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「ジョブチューン」ロイホのパンケーキ不合格、シェフに批判殺到 名誉毀損となる一線は?

2022年12月14日 10:01  弁護士ドットコム

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11月26日に放送されたTBSの「ジョブチューン」でファミリーレストラン「ロイヤルホスト」のメニューを料理人がジャッジする企画がネットで話題となった。


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番組はロイヤルホストの従業員イチ押しメニュー10品を「超一流料理人」がジャッジするというもので、中でも4位にあがった「パンケーキ」について、料理人7人中6人が「不合格」の札を上げ辛口コメントをしたことが物議をかもした。



ネットでは「感じの悪い物言い」「見ていて不快」「傲慢すぎる」など料理人への批判が集まっており、コメントしたシェフの店のGoogleマップには番組終了後、「最低」「デッカいさらにちんまりした料理乗っけてるだけですね」など星1つのレビューも書き込まれている。



こうした状況に、「番組に本気で怒るのはおかしい」「中傷したら負け」など批判をとがめる声も出てきているが、法的には批判はどこまで許されるのだろうか。櫻町直樹弁護士に聞いた。



●名誉毀損になるかどうか

——シェフへの批判が殺到していますが、一般的にどこまでが「論評」になるのでしょうか。法的にアウトとなるラインも教えてください。



「法的にアウトとなるライン」について、名誉毀損になるかどうかという観点から検討しましょう。



名誉毀損とは、人(個人だけでなく法人なども含みます)の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させる表現を、不特定または多数が認識し得る状態に置くことをいいます(最判平9年9月9日民集51巻8号3804頁など)。



そして、表現が「事実を摘示するもの」か、あるいは「意見・論評を表明するもの」か、いずれであっても、人が社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば、名誉毀損が成立し得ることになります。



なお、その区別については、以下のような基準が示されています。



「当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当である」 「そして、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に属するというべきである。」(最判平16年7月15日民集 58巻5号1615頁)。



このように、ある表現が「事実の摘示」であるか、「意見・論評を表明するもの」であるかの区分が問題となるのは、いずれにあたるかによって名誉毀損が正当化される場合の要件が異なるからです。



意見・論評の表明の場合、それが人の社会的評価を低下させるものであったとしても、以下の要件を満たすことが認められれば、違法性を欠くか、あるいは故意または過失がない(上記最判平16年7月15日)とされ、名誉毀損は成立しません。



(1)公共の利害に関する事実にかかり、かつ、もっぱら公益を図る目的である (2)意見・論評の前提となる事実が重要な部分について真実であることの証明がある (3)真実であることの証明がないときでも、行為者において真実と信じたことに相当な理由がある (4)人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない



まず「公共の利害に関する事実」(公共性)というのは、広く一般市民に知らしめることが必要・相当と考えられる事柄のことをいいます。



例えば、犯罪行為に関する事実などがこれにあたります(刑法230条の2では、「・・・公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす」と規定されています)。



次に「もっぱら公益を図る目的」(公益性)というのは、広く一般市民に知らしめることを目的として意見・論評の表明を行なったかどうかということです。



公共性が認められる場合には、表現態様が著しく不当などの特段の事情がない限りは、公益を図る目的であったことが推認されます。



なお、「もっぱら」とありますが、裁判例には「主たる動機が公益を図ることにあればよく、多少私益を図る動機が併存していたとしても差し支えないというべきである」としたものがあります(東京地判令元年11月15日)。



それから、「意見・論評の前提となる事実が重要な部分について真実であることの証明があるか」(真実性)というのは、文字通り、意見・論評を表明する際に前提とした事実につき、その重要な部分が真実であると証明できるか、ということです。



ただし、(真実であるにもかかわらず)立証ができないために名誉毀損が成立するとなれば、表現の自由を過度に制約・萎縮させてしまう可能性があることに配慮し、証明がない場合でも、真実と信じたことに相当な理由(真実相当性)があればよい、としてハードルを下げている訳です。



そして、意見・論評の内容が、「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない」と認められれば、違法性または責任が阻却され、名誉毀損にあたらないということになります。



具体的な例を示すことは難しいですが、例えば、グーグルマップ上に表示されているシェフのお店に、クチコミとして「クソ高い料金とってクソ不味いゲロ料理しか作れない五流オブ五流のクズシェフ」などと書き込んだ場合は、人身攻撃に及ぶものとして名誉毀損にあたると判断される可能性が高いといえるでしょう。



●味と関係ないコメント「公共の利害に関わる事実」と認められない可能性

——店のレビュー欄に、味などとは関係ない批判コメントを書いても良いのでしょうか。



味などと関係のないコメントは、そもそも「公共の利害に関わる事実」と認められない可能性が高く、そうすると、そのコメントが「社会的評価を低下させるもの」にあたる場合は、名誉毀損が成立するということになるでしょう。



なお、社会的評価を低下させない場合でも、「社会通念上許容できる限度を超えて名誉感情を害する」表現については、侮辱として不法行為責任を負うことがあります(最判平22年4月23日民集64巻3号758頁)。



名誉感情というのは、「人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価」(最判昭45年12月18日民集24巻13号2151頁)をいいます。



どういった表現が社会通念上許容できる限度を超えて名誉感情を害するといえるかについて、具体的な判断基準を示している裁判例はあまり見当たらないのですが、過去の裁判例では以下のように判断したものがあります。



「表現態様が著しく下品ないし侮辱的、誹謗中傷的である等、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為は、人格権を侵害するものとして、名誉毀損とは別個に不法行為を構成する」としたもの(福岡地判令元年9月26日判時2444号44頁)、 「社会通念上許される限度を超える侮辱行為、すなわち、およそ誰であっても、そのような行為をされたならば到底容認することができないと感じる程度の著しい侵害行為であれば、人格権を侵害するものとして不法行為が成立する」としたもの(東京地判平27年11月16日)




【取材協力弁護士】
櫻町 直樹(さくらまち・なおき)弁護士
石川県金沢市出身。企業法務から一般民事事件まで幅広い分野・領域の事件を手がける。力を入れている分野は、ネット上の紛争解決(誹謗中傷、プライバシーを侵害する記事の削除、投稿者の特定)。
事務所名:内幸町国際総合法律事務所
事務所URL:https://uchisaiwai-law.com