているとのこと。一度部屋に染みついたタバコの臭いは簡単には消えず、「部屋は消臭作業の為数日は使えない」(ツイートより)ため、対応に苦慮してきました。



喫煙した客を見つけた場合は、口頭で注意する、後から発見した場合も要注意人物として記録しておくなどの対応にとどめてきたそうです。



「きちんとマナーを守って外で喫煙されるお客様がほとんどですので、皆様の良心にゆだねておりました。今回は、違反した場合の具体的なルールを設けていなかった西屋にも落ち度があったと反省しております」



●「賠償請求をする余力が正直残っていない」

今後、同じように部屋で喫煙する客があらわれた場合に備え、対応策を検討しているといいます。



「もしも喫煙の痕跡を認めた場合はクリーニング代として追加料金を請求する旨を明示しようかと考えております。ただ、その料金は他の施設の例を見る限りまちまちですし、いわゆる『現行犯』でないとだめなのか、あとからでも請求できるのか、詳しい知識がないため中身を決めかねております」



しかし、今回喫煙した客に対して「対抗措置などは取らない方針」だといいます。



ネットなどで大きな話題となったことにより「当人への社会的制裁は果たされただろうと見なした」ことも理由の一つですが、「何より万年人手不足の小さな旅館ですので、賠償請求など法的手段に打って出るほどの余力が正直残っていません」という事情もあったようです。



●ルール違反した時の「賠償額」をあらかじめ定めておくのも有効

もし宿泊客が施設の全面禁煙ルールを破って喫煙した場合、どのような法的責任を負うことになるのでしょうか。濵門俊也弁護士に詳しく聞きました。



——宿泊施設が全面禁煙のルールを定めることは問題ないでしょうか。



受動喫煙対策を強化した改正健康増進法が、2020年4月1日から全面施行されています。旅館・ホテルを含め、多くの人が利用する施設は、原則屋内禁煙が義務づけられ、指導や命令による改善がみられない違反者には罰則が科せられます。



従来の法律は、望まない人にたばこの煙を吸わせない受動喫煙対策が、あくまで管理者などの努力義務にとどまり、喫煙できる場所・できない場所が必ずしも明確ではありませんでした。現在施行されている法律では施設の類型ごとに喫煙に関わるルールが明確にされています。



旅館・ホテルにおいては、客室の喫煙は認める一方、宴会場やコンベンションホール、ロビーなどの公共空間は禁煙となります。ただ、煙が外に漏れない喫煙専用室の設置は認めています。館内に飲食店を設けている場合は、小規模店舗のみ当分の間、喫煙を認めています。



受動喫煙に関しては、都道府県が国を上回る規制をかけた条例を制定する動きが出ています。東京都は、客席の面積に関係なく、飲食店を原則禁煙とする条例を2020年4月1日に全面施行しています。



また、旅館・ホテルでも館内の全てや一部を禁煙にしたり、喫煙室を設けたりする動きが出ています。



観光庁は、モデルとなる宿泊約款を発表していますが、その内容に縛られる必要はなく、旅館・ホテル等の宿泊施設は自由に宿泊約款を定めることができます。宿泊施設が全面禁煙のルールを定めることは問題ありません。



——全面禁煙のルールを破って客が喫煙した場合、どのような法的責任を負う可能性がありますか。



法律上客室内での喫煙が禁止されているわけではなく、あくまでも宿泊施設の利用規約に違反するものですから、宿泊施設としては、まずは喫煙行為に対する警告をすることになるでしょう。



その警告を無視するようであれば、迷惑行為とみなし、宿泊契約の解除をすることになると思います。



ただ、この点は解釈上争いがあるかもしれません。規約に違反したことをもって直ちに解除できるという見解もあり得ます。



宿泊施設としては、利用規約や宿泊約款に禁止された行為に及んだ場合、クリーニング代や客室の売り止め費用について、賠償額の予定(民法420条)を定めておくことをお勧めします。



——宿泊施設側は全面禁煙ルールの周知を図っていたようですが、残念ながら喫煙を防ぐことができなかったようです。さらなる喫煙防止策としてどのような方法が考えられますか。



宿泊施設としては、ルールの周知徹底をするほかありません。旅館業法5条との関係で、喫煙者であることをもって宿泊契約締結を拒否することは原則としてできないと思います。



事後的な対応にはなりますが、喫煙の事実が判明した場合には、利用規約や宿泊約款に規定された火災予防上必要な行為に違反したとして、宿泊契約を解除できることは可能です。




【取材協力弁護士】
濵門 俊也(はまかど・としや)弁護士
当職は、当たり前のことを当たり前のように処理できる基本に忠実な力、すなわち「基本力(きほんちから)」こそ、法曹に求められる最も重要な力だと考えております。依頼者の「義」にお応えします。
事務所名:東京新生法律事務所
事務所URL:https://www.hamakado-law.jp/