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AIの進化にショックを受けたイラストレーターが激白 「技術的に上手いだけの絵はAIに淘汰される」

2022年12月19日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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ベテランの作家がAIを使い始めた!


 漫画家・イラストレーターとして活躍している七瀬葵が、AIを使ったイラストをTwitterにUPしたところ、賛否両論様々な意見が寄せられている。七瀬の絵に長年親しんできたというファンの間からは、否定的な意見も上がっているようだ。


 筆者は七瀬の姿勢は非常に興味深いと思っている。そもそも、七瀬ほど一世を風靡した作家がAIに関心をもっていること自体が驚きである。過去のスタイルに固執せずに新しいツールを使いこなそうと取り組む姿勢は、創作への情熱そのものではないか。


 新しい技術が登場した時は、必ず批判は巻き起こるものだ。かつて漫画制作にスクリーントーンが導入され始めた時も、大御所の一部から、描き込む努力を惜しんではいけない、なるべく使わない方がいいなどという意見も出ていたのだ。


 そして、漫画制作にパソコンが使われ始めた時も、やはり批判的な意見は出ていたのだ。今ではスクリーントーンやパソコンが手抜きだなどと言う漫画家は、まずいないだろう。AIも、おそらく10年、20年先には漫画やイラスト制作において普通に使われるツールになるはずである。


 七瀬は「ほんと絵描きの人は趣味でもいいからAIちょっと触って勉強しといた方がいいと思う」と言っているが、その通りだと思う。AIは漫画やイラストの制作に革命的な変化をもたらす可能性がある。


 漫画の背景やキャラクターのポーズを、ソフトを使って制作している漫画家は多数存在する。AIも同様に多くの人が使いこなすようになると、使い手のセンスで差が表れてくるに違いない。批判的なクリエイターも一度は触ってみて、その真価を知る意味はあるだろう。


ほんと絵描きの人は趣味でもいいからAIちょっと触って勉強しといた方がいいと思う


海外の人がこれ使って仕事するようになったらクオリティとスピードで絶対勝てない
量産も勝てない
何日徹夜しても敵わない


— AI七瀬葵C101-2日目東ヌ20ab (@Aoi__Nanase) December 4, 2022


AIに衝撃を受けたイラストレーターが語る


 さて、AIに関心を抱く人がいる一方で、ショックを受けたと話す人もいる。筆者の知り合いのあるイラストレーターは「AIの進化の凄さにやる気をなくしてしまった」と話す。彼は様々な場面でイラストを手掛け、Twitterのフォロワー数も多い売れっ子だ。匿名を条件に話を聞いた。


――AIのイラストを見て、率直にどう思われましたか。
「最初は、AIをバカにしていました。どうせ、そんなに大したものは作れないだろうって。ところが、最近Twitterに流れてくるイラストを見ると、えっ、これがAIなの??! と驚くことが多くなりました。そして、ある日見て、いいなと思ったイラストがAIだったんです」


――私も、AIが描いた絵を純粋に凄いなと思いました。
「これまで何時間も時間をかけて描いてきたものが、AIなら一瞬でしょう。しかも、AIの方がちゃんと流行りの絵柄を学習しているし、目を引く絵を作るのが上手い。これまで自分が時間をかけてやってきたことは、何だったんだろうと思ってしまいました。AIが描いた絵を見て、私は流行りの絵を追いかけてきただけなんだと自覚したのが、一番辛い体験でした。私の絵は、技術はそれなりにあってきれいだけれど、個性では劣っている。だからAIに負けるんだと思いました」


――絵に個性がないと。


「そうです。それは山内さんが前に言っていたことですが、たくさんの絵を並べた時に、私の絵は埋没してしまうと言っていたでしょう」


――そんなこと言いましたっけ(汗)。


「でも、その通りなんですよ。今や、パッと見て上手いだけの絵を描く人は、Twitterやインスタに見ればいっぱいいます」


――しかし、これまで培ってきた技術を否定しなくてもいいと思います。


「そうでしょうか。それに、私が今描いている絵は、実は本来のタッチではないんですよね。私は手描きだと線がガタガタになるんです。でも、CGならソフトが自動的に線を補正して、きれいにしてくれる。だから、AIではないけれどもソフトの技術に凄く頼っている部分があって、これが自分の絵なのかと自問自答しています」


AIはイラストレーターの仕事を奪うのか?


――AIはどこまで浸透するのでしょうか。例えばライトノベルの表紙をAIが描くことは、そうそう無いと私は思いますが。


「私は描くようになると思います。ここまで進化していったら十分に代替できると思いますよ。編集者やもしくは小説家が指示をして、絵を用意するんじゃないですか。AIの時代って、むしろ山内さんみたいなライターがセンスを生かして、絵を生み出せる気がします」


――確かに、AIに的確な指示を出すためには、言葉を使いこなせる人の方が有利かもしれません。


「ソシャゲの絵はAIが描くようになると思います。これは日本企業にとってはチャンスかもしれません。最近、中国企業のように資金力があって、人を集められる企業の方がソシャゲは強いでしょう。でも、イラストをAIが用意してくれるようになればコストカットにつながりますし、アイディア次第で面白いゲームが作れると思います」


――そんな時代に、イラストレーターに求められることは何だと思いますか。


「技術よりも個性が大事な時代になると思います。あとは、イラストレーターが絵にかける情熱ですよね。私は自分で言うのも情けないのですが、情熱がほかの作家と比べて圧倒的に足りないと思ってしまいました。だって、AIの絵を見てショックを受けて、自信をなくしてしまうくらいですからね。仕事がある限り続けていくつもりですが、一度抱いた気持ちをなかなか変えられない性格なので。淘汰されるのは時間の問題かもしれません」


AIと手描きは共存していくはずだ


 今回のイラストレーターの発言が、どこまでその通りになるのか。筆者にはわからない。AIの進化のスピードは速い。廃業するイラストレーターは確かに出てくるだろう。しかし、七瀬葵のように、AIを使いこなそうとするイラストレーターも増えていくはずだ。


 人間の創造力は凄まじいものがある。『初音ミク』が登場した時、まさかボーカロイドが歌う曲が世の中を席巻することになると予想していた人は、少ないのではないか。10年、20年先は、AIを巧みに調教できるイラストレーターの作品がブームを巻き起こしている可能性もあり得るのだ。


 では、昔ながらの手描きを追求してきたイラストレーターはどうなるのか。むしろ、チャンス到来かもしれない。大量生産できる工業製品が普及したとき、昔ながらの手仕事の価値が見直されることがあった。おそらく、手描きのイラストが見直され、価値は高まるだろう。AIには学習が難しい独特の絵柄や、ヘタウマ系の作家が脚光を浴びるかもしれない。


 AIを使いこなすクリエイターと、AIを使わずに手描きにこだわるクリエイターの両者が、共存していく形になると思う。私は手描きが好きだが、一方でAIを否定はしない。むしろ、いったいどんな新しい表現をしてくれるのか、楽しみにしているのだ。


文=山内貴範