トップへ

ROTH BART BARONと中村佳穂から、いつかのあなたへ。「正しさ」の壊れた時代で、何を信じられる?

2022年12月14日 17:00  CINRA.NET

CINRA.NET

写真
Text by 柴那典
Text by 山元翔一
Text by 金本凜太朗

ROTH BART BARONの三船雅也と中村佳穂の対談が実現した。

ROTH BART BARONの新作『HOWL』収録の“月に吠える feat. 中村佳穂”で初のコラボレーションが実現した両者。考えてみれば、これまでお互いが交わってこなかったのが不思議なくらい、通じ合う感性の持ち主であると思う。

自由で、躍動感があって、しかし既存のフォーマットや方法論にとらわれない歌を生み出していく発想。音そのものと戯れるような、ピュアで、自然体で、しかしどこか神聖なものに手を伸ばすようなパフォーマンスと、アートなど音楽以外の要素も併せ持つ総合芸術的なライブの演出。活動を通じてかたちづくった、ゆるい共同体のようなものから有機的に音楽を生み出すミュージシャンシップのあり方も近い。

鳴らしている音楽のジャンルやスタイルが似通っているわけではないが、両者に共通するものを感じているのは筆者だけではないはずだ。

対談では、お互いの出会いや、楽曲制作の裏側からはじまり、それぞれのアーティストとしてのスタンスや、いまの時代に対しての考えについても、語り合ってもらった。

ROTH BART BARON(ロット バルト バロン)
シンガーソングライターの三船雅也が2008年に結成した日本のインディーフォークバンド。『FUJI ROCK FESTIVAL』や『SUMMER SONIC』など大型フェスへの出演、海外でのツアーも精力的に展開。2022年11月には5年連続、通算7枚目となるオリジナルアルバム『HOWL』を発表した。

中村佳穂(なかむら かほ)
1992年生まれ、京都を拠点に活動するミュージシャン。20歳から本格的に音楽活動をスタート。2021年7月に公開された細田守原作、脚本、監督のアニメーション映画『竜とそばかすの姫』の主人公すず・Belle役に起用、同年末、millennium parade×Belleとして『第72回NHK紅白歌合戦』に出演を果たした。2022年3月23日、約3年半ぶりとなるニューアルバム『NIA』をリリースした。

―おふたりの最初の出会いはいつごろでしたか?

三船:たしか佳穂ちゃんが『AINOU』を出したとき、ちょうどぼくも『HEX』を出したタイミングで、たまたまSPACE SHOWER MUSICのオフィスでお会いしたんです。

―いまおふたりはレーベルメイトですし、『AINOU』と『HEX』はどちらも2018年11月7日リリースだったんですよね。

三船:そうそう。あと佳穂ちゃんと一緒に『AINOU』をつくった荒木(正比呂)くんや西田(修大)は、ミュージシャンとしてずっと一緒に成長してきた旧知の友人で、特に西田は同い年。そのふたりから「よかったから聴いてよ」って言われていた人に実際にお会いして、「あなたがそうでしたか」みたいなのが最初の出会いでした。

三船:そこから『AINOU』を聴いて、自由にぴょんぴょん跳ねながら歌ってる感じがあるし、鍵盤の音と歌とバウンドする感じ、あと音に対するレスポンスがめちゃくちゃ速くて、「すごく音楽的な人だな、音楽そのものに近い感じがあって楽しいな」って感じたのが最初の記憶です。

中村:じつは私はもっと前からROTH BART BARON(以下、ロット)のことを知っていました。イベントをつくるときに、すごく自分と近しいエネルギーの集め方をする人だと思って、ずっと名前を覚えていたんです。

私はよくライブハウスの月間スケジュールを見たり店長にオススメを聞いたりするんですけれど、ロットは京都の磔磔に出てらっしゃったから、ずっと噂を聞いていて。

中村:自分のなかで輝かしいイメージがあったので、ゆっくりお話したいとずっと思っていたんですけど、そのタイミングを逃していて。そうやって「いいタイミングで会いたい」と思うミュージシャンが数人いて、三船さんはそのなかの一人。あっさり会っちゃうとあんまりよくないと思ってたんですけど、2021年の象眠舎(※)のときに、「ついにゆっくり会えるタイミングが来た」と思ってお会いできたという感覚です。

三船:最初に会ったときは挨拶程度だったので、ちゃんと話せたのは去年が初めてでしたね。一緒に歌ったのが何より大きかった気がします。バックステージで、バックグラウンドとか最近のムードとかいろいろ話して、それもすごくおもしろかった。

―そのときに話していたことで、どんなことが印象的でしたか?

