Text by 三宅正一
Text by 山元翔一
Text by 嶌村吉祥丸
12月26日に最終回を迎えるドラマ『エルピス —希望、あるいは災い—』。その主題歌”Mirage”を手がけるMirage Collectiveの中心メンバー、STUTS、butaji、YONCE(Suchmos)の鼎談が実現した。
12月23日には局の垣根を超えて『ミュージックステーション ウルトラSUPER LIVE 2022』(テレビ朝日)に出演するなど、Mirage Collectiveはいちドラマの企画に止まらない展開も見せている。こうして大きく注目を集める理由は何なのか? クライマックスに差しかかるドラマの内容をさらいつつ、ベールに包まれたプロジェクトの実態に迫った。
カンテレ制作の月10ドラマ『エルピス —希望、あるいは災い—』(以下、エルピス)にすっかりハマっている読者諸兄姉は多いのではないだろうか。
主演を務めるのは近年、実力派俳優としての存在感をいっそう増している長澤まさみ。脚本は映画『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)でデビューし、その後『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年)や『天然コケッコー』(2007年)などの代表作を執筆し、昨年放送されたNHK総合土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』も多方面で高い評価を得た、渡辺あや。
プロデューサーを務めるのは同じくカンテレ制作でカルチャーシーンの光明ともいえる反響を呼んだ松たか子主演、坂元裕二脚本の『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年)を手がけた佐野亜裕美。
ドラマ『エルピス —希望、あるいは災い—』メインビジュアル (C)カンテレ
この布陣からしても放送前から熱視線を集めていた『エルピス』だが、回が重なるごとに多くの人が「このドラマが持っている覚悟は、ハンパじゃない」と感じているのではないだろうか。
長澤演じる民放局の女性アナウンサー、浅川恵那と彼女のバディ役を担う眞栄田郷敦演じる岸本拓朗が冤罪疑惑のある連続殺人の真相を追うことからドラマは幕を開ける。
ストーリーが動いていくにつれ我々は、はたと気づく。このドラマが「極めて生々しいフィクション」としてあぶりだそうとしているのは、腐敗しきった政治や警察をはじめとする組織権力のおぞましさであり、あるいはそれを暴こうとしない、いや、暴くことを許されないメディアの忖度体質であると。その向こう側にたどり着ける真実はあるのか──陽炎のように揺れ動く、絶望と希望の気配が視聴者を惹きつけている。
その『エルピス』の主題歌“Mirage”を書き下ろしたのは、STUTS、YONCE(Suchmos)、butajiを中心に結成された音楽集団、Mirage Collectiveである。
STUTSプロデュースの楽曲にbutajiがソングライターとして参加、という座組みは『大豆田とわ子と三人の元夫』の主題歌“Presence”と同様であり、さらに毎週バージョン違いの楽曲がドラマのエンディングでオンエアされていく演出も含めて、必然的に“Mirage”と“Presence”を重ねている人も多いだろう。
“Mirage”はまず、このドラマのために始動したSTUTSプロデュースによるプロジェクトの楽曲としてオンエアされた。それは劇中と同じく、剥がれがたい緊張感や色気をまとったビートに深いオートチューンに覆われた男性ボーカルが乗ったものだった。
その後、ドラマが進むごとに楽曲も更新され、徐々にMirage Collectiveのベールが剥がされていくという仕掛けが施されていたのは既報のとおりである。
男性ボーカルの正体がYONCEであること、長岡亮介(ペトロールズ)やハマ・オカモト(OKAMOTO’S)なども名を連ねる総勢12名から成るバンドバージョンがあること、そして、YONCEと同じくオートチューンで隠された女性ボーカルが長澤まさみであり、誰も想像できなかった2人のデュエットが実現したことが明らかになり、さらには眞栄田郷敦がサックス奏者とした参加したバージョン、tofubeatsによるリミックスバージョンもオンエアされていった。
そして、12月21日にはバージョンの異なる全11曲が収録されたアルバム『Mirage』がリリースされた。
そこにはドラマの劇伴を担当した大友良英も参加した楽曲、前出のtofubeatsのほかに、韓国プロデューサー/シンガーソングライターのSUMIN、デトロイトのテクノ/ハウスシーンの鬼才であるOmar Sがリミックスを施したトラックも存在している。
