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『M-1グランプリ2022』決勝は新しい顔ぶれに。ファイナリスト9組それぞれの魅力とは?

2022年12月18日 08:00  CINRA.NET

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Text by ラリー遠田
Text by 生田綾

今年もこの季節がきた。漫才の祭典『M-1グランプリ2022』の決勝が12月18日(日)に行なわれる。

予選を勝ち抜いて決勝に駒を進めたのは、ウエストランド、カベポスター、キュウ、さや香、真空ジェシカ、ダイヤモンド、男性ブランコ、ヨネダ2000、ロングコートダディの9組。ここに決勝当日に行なわれる敗者復活戦の勝者1組を加えた10組が、決勝の舞台で争うことになる。

史上最多となる7261組の芸人が参加した今年の『M-1』では、予選の段階からいつになく厳しい戦いが繰り広げられていた。ゆにばーす、オズワルド、インディアンス、見取り図、ミキ、カミナリといった複数回決勝を経験している決勝常連組が、軒並み予選で敗れてしまったのだ。それどころか、もも、モグライダー、ランジャタイなどの昨年のファイナリストは、準決勝にすら進めずに姿を消した。

そんな常連組を押しのけて決勝に上がってきたのは、初決勝が5組、2度目の決勝が4組のフレッシュな顔ぶれだ。誰が優勝しても新たなドラマが生まれることは間違いない。ファイナリスト9組の見どころについて順番に解説する。

(並びは五十音順、写真:M-1グランプリ事務局提供)

ウエストランド(井口浩之、河本太)

ウエストランドは、2020年以来2年ぶりの決勝進出を果たした。コンビバランスは驚異の「9:1」、いや、ほぼ「10:0」か。小柄で面長の井口浩之が、まくし立てるように一方的にしゃべりまくるワンマンショー漫才を見せる。相方の河本太はほとんど棒立ちで、わずかにセリフを挟むのみ。口を開けば愚痴と悪口と不平不満が止まらない井口の無軌道な暴走トークが魅力だ。

『笑っていいとも!』の準レギュラーに選ばれながらも、そこでは芽が出なかった彼らが、最近になってようやく漫才師として評価されるようになり、ふたたび『M-1』の決勝に帰ってきた。「傷つけない笑い」が求められる時代に、狂犬・井口の「傷つけまくる笑い」がどこまで通用するのか。

カベポスター(永見大吾、浜田順平)

カベポスターは、今年『ytv漫才新人賞』『ABCお笑いグランプリ』という2つの関西のお笑いコンテストで優勝を果たしていて、いま最も勢いのある若手漫才師である。落ち着いた雰囲気の永見大吾がどこか引っかかるところのある不思議な話を展開していき、浜田順平が要所要所でツッコミをいれていく。

関西芸人ではあるがどちらもそれほど声を張りすぎず、淡々とした調子でネタが進んでいく。それでも数々の賞を受賞しているのは、純粋なネタの面白さがあるからだ。今年すでに2つの賞を獲得している彼らが、『M-1』も制覇して有終の美を飾れるか。

キュウ(ぴろ、清水誠)

キュウはウエストランドと同じタイタン所属のお笑いコンビである。吉本以外の同じ事務所の芸人が2組決勝に進むのは、2002年の松竹芸能のますだおかだとアメリカザリガニ以来、20年ぶりの快挙である。

キュウは、独特のゆったりした間合いで漫才を進めていく。一般論としては、『M-1』ではスローテンポの漫才は不利だとされている。しゃべりが速い方がボケを詰め込んで笑いどころを増やせるし、観客を巻き込みやすいからだ。しかし、2010年に準優勝したスリムクラブのように、ごくまれにスローテンポの漫才師が大活躍をすることもある。キュウも決勝の舞台で見る者に強烈な印象を残すに違いない。

さや香(新山、石井)

さや香は2017年以来、5年ぶりの決勝進出となる。変則的な芸風が多い今回のファイナリストのなかでは、比較的オーソドックスな漫才を演じる。2人ともしゃべりが達者で、高度な掛け合いを見せる。

彼らは以前決勝に行ったときとは芸風を少し変えている。具体的には、2人のボケとツッコミの役割が逆転しているのだ。ボケとツッコミを変えるというのは、漫才の根本的な方向転換であり、誰もが簡単にできるようなことではない。それができたのは、2人それぞれに圧倒的な実力があったからだ。実力者2人の巧みな話芸は問答無用の説得力を持っている。

真空ジェシカ(ガク、川北茂澄)

真空ジェシカは、昨年に続いて2年連続の決勝進出を果たした。漫才でもそれ以外の場所でも、無軌道だが鋭いセンスを感じさせるボケを連発する髭面の川北茂澄に対して、金髪のガクがおそるおそるツッコミをいれていく。