三船:佳穂ちゃんのパフォーマンスや歌い方、ステージのつくり方って、いわゆる「音楽ライブ」の枠にとらわれないようなところがありますよね。演劇的な要素もあるし、立体的につくっているから劇場っぽくも見えるし、アートにも見える。

そういう「音楽だけじゃない深さ」はどこからくるんだろうと思って、大学で勉強していたときの話とか、身体のパフォーマンスの動きの話とか、旅の話とか、いろんなことを話しました。

―中村さんが近しいと感じたところって、たとえばどういうところだったんでしょうか?

中村:三船さんって、自分以外の人たちのことを信じているし、おもしろがっている印象があるんです。信じているというのも「ぼくはこういう感じなんですけど、好き勝手にいい感じにやって力を貸してください」くらいの。勝手な統制がとれている状態を許容している、というか。

私もバンドを組むときは、しっかり想像して、最初のコンセプトは伝えるんですけど、そのあとは「みんな好きにやってください」みたいな感じで。その部分で近しいものを感じているのは、唯一三船さんだけです。

三船:嬉しいですね。

―ロットも中村佳穂さんも、ライブを見るとメンバーの集まりがコミュニティーっぽいというか、生きものっぽい感じがするんですよね。シンガーソングライターとそのバンドメンバーって、基本的には「サポート」という関係性になることが多いと思うんです。中心にいる人のイメージやビジョンを具現化するべく、その人の手足になるという。

―けれどおふたりの場合はそうじゃなくて、ステージを見ていると、もっと有機的な集まりから音楽が立ち現れている感じがする。そういうムードには、わりと近しいものがある気がします。

三船:そうですね。佳穂ちゃんの活動はすごく多角的で、音楽そのものがフレキシブルで既存のポップスの枠組みを打ち破っているような感じだから、バンドのかたちも自由だし、プロジェクトごとに演奏することも変わっていくし、ライブ自体が毎回違うよね。

ステージ上で鳴っている音に対して佳穂ちゃんがどうアプローチしていくのか、お客さんに対してどう投げかけるのかも当日までどうなるかわからないという。佳穂ちゃんも含めて、そういう自由な感じはすごく楽しいなって思うし、ロットの価値観ともすごく近いですね。

中村:嬉しいです。私はライブするとき、事前に必ず自分がどういうかたちでやるかを想像したうえで本番は何も考えずにやるって決めていて、日比谷野音公演に呼んでいただいたときはロットにそういう空間を用意してもらえたなと感じました。

あの日はなんだかヌーの群れのなかに入ったみたい気持ちになったんです。ロットのライブって、ファンの方々がお手伝いしていますよね。

三船:「P A L A C E」(※)のチームのことね。

中村:そうです。だからなのか、ロットの活動に合わせてコミュニティーが移動するような感覚があるんですよね。なんだか、日比谷にいるロットのコミュニティーに紛れて一緒に過ごして、別の場所に移動した、みたいな感覚を感じていました。群れのなかに入った! みたいな(笑)。

三船:おもしろい、いい言葉だ。

中村:私が音楽活動をはじめたばかりの10年くらい前からライブに来てくださっているファンの方がいるんですけど、その方が「P A L A C E」のメンバーだったので、リハーサルのときに久しぶりに会ったんです。

そのときにも「中村さん、知ってます? 物販コーナーは○○さんという人が仕切ってて、すごくいいから見たほうがいいですよ」とか、おすすめのグッズとかを自主的にプレゼンしてくれて。一人ひとりがそれぞれにロットを持っていて、それを説明するみたいな感じも含めて、すごく楽しかったんです。「へえー、そうなんですね!」って(笑)。

―「P A L A C E」のメンバーは、単なるファンクラブやファンコミュニティーというより、一緒にライブをプロデュースしたり、いろんなプロジェクトをともにするチームのようになってきているんですよね。既存の枠組みでは語ることのできない共同体が育ってきていると思うんですが、その実感って、どういうものがありますか?