はたして、Mirage Collectiveはどのようにドラマ『エルピス』と向き合い、コラボレーションの多面的な可能性に満ちた「2022年型のアーバンソウル」ともいうべき“Mirage”をつくりあげたのか。
中心メンバーであるSTUTS、YONCE、butajiの3人が貴重なエピソードの数々をここに明かしてくれた。
Mirage Collective(ミラージュ コレクティブ)
カンテレ・フジテレビ系月10ドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』(2022年)の主題歌“Mirage”を手がけた、STUTS、butaji、YONCE(Suchmos)を中心とする音楽集団。“Mirage”では、サウンドプロデュース/ミックスエンジニアリングをSTUTSが、作詞とメロディーをbutajiが、作詞とボーカルをYONCEがそれぞれ担当し、ドラマの主演・長澤まさみもボーカルとして参加している。ギターとコーラスで長岡亮介(ペトロールズ)、ベースでハマ・オカモト(OKAMOTOʼS)ら総勢12名が参加したバンドバージョンの「Collective ver.」、tofubeatsやSUMIN、Omar S によるリミックスを収録したアルバム『Mirage』が12月21日にリリースされた。
─ドラマの内容とともに“Mirage”という楽曲が持っている懐の深さとポテンシャルに感嘆しています。
STUTS:ありがとうございます。すごくうれしいです。自分でもいい曲ができたと思っています。
butaji:ドラマもおもしろいですよね。
─『エルピス』と“Mirage”の相互作用という点においても語りたいポイントは枚挙に暇がないのですが、まずは2022年にYONCEさんのボーカリストとしての新しい表情に触れることができたことがすごくうれしかったです。やっぱりYONCEさんは特別なボーカリストだと思いました。
YONCE:ありがとうございます(笑)。
─誇張ではなく、ソウルで歌っているなと。
butaji:今回、何回も歌録りしてもらったけど、ぼくも本当に毎回「ソウルだな」って感じていました。
Mirage Collective(左から:STUTS、butaji、YONCE)
―ドラマが回を重ねるごとに“Mirage”が更新され、Mirage Collectiveの全貌が少しずつ明らかになっていく仕掛けに対する反応など、STUTSさんはどうとらえていますか?
STUTS:まず思うのは、おっしゃってくださったようにYONCEくんの歌に多くの方々が喜んでくれているのをすごく感じられてうれしかったってことですね。長澤まさみさんの歌唱バージョンが公開されたときも、反響が大きくてありがたかったです。
YONCEくんや長澤さんの声にオートチューンをかけるというのは、今回の話を持ってきてくれた平川さん(スペースシャワーミュージックの担当A&R)のアイデアだったんですが、そういう試みもこれまでやったことがなかったので楽しかったですね。
─これは『大豆田とわ子と三人の元夫』の主題歌“Presence”でも感じたことですが、ともすればこういった企画は無粋になりかねない危険性も孕んでいると思います。でも、『大豆田とわ子と三人の元夫』と“Presence”、『エルピス』と“Mirage”は、ドラマと主題歌が織り成す相互作用として非常に粋で色っぽい共鳴を果たしている。それは本当に稀有なことだと思います。
STUTS:そうなっていたらうれしいですね。
butaji:メロディーラインや歌詞を書いた身としては、“Presence”はSTUTSくんや松たか子さんが、“Mirage”はSTUTSくん、YONCEさん、長澤まさみさんがすごくがんばってくれたという感覚なんです。
結局、メロディーや歌詞が本当にボーカリストやドラマの内容にフィットするかは曲が完成するまでわからない部分もあるので、毎回の放送ごとに「ありがたいな」という気持ちになるし、レコーディングが終わってようやくひと安心できたというか(笑)。
butaji:ひとつ思うのは、オートチューンで歌声を極端に補正したバージョンと、YONCEさんと長澤さんの歌声のリアリティーを追求した両極のバージョンを持った“Mirage”には、「真実とは何か?」と問うドラマのテーマと重なるような批評性があるということで。
その批評性はいまのポップスに対するカウンターにもなっていると思いますし、ドラマの脚本も世間に対するカウンターになっていると思う。
─ドラマは政治や警察の組織権力の腐敗やメディアの不透明さを生々しいフィクションとして描きながら、視聴者の想像力にも真っ向から挑んでいますよね。
butaji:そう思います。ドラマのサイドにも、主題歌を担当したぼくらにもそれぞれのチャレンジがあったんだなと。