特定の世代や文化圏の人にしか伝わらないような間口の狭いワードをあえて好んで使うようなところもあり、人によって評価が分かれるが、一度クセになると抜け出せなくなる中毒性もある。スピードワゴンの小沢一敬をはじめ、業界内に熱心な支持者も多い。決勝の舞台ではそんな彼らのとがった部分がどのように評価されるのか。

ダイヤモンド(野澤輸出、小野竜輔)

ダイヤモンドは、少し前からネクストブレイク芸人として注目されていたコンビである。2021年の正月には若手芸人の登竜門と言われる『おもしろ荘』(日本テレビ)で優勝を果たしたが、歴代の優勝者である横澤夏子、おかずクラブ、ブルゾンちえみのように波に乗ることはできなかった。それどころか、2021年の年末には野澤輸出が足を骨折して長期療養するというアクシデントにも見舞われた。

しかし、そこから彼らは見事に復活して、『M-1』のファイナリストになった。さまざまなシステムの持ちネタがあり、それぞれ完成度が高いのが売りだ。今回の決勝進出も、準決勝で披露した漫才の設定の斬新さが認められたところが大きいのではないか。『おもしろ荘』と『M-1』の二冠を獲れれば、史上初の快挙となる。

男性ブランコ(浦井のりひろ、平井まさあき)

男性ブランコは『キングオブコント2021』で準優勝を果たした実績を持っている。コントのスペシャリストである彼らは、持ち前の演技力とセンスを生かして、漫才の世界でもファイナリストにまで上り詰めた。

独特の不思議な調子で話を進める平井まさあきに対して、浦井のりひろがナチュラルな日常会話口調で穏やかにツッコミをいれる。メガネ姿の2人の落ち着いた振る舞いが、どこか上品さを感じさせるのだが、ボケの破壊力は抜群だ。コントの国からやってきた刺客が、漫才の世界をかき回してくれそうだ。

ヨネダ2000(誠、愛)

ヨネダ2000は、規格外の才能を備えた新進気鋭の女性コンビである。先日行なわれた『女芸人No.1決定戦 THE W 2022』では準優勝を果たし、『M-1』でも堂々と決勝に進んだ。『M-1』で女性コンビがファイナリストになるのは、2009年のハリセンボン以来13年ぶりである。

彼女たちの芸風を一言で言うと「女ランジャタイ」。摩訶不思議な設定のネタを何の迷いもなく堂々とやり切って、笑いをもぎ取っていく。過去に『M-1』のファイナリストとなった女性コンビのアジアンやハリセンボンは、感情をむき出しにするエモーショナルな漫才を演じていたが、ヨネダ2000はそれとは対象的な機械的で無機質な漫才を見せる。そこにも現代的なセンスを感じる。

ロングコートダディ(堂前透、兎)

ロングコートダディは、男性ブランコと同様にコントのイメージが強い芸人である。『キングオブコント』では2回の決勝経験を持ち、『M-1』でも二度目の決勝進出となる。

彼らの漫才の魅力は、ありそうでなかった独特の設定と、それを意外な方向に導いて面白くしていく抜群の展開力である。彼らはネタのなかで決して大きく声を張ったり、ドタバタと激しく動き回ったりはしないのだが、確実に大きな笑いを生んでいく。見る者を自分たちの世界に引き込んでいく力の強さは、ファイナリストの中でも群を抜いている。

さらに、決勝ではここに敗者復活戦の勝者1組が加わる。敗者復活戦で誰が勝ち上がるかはわからないが、視聴者投票で決まる以上、一般的な知名度がある芸人が圧倒的に有利である。その意味では、オズワルドとミキの2組が大本命ということになるだろう。

特にオズワルドは、3年連続の決勝進出を経て、今年は準決勝で敗れているので、ここから敗者復活で勝ち上がるようなことがあれば、ドラマティックな展開になるのは間違いない。

また、息の合った掛け合いを売りにしている兄弟コンビのミキは、若手漫才師のなかでも屈指のパワーファイターである。同じタイプのファイナリストが少ない今回は、決勝にさえ行ければ、そこで台風の目になるだろう。もちろん、彼らだけではなく、敗者復活戦に挑むすべての芸人にチャンスはある。

敗者復活戦の出場者は以下の通り。

シンクロニシティ、ママタルト、ヤーレンズ、令和ロマン、ななまがり、ハイツ友の会、THIS IS パン、カゲヤマ、ダンビラムーチョ、ケビンス、ストレッチーズ、オズワルド、ミキ、からし蓮根、かもめんたる、コウテイ、マユリカ、ビスケットブラザーズ

一年に一度、日本中が熱狂する漫才の夢舞台。今年はどんなドラマが待ち受けているのだろうか。