三船:グッズ制作グループとか、お客さんを案内する会場整理のグループとか、会場の装飾のグループとかもあるんですが、特に最近はそれだけじゃなくて、「真夏の炎天下だから塩飴みたいなタブレットをお客さんに配りたい」って言って福利厚生部ができたり、「『BEAR NIGHT』だから『クマ神社』をつくりたい」って言う人とか、アイデアがいっぱい出てくるようになってますね。

俺はそれにひたすら「いいね!」って言う係になってきてる(笑)。みんなが自発的に参加してくれることで「群れ」が発生して、そこに俺も飲み込まれて楽しい、みたいに感じることは増えましたね。

―中村さんはどうでしょう? 全国ツアー『TOUR ✌ NIA・near ✌』を終えたタイミングですが、そこからどういうものが見えてきていますか?

中村:今回のツアーでは、一般の方からコーラスメンバーを募ったんです。オーディションでもなかったんで、応募者から本当にランダムに決めていったんですけど、みなさんの癖がいい意味でめちゃくちゃ強くて。

電車の車掌の方とか、ライブ後にプロポーズをしたカップルとか。当たり前なんですけど、人生のレイヤーの一部として、中村佳穂が好きっていうような感じだった。感動もしてくれているけど、普通のテンションで話しかけてくれる人がすごくいたんです。

三船:へえ、すごくおもしろい!

中村:この年になって感じるのは、日本という国に、確実に格差が出てきたということなんです。数年前から、本当に貧しい人が出てくるだろうなという雰囲気は感じていたんですけど、「ここまでのことになるとは!」って。それは経済的な格差だけじゃなくて、考え方における分断も含むんですけど。

今回のコーラスを募集したとき、そういう格差や分断が社会のなかにあることを理解したうえで、でも自分の好きなものはちゃんと好きだと主張する人たちが出てきている感覚もすごくあったんです。年齢関係なく、文化を好きだという気持ちを持っている人がしっかりいる感じというか、それは発見でした。

―ランダムに出会える仕組みをつくってみたことで、予想外の出会いになったという。

中村:そうですね。まず思った以上にみんな歌がうまくてびっくりしました。リハーサルは当日だけだったんですけど。

本番前に「好きに歌っていいですよ」って言ったんですけど、好きに歌ってくれるうえに、私より前に出ようとせずに全体のバランスを把握している感じだったんですよ。思った以上にみんなの癖がちゃんとあって、そのうえで統制が取れていた。今回は30人ぐらいの規模感でやったんですけど、これ、人数増えても全然できそうだなって思いました。

―ちなみに、プロポーズしようとした人というのは?

中村:「中村佳穂」という共通の趣味がきっかけで付き合いはじめたカップルだったんですけど、コーラスメンバー当選メールの返信で「ライブの当日にプロポーズをしたいと思ってます」と事前に連絡をくださったんです。

そういう意味でも、丁寧に自分の好きな文化を楽しんでいるし、時代を繊細に感じとっているけど、それでもおもしろく生きてる人っていうのがこれだけいるんだと肌で感じました。

三船:めちゃめちゃおもしろい。

―これ、それこそROTH BART BARONの「P A L A C E」の話と同じですよね。

三船:うん、そう思いますね。

―“月に吠える”の制作はいつごろでしたか?

三船:2022年の1月くらいに曲をつくりはじめたときに、イントロのモールス信号みたいなシンセとピアノのループが生まれて。そのあとベースラインができて「あ、この曲でアルバムができるな」って予感がしたんです。

すごく強い曲になるだろうし、この曲が中心になってアルバムが完成するから、これに向かって突き進めば大丈夫だろうという気持ちになった。その確信と同時に誰か遠くの誰かと響きあうイメージだから「ひとりで歌う曲じゃないな」と思ったんです。デモをつくりながら、「佳穂ちゃんしかいないな」とそのイメージまで見えてしまった。

中村:それで、お電話をいただいたんですよね。曲を送っていただいて、「佳穂ちゃんが思い浮かんだので、聴いてみて、よかったら歌ってみてほしい」って連絡をいただいたのが最初だったと思います。

―中村さんがオファーを受けての第一印象はどんな感じでした?