(STUTSとYONCEに向かって)やっぱり脚本の熱量がすごかったですよね。クレジットを見ると参考文献もかなりあるし。
STUTS:本当に。最初に読ませてもらった段階からそれは感じました。このドラマの脚本の構想は2016年からあったそうなんですよ。
YONCE:それを思えば、2022年にこのドラマを放送する強さがすごい。たぶんずっと(バットを)振りかぶったままずっと来るべきタイミングを待っていたと思うんですよ。いろんな事情でいまになったのかもしれないですけど、世の中の状況を見ていてもジャストなタイミングだったと思うんですよね。
何が正しい、正しくないとかは、この場では言わないですけど、政治やメディアに対する不信を問う場があまりになかったわけで。そういう点からも、ドラマ自体が波紋を呼ぶ内容になっているわけじゃないですか。そこに俺たちも音楽で炎を投じることができたと思っています。
YONCE:俺はこのMirage Collectiveに感じているのは、butajiくんが焚きつけてくれた炎がすごく大きかったということで。俺はその炎を歌で媒介したような感覚なんですよね。
─それはbutajiさんと共作したリリックも含めて?
YONCE:そうです。歌詞もbutajiくんからOKが出た段階でやっと達成感があって(笑)。今回はSTUTSくんとbutajiくんと俺がお互い励ましあいながら進めていった制作だった。それがすごく自分としても大きな経験でした。
─たとえば今年、Ryohuさんの“One Way feat. YONCE”で<先は見えないが歌だけはある>と歌っていたのは、YONCEさんのリアルな実感だと思ったんですね。
YONCE:そうですね。
─それを経て、こうやってMirage Collectiveのボーカリストとして自分の歌が世の中に広がっているのはどういう感覚がありますか?
YONCE:う~ん……いや、Ryohuの曲もそうですけど、「声をかけてくれる友だちがいる」というのが本当に大きくて。今回、butajiくんとは初対面だったし、STUTSくんも2021年の『フジロック』のバックステージでTAIHEI(Suchmos)が紹介してくれたんですね。
STUTS:TAIHEIくんがぼくのバンドでサポートをやってくれてて。『フジロック』のバックステージでYONCEくんにご挨拶したときに「いつか何か一緒にやれたらいいね」という話もしたんです。
YONCE:そう、伏線回収みたいな話になるけど(笑)。
YONCE(Suchmos)
─最初にオファーが来たときの気持ちはどうでしたか?
YONCE:Suchmosの活動休止以降、俺は全然歌ってなかったので、歌わせてもらう場をいただけてありがたいというのがまず一番。それと、STUTSくんから去年『フジロック』で交わした約束がきた、みたいな(笑)。
こうやって声をかけてもらえることにすごく意味を感じているし、うれしかったけど、「期待にちゃんと応えられてるかな?」「俺はちゃんとやれるかな?」という不安はずっとつきまとっていましたね。この1年、敏感になっていたところがあったんですけど、Mirage Collectiveを通じて払拭できたなという感触があって。
─敏感になっていたというのは、自分が歌うマインドという意味で?
YONCE:そう、マインド的なものが大きいですね。Suchmosの活動においても、自分が歌うという意味でも、確立していたものを一度解いちゃったという感覚があったので。
─ただ、SuchmosのメンバーであるTAIHEIさん経由でSTUTSさんとつながり、そしてMirage Collectiveに帰結したという縁もすごくよかったですよね。
YONCE:本当にそうですね。
─ちなみにRyohuさんの曲に客演したときはどういうマインドで臨んだんですか?
YONCE:Ryohuのときは──当時、ぼくはめちゃくちゃカッコいい古いBMWに乗っていて、246の駒沢らへんを流していたら、同い年くらいの知ってるシルエットの男性を見かけたんですよ。
その男性の横を通り過ぎるときに「YONCE!」って呼ばれて、パッと見たらRyohuで(笑)。「ちょっとまた連絡するわ!」みたいなやりとりがあって、その数か月後に「この曲で歌って」っていう連絡がきて(笑)。
─ストリートで成立した話みたいな(笑)。
YONCE:そうそう(笑)。なので、逆にいうとあの曲はあまり振りかぶらずにはじまったんですよ。
─でも、今回はプロジェクト的にも振りかぶらざるを得ないオファーだったわけですよね。
YONCE:そう。参加メンバー全員でバッターボックスに入ってる、みたいな感じなので(笑)。
─ちなみに、長澤まさみさんが歌唱することは主題歌のオファーが来た時点で決まっていたんですか?
