2022年12月23日 10:31 弁護士ドットコム
ここ数年、メディアで盛んに取り上げられてきた東京・新宿の歌舞伎町にたむろする「トー横キッズ」。10代、20代の彼・彼女たちが拠点とする「シネシティ広場」(通称・広場)が、変化のときを迎えている。
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すぐ真横に巨大複合施設がオープンする来春以降、今ほどの「自由さ」が失われることが予想されるからだ。キッズたちはどこに行くのか。歓楽街にぽっかり浮かぶ広場は、どんな意味があるのか。
当事者であるキッズたちと、この街を20年見続けてきた公益社団法人「日本駆け込み寺」の創設者で、現役員の玄秀盛さんと考えた。(ジャーナリスト・富岡悠希)
12月中旬の午後3時過ぎ、赤・緑・黄緑・オレンジ色の上着を着用した男性5人が、歌舞伎町内でゴミ拾いをしていた。
「日本駆け込み寺」の旗を立てた台車に、空き缶や吸殻を分別しながら集めていく。みるみるゴミが集まっていくが、参加者の男性は「今日は少ないです」。夜間はもっと多いという。
男性ボランティアの1人は、2匹のシェットランド・シープドッグ(シェルティー)を連れていた。2本のリードを巧みに操りつつ、ゴミ拾いをこなすのは、実に器用だ。
広場に差し掛かると、座っていたキッズたちが、シェルティーに興味を示した。「めちゃかわいい」。すぐ近くに寄ってくるキッズもいた。
その背後には、地上48階・地下5階建ての「東急歌舞伎町タワー」がそびえる。このタワーこそ、来春、広場を変える巨大施設だ。店舗だけでなく、劇場や映画館、ホテルなどが入り、多くの人々を吸い込むことになる。
今でもゲームセンターやライブ会場が、広場を取り囲む。しかし、タワーの引力はケタ違い。人流が増え、注目度もあがる。そうなるとキッズに酔客、ホームレスが入り乱れる広場も、今のままとはいかない。
日本駆け込み寺は、その広場から、歩いて3分ほどのところに事務所を構える。近ごろ、いわゆる「立ちんぼ」が増えている「大久保公園」の近くだ。
今年8月末から、子どもたちに食事を無料で振る舞う「ミライカフェ」を毎週金曜と土曜の2日間、開いている。日常的にゴミ拾いで顔を見せている団体のため、キッズもすぐに信用して集まるようになった。
午後4時前、事務所をのぞくと、10人ほどの子どもが、親子丼とマカロニサラダを食べていた。一番大きい机には、明らかにキッズとわかる集団が陣取っていた。
食事の合間をぬって、目立つ髪色のヤス君(仮名・19歳)に「広場がなくなたら、どう?」と聞いてみた。答えは「広場にはこだわらない。自分と仲の良い人がいれば、どこでもいい」。
実は、これ以前にも、20代の女性キッズ2人にも同じ質問を投げていた。彼女たちもヤス君同様に「とくに広場にこだわらない」派だった。
キッズが広場に集いだしたのは、それほど古くない。以前は、「新宿東宝ビル」西側から北に伸びる道路(通称・トー横)に集まっていた。彼らは「路上」と呼んでいた。
しかし、2021年夏から、警備員の声掛けが厳しくなった。そのため、より自由な場所をもとめて、ビル東側の広場へと移ったのだ。
ミライカフェで話を聞いた中には、それでも広場に思いを寄せている男の子もいた。中学3年生のケンジ君(仮名・14歳)だ。
若者に人気の動画アプリ「TikTok」をきっかけに、あこがれを持つようになり、今年11月から毎週、広場に通っている。家出はしない、土日だけ来る「自称・真面目派です」。交通手段は自転車で、埼玉県の実家から1時間半もかける。
ケンジ君は「広場は、やっぱり広くて自由で過ごしやすい。初めてのときに、ケンカを見たけど、それも歌舞伎町かなと。仮になくなったら、どこに行くことになるのかなと気になります」。
ケンジ君の言うように、広場は歌舞伎町の中でも自由な空気を持っている。
大久保公園は鉄柱で囲まれているが、イベント時以外、広場にはゲートはない。周囲の灯りは24時間消えることなく、誰かが何らかの目的でそこにいる。
キッズでなくても、その開放的な空間でたむろするのは心地よい。大人ならば、アルコール缶を片手にしていても注意されることはない。
広場には、かつて本物の噴水があった。筆者(40代中盤)の大学生時代の記憶にも、かすかに残っている。「コマ劇前の噴水広場」と呼ばれていた。間違いなく都市のオアシス的空間だった。その癒しの役割は、今のシネシティ広場にも引き継がれている。
ただし、あまりの一等地のため、常なる変化を強いられる。そのタイミングの一つが、来春となりそうだ。
この真冬時期、さすがに広場にずっと居座っているキッズは少ない。仲の良いグループごとに、歌舞伎町内の地下通路や、誰かが押さえたホテルの一室などで過ごしている。
彼らがどこに向かうのかは、来年4月以降、徐々にわかってくるだろう。
「広場がどうなっても、キッズたちが、この歌舞伎町を離れることはないでしょうね」
歌舞伎町で20年にわたり、あらゆる相談を受けてきた玄さんの予想だ。
ネットカフェ、ラブホテル、ビジネスホテルなど彼らが泊まれる施設が、周辺に多数ある。女の子なら売春、男の子ならばグレーな仕事に手を染めれば、生きていくための稼ぎは得られる。
「歌舞伎町に来ればどうにかなるのです。だからこそ、博多からも夜行バスに乗ってやってくる。バスタ新宿で降りれば、少し歩くだけです」
新宿東宝ビルに続き、東急歌舞伎町タワーも営業するとなれば、ますます「キラキラ」としたスポットとなる。若い女性たちが、足を運ぶ機会も増えそうだ。
それでも、歌舞伎町全体の猥雑さは残り続ける。違法薬物の売買は取り締まるべきだし、オーバードーズ(薬の過剰摂取)の流行も食い止めたい。犯罪や死が近い街ではいけないが、クリーン一辺倒を目指すのも正解ではない。
玄さんは、来年以降の動きを次のように説明する。
「僕は建設業をやっていたからわかるけど、広場は来年2月ごろから、エリアを区切って工事していくだろうね。今のようにキッズたちは使えなくなる。仲の良いグループごとに、分散することになるだろう」
今は「核」となる広場があるから、キッズが目に見えている。散り散りになってしまうと、外部からアウトリーチしにくくならないか。
そこで役立つのがゴミ拾いやミライカフェだという。
「ゴミ拾いでのぼりを見せて、うちの宣伝文を載せているティッシュを配る。信頼を得て、ミライカフェに来てもらう。そうすると、マスクを取った1人1人と話ができる」
「新型コロナウイルスで動けなかったけど、ようやくつかめてきました。キッズたちが、どこに行こうとも、つながり続けられますよ」
歌舞伎町を熟知する玄さんはそう話している。