2022年12月13日 10:01 弁護士ドットコム
日々問題なく働いている人でもいつ労働トラブルに巻き込まれるかわかりません。パワハラ、労災、長時間労働などのトラブルは今もなくなっていないのが現状です。
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トラブル発生に備え、過去の裁判例を通じて、実際に発生した労働トラブルとその結末を知っていれば、いざという時の助けになるかもしれません。
今回紹介するケースは、入社2カ月目の社員が会社トップへの挨拶を欠いたことを理由に解雇された事例です。林孝匡弁護士の解説をお届けします。
こんにちは。
弁護士の林孝匡です。
今回は、武富士の子会社で起きた解雇事件について解説します。
会長に挨拶しなかった社員が、解雇されたんです。
そんな理不尽な!って思いますよね。
そのとおり、社員が勝ちました!
約700万円を勝ちとりました(バックペイ)。
(テーダブルジェー事件:東京地裁平成13年2月27日判決)
バックペイとは、判決が確定するまでのお給料ということです。
(解雇が無効と判断されれば、解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料を頂けることになります)
この記事では、以下の内容をメインにお伝えします。
・事件の発端「会長のブチギレ」
・解雇された経緯
・裁判所の判断
・解雇はカンタンには認められない(=裁判で戦える)
まずは、原告Xさんと会社について。
Xさんは、アメリカで現地のベンチャー企業に勤務していた方です。
帰国後、仕事を探していました。
被告Y社は、ベンチャーキャピタルを主な業務とする会社。
Xさんは日本の証券会社に勤務していた経験もあったことから、Y社の求人に応募しました。
このY社の親会社は、消費者金融の武富士でした。
平成11年11月20日。
XさんはY社の面接を受けました。
なんと、武富士の会長(当時)直々の面接でした(約20分間)
~ この会長が「挨拶がない!」と激怒した方です ~
後日、ブチギレるんですが、面接のときは順調に進んでいました。
Xさんは、会長から直接「採用してもよいかな」と言われました。
そして、年が明けて、平成12年3月23日。
Xさんの下に採用通知が届きました(労働契約の成立です)。
3カ月の試用期間という条件でした。
おめでとうございます!
しかし、その1カ月後、事件勃発です!
平成12年の4月下旬のこと。
武富士の会長がY社に来所しました。
そのとき、Xさんを含め4人がデスクで仕事をしていました。
その4人は会長が入室したことに気づき、起立して頭を下げました。
しかし、声を出さなかったんです。
これに会長がブチギレました!
挨拶がないじゃないか!ということです。
会長はすぐに社長を呼び、Xさんを解雇するようほのめかしました。
しかし、社長は
「Xを3カ月、教育するので、解雇するかどうかの結論は待っていただきたいです」
とお願いしました。
社長、ダンディー!めっちゃいい人や~ん。
後日のこと。
次長がXさんを呼び出し、
「君がキチンと挨拶しなかったことについて、会長が大変立腹している。詫び状を書いて謝罪しなさい」
と言いました。
そこで、Xさんは「詫び状」を作りました。
↓ そのまま記載します(判決に記載されていました)
この度は私が武井会長様に大変な非礼を働いたことに深く反省しております。会長様とのご縁により、テーダブルジェーに入社させていただきながら、このような不始末をいたしました。二度とこのようなことがないよう固くお誓い申し上げます。今後、会長様の御指導を肝に銘じて、テーダブルジェーの業績向上のために誠心誠意、努力する覚悟でございます。なにとぞ、今回の非礼をお許しくださいませ。
Xさんは、この詫び状を社長に渡しました。
そして、社長が会長に渡そうとしましたが・・・会長は受け取らず。
そればかりか、会長は社長に対して「Xを解雇するよう」求めました。
どれだけ根に持ってるんや!挨拶一つで、しつこすぎます。
ここがまた社長のカッコイイところなのですが、社長、ねばりました。
解雇しろ!という会長の求めに応じませんでした。
しかし、5月中旬ごろ。
会長は、社長を呼び出しました。
社長に伝えたことは、再び「Xを解雇しろ」
・・・社長は、会長の業務命令に従わざるを得ませんでした。
5月16日。
社長はXさんに対し、
「会長と相談の上、君には辞めてもらうことにした。すぐ辞表を書いてくれ」
と伝えました。
納得できなかったXさんは、辞表を書くことを断りました。
すると、その後、解雇通知書が届きました。
全く納得がいかず、Xさんは提訴しました。
Xさんの勝訴です!
約700万円を勝ちとりました(バックペイ)。
判決では、
「挨拶しなかったとの理由で解雇することは、社会通念上相当として是認することはできないず、解雇権の濫用として無効」
と判断されました。
解雇はカンタンには認められません。
合理的な理由があって、社会通念上相当な場合だけ、解雇が有効になります。
労働契約法 第16条解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする
勤務成績が悪いという理由で解雇が有効になることは、ほぼありません。
ましてや「挨拶しなかった」との理由で解雇が有効になることは、まずありません。
もし理不尽な理由で解雇されそうなとき、されたときは、バックペイを獲得できる可能性が高いので、弁護士に相談してみましょう。
【筆者プロフィール】林 孝匡(はやし たかまさ):【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。働く方に知恵をお届けしています。HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1