中村:「佳穂ちゃんって跳ね回ってるイメージがあるんだよね」って言って音源を送ってくださったんですけど、「これ、跳ね回ってるのかな?」って最初は思って。私としては遠くに飛ばすような曲に感じたんです。

「三船さんにとっての私」って「私にとっての私」と全然違うんだな、跳ね回ってる感じに聴こえない曲なのにその感じが必要だと思って私を呼んでくれたんだ、三船さんって不思議な人だなと思って、楽しい気持ちになりました。

「知らない」ということが楽しいので、「ああ、予想と違う人だ、やはり」って嬉しい気持ちで「ぜひ!」ってお返事したのを覚えています。

―中村さんのおっしゃった「遠くに飛ばす」という直感って、この曲もそうだし、『HOWL』というアルバム全体にふさわしい言葉だなと思うんです。その感覚を噛み砕くと、どういうものなんでしょうか?

中村:『HOWL』の曲からは、祈っているような感覚を感じていて。楽曲にも、三船さんのいろんな言動にも、この時代に対して正解がわからないことを考え続けているような、どこかわからない不特定の場所に対して祈るような気持ちでボールを投げ続けているような感覚があるんです。なるべく遠くの場所に綺麗な弧を描いて飛んでほしいって祈りが込もっているというか。

中村:曲としては訥々(とつとつ)としたアプローチのメロディーラインだと思うんですけど、そういう願いのようなものを遠くに飛ばしているイメージがあるなって曲を聴いたときに思いました。歌詞というより、弧を描くように伸縮しているようなリズムのアプローチとかも含めて、そういう感じがしました。

―三船さんは中村さんの解釈を聞いて、どうですか?

三船:核心を突いていて、まさにそのとおりだと感じます。あの曲が繰り返して弧を描いていくようなリズムだから、そのなかを自由に飛び回ってほしいというイメージで「跳ね回ってほしい」って言ったんだと思います。

中村:ああ、なるほど。

―“月に吠える”が最も象徴的ですけれど、『HOWL』というアルバムは、人とつながること、誰かに呼びかけることに対してのポジティブなマインドが前面に出てきているという思うんです。「月に吠える」という言葉には孤高や孤独のイメージもありますけれど、そうではなく、他者への呼びかけとしての意味合いを込めている。そのあたりについてはどうでしょうか?

三船:たしかに「月に吠える」という言葉には孤独の響きがあるんですが、今作はそうじゃなくて個人個人が独立しているんだけど、仲間や共同体をなんとなく意識しているようなイメージ。狼の感じというか。

三船:萩原朔太郎の「月に吠える」は一人ぼっちで吠えている寂しい犬のことを詠っていますけど、一人ぼっちに見えるのはあくまで人間側の目線で、狼が吠えるのは仲間がいることがわかっているからなんですよね。

コロナもあって、なかなか人に会えなかったり、匿名で顔が見えない人から攻撃されてしまったり、いろんな関係が渦巻いているこの世界で、顔の見えない誰かを思い浮かべて山の向こうに吠えてみたら、返事が返ってきた。そのこと自体が目には見えないつながりのひとつで、そこをもっと大切なテーマにしてアルバムをつくってみたいと思ってました。

もし自分がワオーンって吠えて、知らないどこかでワオーンって吠え返してくれる人たちがいたらすごく素敵だし、それこそ「2022年に信じるべき力」と呼べるものになるのではないかーー“月に吠える”ができたおかげでそういう感覚に行き着けたし、なおさら「ひとりで歌ってはいけない」と思ったから、中村佳穂という人と歌いたかったところがあります。

―これまでもロットは時代性に対してどんな感情や景色やムードを表現するか、ということをずっと考えながらやってきたと思うんです。そういうポイントから『HOWL』というアルバムについて話していただけますか?

