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メルセデス・ベンツのEV「EQS」は究極の走るスマホ? 最新機能を体験!

2022年12月12日 12:11  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
メルセデス・ベンツの電気自動車(EV)「EQS」は、走る超高級最新スマホといった感じのする乗り物だ。前席に乗れば目の前にはディスプレイが広がっていて、画面をタップしていけばさまざまな機能、階層に到達できる。いろいろと触ってみたので、使い勝手を報告しよう。


○最新のテクノロジーが満載! でもまだ過渡期?



とにかく、EQSに乗り込むと、巨大な1枚ガラスで覆われた「MBUXハイパースクリーン」にまずは驚かされる。ダッシュボード全体に広がる画面の幅は141cm。ドライバー側から12.3インチのコックピットパネル、17.7インチのセンターディスプレイ、12.3インチの助手席用ディスプレイが並んでいて、後の2つは高価な有機ELのタッチディスプレイだ。


機械式のボタンやスイッチがないので最初はちょっとまごついたが、触覚フィードバックや力覚フィードバックなどを採用しているので、機械的なスイッチを押したような感覚が得られる。タッチ操作は心地よくて、ホーム画面から各機能を選んで階層を降りていけば、思ったところにすぐにたどり着けるようになる。


ディスプレイの表示スタイルやナビ画面をはじめ、イオナイザーやパフュームを調整する「エナジャイジングエアコントロールプラス」、ドライブ音を選択する「サウンドエクスペリエンス」、各機能の使用の有無によって変化する走行可能距離のチェック、天気やゲームといった各種アプリなど、ここで選択、調整できる機能は限りなく多い。


EQSは人間の感覚器官のような役割を果たす350個もの各種センサーを備えており、距離や速度、加速度、照明の状態、降水量、気温、シート着座の有無、ドライバーの瞬きやパッセンジャーの発話を検知して、それらの情報をアルゴリズム制御のコントロールユニットで処理し、瞬時に判断を行い、状況に応じて最適なタイミングで適切な機能を提示する機能を持っている。何が適切かを学習していってくれるので、オーナーになって乗れば乗るほど同システムの恩恵は大きくなる。乗員の望む機能をディスプレイの初期階層に表示するシステムだからか、このシステムは「ゼロレイヤー」と呼ばれる。


搭載するアプリも充実。画面でプレイできるゲームの種類も豊富で、テトリスやエアホッケー、神経衰弱などが入っていた。EVはどうしても充電の待ち時間が発生するが、シートのマッサージ機能を使いつつ画面で遊んでいれば、充電中にリフレッシュできるし完了までの時間もあっという間に過ぎてしまいそうだ。


走行中も助手席用ディスプレイではWEBブラウザやテレビを除く動画が楽しめる(Bluetoothヘッドフォンのペアリングが必須)。これも、実は新しい体験だ。ドライバーが助手席側ディスプレイに見入ってしまうと危険なので、ドライバーの視線をカメラで認識し、助手席側ディスプレイを見ると自動的に減光して画面を見えなくするという高度なブロック方式も採用している。


とてもハイテクなのだが、実際に試してみると、右ハンドル車で左コーナーに差し掛かるとき画面は必ず消えて、右コーナーでは消えることがなかった。どうも視線に対する判定が厳しすぎるようだ。このあたりの作り込みはもう一歩という感じだった。


○「Sクラス」の未来を想像する



「ワン・ボウ」(弓形)ボディのEQSを見ていると、7年前の2015年にサンフランシスコで試乗したメルセデスの自動運転実験車「F015 ラグジュアリー・イン・モーション」(以下、F015)を思い出した。


F015はアルミニウムシルバーに輝く楕円形のワンモーションスタイルで、EQSの角という角を全て丸めたような形状をしていた。サイズはEQSより少し大きく、全長5,220mm、全幅2,018㎜、全高1,524mm。テスト時のパワートレインはBEV(バッテリーEV)、将来は燃料電池と電気駆動を組み合わせるという設定だったはずで、エンジンルームが必要なく、自由度の高い設計ができたため、巨大な26インチタイヤを四隅に配した3,610mmの超ロングホイールベースを実現していた。この形、ルーツはクルマ登場以前の馬車にあったらしい。



4枚ドアは90度まで開く観音開きスタイル。乗り降りがしやすいフラットで広大な室内には、4人が向かい合うことができる独立したシートを備えていた。自動運転時には、乗員が向かい合って会話を楽しめるという趣向だ。


インテリアは前方のインパネだけでなく、全てのドアのインナー、リアウインドー部分など、乗員の周囲全体がタッチスクリーンになっていた。EQSで我々を驚かせてくれたMBUXハイパースクリーンをはるかに凌駕する、まさに動く360度シアター状態だった(タッチの反応速度や画面の鮮明さは、さすがに現在の技術の方が優れているが……)。F015の画面には車両のさまざまな情報だけでなく、外の様子を表示するグラフィックであったり、クルマの動きに連動したバーチャルな景色であったり、通話している相手の顔であったりが映し出されていた。


車外のフロントとリアには、EQSのブラックパネルに似た大きなLEDパネルを装着していて、内部の各種センサー類やプロジェクターなどにより、歩行者やほかのクルマとコミュニケーションを取ったり情報交換したりするアイデアも組み込まれていた。



考えてみると、このF015は「2030年のラグジュアリーカー」を想定した試作車だった。内燃機関を搭載する現在の「Sクラス」と、F015のような次世代Sクラスをつなぐのが今回のEQSだとすると、十分に納得のいく正常進化が行われているといえるのではないだろうか。



原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)