STUTS:それは全然決まってなかったんです(笑)。
─じゃあYONCEさんは自分がボーカルをとることが決まったあとに、長澤さんとデュエットすることになった報せを受けたという?
YONCE:そうなんですよ(笑)。でも、普通に考えてすごいことじゃないですか。それを知ったときは「うおー!」ってなったけど、冷静に考えたら「いや、ちょっと待てよ?」みたいな(笑)。結果的に曲もすごくおもしろくなったし最高なんですけど、緊張はしましたね。
長澤まさみとMirage Collective
─長澤さんの歌唱も技巧云々を超越した、特別な俳優ならではの艶と迫力がありますよね。
butaji:表現力がすごかったですね。やっぱり歌のテンションをしっかり調節されるというか、俳優さんのプロフェッショナルな姿勢を見たなと思いました。
ただ、ぼくがメロディーと歌詞を書いた時点ではあくまでYONCEくんを想定していたので、そこに長澤さんが入って成立するのかはレコーディングが終わるまで不安でもあったんです。デュエットの譜割りも何パターンか考えましたしね。
STUTS:結果的に“Mirage OP.4-Collective ver.(feat. 長澤まさみ)”は、想定していたよりも長澤さんのパートが多くなったんですよ。
YONCE:それはやっぱり長澤さんの歌唱が素晴らしかったからで。
STUTS:そう。YONCEくんも当初はこんなにガッツリとデュエットになるとは思ってなかったはずで。
YONCE:そうだね。でも、最近あんまりデュエットの曲ってない気がするから、そういう意味でも新鮮でした。
YONCE:あと、これはbutajiくんも同じ思いのはずだけど、歌う人間として長澤まさみさんのレコーディングを見届けなければならない、という恐縮感。「長澤さんの歌唱に対して何か言えってか!?」って(笑)。拝聴させていただいた感じですよ。
butaji:そうそう。長澤さんはこの曲のためにレッスンも行かれていたみたいで、本当にぼくらはちょっとアドバイスするくらいでした。
STUTS:ディレクションせずとも、長澤さん自身の心構えが素晴らしかったんですよね。こちら的にはOKテイクだったけど、長澤さんは「もう一回歌いたいです」って言ってくださったりして、その姿勢に感銘を受けました。
─総勢12人から成るMirage Collectiveのバンドメンバーも、STUTSくんと親交の深いミュージシャンが数多く参加していますね。
STUTS:バンドメンバーもそうですが、リミックスをお願いしたtofubeatsさんやSUMINさんもそうですし、これまでつながりのあった方と一緒にやりたいという思いがありました。
だから長岡さんには絶対に参加していただきたかったし、ハマくんとも星野源さんのバンドでご一緒した縁があったので、「いつか絶対に自分のプロジェクトでご一緒したい」と思っていて今回オファーして快諾してもらいました。
STUTS:ドラムを叩いてもらったWONKの荒田洸さんは今回がはじめましてだったんですが、レコーディング前に2人でスタジオに入ってセッションしたりしました。バンドアレンジは、まずビートの骨組みを組んでから考えていきましたね。
─YONCEさんもこのメンバーをバックに歌うのはかなり刺激があったと想像しますが、いかがでしたか?