三船:たぶん、ぼくらがコロナというものを強く意識しながら日常を過ごすのは2022年が最後なんですよ。2023年になるとまた価値観が変わっちゃうだろうから、ダイヤモンドプリンセス号とか、あれだけメディアやSNSで叩かれた『東京オリンピック』とか、『フジロック』とか、そういうものをすべて忘れて生きていく。

やっぱり、元に戻ろうとする力はすごく強いし、それでも、もう元には戻らないから、世界は金継ぎみたいになって、ボロボロの土台の上でもう一度つくり直したような世界で生きていくことになると思うんですよね。

三船:そうなってくると、コロナ禍のムードを歌えるのはいましかないなって思ったんです。去年はまだ渦中にいたから予測でしかなかったんですけど、最近はもっと具体的に見えるようになってきた。

「2020年代のはじまりこうして終わっていくんだ」みたいな気持ちが勝手にあって、ロシアのウクライナ侵攻も含めて、自然がつくりだす脅威より人間のその度し難い脅威のほうがよほど恐ろしいと感じるようなこともたくさん起きた。

そういう「時代の風」が自然と織り込まれているアルバムにしたいということは考えていました。ちょっと戦争の匂いは入れておきたいなと(※)。

三船:会いたい人に会えない、どんどん身体感覚が失われていく3年間を過ごしたけど、佳穂ちゃんが一生懸命歌う震える声に感動したり、自分自身が身体を使って演奏して、ライブをして、ツアーしてーーそういうことにひとつの答えがあったというか。

実際にそこで出会った人としかつくれない瞬間はやっぱりいま一番信じられるなという確信もあった。だから、身体感覚をもう一度呼び起こすものにしよう、自分自身もそれを感じたいということを思いながら『HOWL』をつくったんです。だから、今回はエナジーがあるアルバムになったんだと思います。

―三船さんはいまの時代性をめぐる話のなかで、戦争のことをおっしゃっていましたよね。歴史を見れば戦争が起こる構造というものはあって、ひとりのパワーに全員が付き従うという極度に中央集権化した組織同士の利害が対立したときに争いが先鋭化すると思うんです。そう考えると、ひとりのリーダーが統率をとって全員を引っ張っていくかたちじゃない人々の結びつき方を、ロットも中村さんも自然につくっていることって、すごく大きな意味を持つように感じます。

―というのは、お題目のように「戦争反対」とか「平和」と言ってもそこに説得力を宿すのが難しいわけで。かつてと違って、いまの時代はカウンターカルチャーがなかなか成立しなくなってきているんですよね。

中村:たしかに。

―そういうときに、こういう人と人の結びつき方がありえるということを示すのは、社会に対してのオルタナティブな道を示すことにもなっているんじゃないって、お話を聞いて思いました。

三船:長い時間軸で考えるとカウンターでの発信や誰かをずっと嫌いでいることって、すごくエネルギーを使うし、めっちゃ疲れると思うんです。人間の感情なんかそんなに続かないですよ。

だったら、カウンターでもなく「こっちのほうがおもしろくね?」「戦争やってるより、こっちのほうが楽しくね?」ってことにエネルギーを使っていきたいし、結果として大きな流れでカウンターになるとも思うんです。

三船:「P A L A C E」のメンバーたちのなかにも、音楽ライターで活躍されている方とか、洋服をつくっていて中国に工場を持ってる方とかいろんな人がいて。

「三船さん、タオル、できました!」って突然完成品を見せてきてくれる、みたいにいろんなことを生み出している力のほうが単純に楽しい。佳穂ちゃんを見ていても、そのエネルギーはすごいと思う。

―いわゆる「ライブ」って、当然アーティストが主役で観客はそれを観るために集まるものだと思うんですけど、ここまで話してきたようにおふたりは、好きなものが同じ人たちが集まる居場所のようなコミュニティーをつくっている。だからこそ、ひとりのリーダーが引っ張る一体感のある結束というよりも、それぞれが自由にバラバラでもつながれるような瞬間が生まれていますよすね。

―それは中村さんがおっしゃったように、格差や分断が表出してきているいまの時代に対しての、ひとつのよすがになるんじゃないかって思います。

中村:本当にそう思います。日比谷でのロットのリハーサルを拝見したんですけれど、そこで三船さんがあまり仕切ってない感じもすごく好きで。信頼して全部をいい意味で把握しすぎていない。そういう感じが本当にいいなって思います。

「よすがになっていけば」という気持ちもあるけど、私はふんわりそれを「いいな」って信じようって思います。

三船:いろんな人と一緒に声を合わせることのエネルギーって、かたちはないんだけど、ちゃんと熱量があって、手応えがあって、信じられる気がする。そういうものを心の片隅にとっておきたいって、いつも思います。