どこの会社にもひとつやふたつはありそうな、奇妙な風習。都内に住む40代前半の男性(企画・マーケティング)が勤める会社で毎月行われているのは、給料日に社長や役員に御礼のメールをおくることだという。詳しく話を聞いてみた。(取材・文:昼間たかし)
昭和かな?「社員は家族」思考の社長が君臨
男性の勤務するのは、社員50人ほどの人材派遣や営業代行をメイン業務とする会社。ブラック企業ではないが、創業者の社長は極めてワンマン気質だ。
「会社には、”社長のオリジナル標語”が掲げられています。別に字が上手いわけでもないのに、各部署に直筆の色紙が飾ってあります」
この社長、人との付き合いを大事にする気質のようで、社員や出入り業者の顔や名前もしっかり覚えているという。しかし、その「人付き合い」の仕方は極めて昭和的……いや、江戸時代的ともいえる。
「毎年年末の最終出社日は、全員で大掃除をして納会。コロナ禍でここ数年は中止になっているが、そのまま全員参加の忘年会が恒例でした。部署対抗で余興をやって、拍手が多いと社長や役員から賞金がでるんです」
いわば「社員は全員家族」を実践しているようだ。
そうなると、「お給料ありがとうメール」が必要なのも、それが「仕事への報酬」ではなく、親から子どもに与えられる「お小遣い」感覚だからなのかもしれない。
「当然、振込なのですが給料日には出社すると、まず社長と役員にCCで御礼のメールを送信するんです。全部ちゃんと目を通しているみたいで先月のメールをコピペして送ったら怒られたこともあります」
ええ……。毎月オリジナルの文面を書かないといけないのか。それはドン引きである
そんな体質にはからずも反旗を翻す形になってしまったのが、男性の数年先輩の営業部に所属する社員だ。
「毎月の習慣なので仕方ないとは思っていますが、多忙な日にあたると面倒くさいですよね。だから親しい社員同士では給料も少ないのに面倒くさいな、とか軽口をおくりあっていたのですが……」
その先輩社員は、そんなメールを誤って社長と役員にCCで送信してしまったのであった。
「本人も、すぐに気づいたようですが、30分ほどして営業部の部長が社長室に呼ばれたそうです。その日の午後には、もうその先輩社員は社内から姿を消していて、その後見かけることはありませんでした」
漏れ聞こえてきた話では、運悪くメールの文面は「面倒くさいな」程度ではなく「相変わらず給料が安い」などなどかなり強烈なものだったというが……。しかし、ありがちな愚痴で追放されるということは、所詮は「名ばかりの家族ごっこ」ということか。
ちなみに、即効で姿を消した先輩社員とは、ほどなく再会したという。
「半年ほど経って、取引先に出向いたら、そのオフィスで楽しそうに働いていましたよ」
不幸中の幸い、取引先がまともな会社なら、かえってそっちのほうがよかったのか?
ただ、メールの送り間違いは、ありがちとはいえ本当に致命的なことにもなりうるミス。ぜひ読者のみなさんも、送信ボタンを押す前の深呼吸と宛先チェックを忘れずに……。