YONCE:付き合いの長さとかを抜きにしても、みんなスタープレーヤーたちなので「こりゃすげぇ」とちょっと武者震いするところがありました(笑)。バンド全体の覇気がすごくて「この現場、すごっ!」みたいな刺激があった。とにかく気持ちよく歌えて、それがよかったなって思います。
─butajiさんはどうですか?
butaji:ぼくはスタジオのライブ録音でコーラスをすることが初めての経験だったので、YONCEさんに寄り添いつつ、「倒れても大丈夫だぞ!」という気持ちでいましたね(笑)。
YONCE:今回、butajiくんと長岡さんのコーラスがあって、「コーラスがいる歌い手ってこんなに安心感があるんだ」と思いました。まさに、もたれかかれるというか。その安心感はスタジオセッションのときに顕著でしたね。
─“Mirage”のビートに関してはどうでしょうか? 緊張感と切実なムード、そして色気が終始色濃く通底しているこのビートは『エルピス』というドラマを彩るという点でも絶妙だなと思います。
STUTS:ビートに関しては、言葉で表現しづらいムードがあると思っています。
「このドラマのエンディングに流れる曲であるなら……」ということを想像しながらつくったので、これまであまりやったことのないビート感になったと思います。今回のお話をいただいた段階では脚本はまだなくて、ぼくがいただいたのは概要とプロットだけだったんです。なので、そこは想像力を駆使した部分もありました。
あとは平川さんから「オートチューンを使いながら、これまでにない日本語のポップスをつくりたい」という言葉をもらって。そのお題と『エルピス』のムードを想像しながら、ソウルフルな曲にしたいなと思ってつくった感じですね。
STUTS
butaji:ぼくがSTUTSくんからデモをもらったときには脚本が届いていて。それが今年の7月くらいだったと思います。
ドラマの内容的にも、エンディングは落ち着いた雰囲気でしっとり終わっていくというイメージがあって。そのイメージとYONCEくんのボーカルが一番活きる音域を考えてメロディーラインをつくっていきました。
─その段階ではまだbutajiさんとYONCEさんは対面してない?
YONCE:そうですね。
─では、butajiさんはSuchmosの音源などを聴いてYONCEさんにあうピッチを想像しながら旋律を編んでいった?
butaji:ぼくはその想像が得意なんです。
YONCE:すごいなぁ。声ソムリエみたいな。
butaji:ぼくがYONCEくんのボーカルで聴かせたかったのはローの響きなんですよね。最近の男性ボーカルで低い声をなかなか聴いてないなと思ったこともあり。
STUTS:現バージョンでもAメロのキーは低めですけど、第一稿はサビももっと低かったんですよね。
YONCE:より抑制の効いたピッチというかね。
butaji:そう、もっと渋かった。
─それが変化したのはドラマサイドの要望?
butaji:そうですね。ぼくが想像していたものと、ドラマサイドの要望は結構違ったみたいで。いろいろ試行錯誤していまの形になっています。
butaji
─YONCEくんはデモをもらった段階の作詞や歌唱の心構えはどうでしたか?
YONCE:シンプルにいい曲だなと思いつつ、俺はいつもそうなんですけど、やってみないとわからないというタイプなので(笑)。事前に用意しすぎず、現場に行って顔を合わせてからスタートしたいなって。
─ニュートラルな状態でこの3人で曲をつくりあげたかった。
YONCE:うん。みんなのディスカッションから生まれたフィーリングや言葉を巧みに盛り込めたらいいなと思って。
─そういう意味でも、STUTSさんのプライベートスタジオで制作を進められたのはかなり大きかったと思います。商業スタジオを借りたら確実に時間制限があっただろうし。
YONCE:それは本当にそうですね。時間的にカツカツの状況だとなかなか難しかったと思う。
STUTS:リビングのソファーに座りながらみんなで話したり、そういう時間もすごくよかったです。
─今日、話していてもまだ知り合ってそこまで時間が経ってないとは思えないほど3人の距離感が近いなと思います。
butaji:濃い時間を過ごしましたからね(笑)。
YONCE:濃い時間を過ごした! コアな感情を共有しました。
butaji:それに一緒にクリアしていかなきゃいけない面が多々あったから。
─それはさっきのボーカルのピッチの件も含め?
butaji:そう、メロディーラインもそうだし。
─ドラマサイド、もっといえば佐野さんから細かいリクエストがあるのも、それだけ『エルピス』に寄せる思いが大きいからですよね。刹那的なコラボレーションでは生まれない、本気のコラボレーションだからこそ生まれたクリエイティビティーの摩擦と、それを越えたときの達成感、チームワークがあったんだなと。
STUTS:そう思います。できるだけ佐野さんの思いに応えたいという気持ちがすごくありました。がんばってもまだハードルを越えられない瞬間もあったんですが、そこはみんなで苦労を共有しながら曲をつくりあげましたね。