上司:「今月の売り上げの着地はどうだ?」
部下:「すいません。目標達成が少し難しい現状です…」
上司:「売り上げは、君たちの給料の源だからな!」
「売り上げが上がらないと、給料も出せなくなるぞ!」
「とにかく、売り上げ達成を頑張ってくれ!」
部下:「…ハイ…」
普段、会社でこのような会話はありませんか? 上司が言っていることをもっともだと感じる人もいるかも知れませんが、これではさらに成果が上がらなくなってしまいます。今回はこうした状況を回避する方法を考えていきます。(文:働きがい創造研究所社長 田岡英明)
部下が心を閉じて組織がギスギスに……
MIT教授のダニエル・キムが提唱する「組織の成功循環モデル」では、組織が陥る“バッドサイクル”を次のように説明しています。
(1)結果の質:成果の上がっていない状況に対し、成果の追及ばかりを部下に迫る。
(2)関係の質:成果の追及に対し、部下それぞれが心のシャッターを閉じ、組織内の関係がギスギスしだす。
(3)思考の質:組織のギスギス感情が蔓延し、「言われたことだけやっておこう」といった受身のマインドが広がっていく。
(4)行動の質:自発的な行動が減り、全体の行動量までもが減っていく。
この結果、成果が上がらない状態が続き、上司が成果の追及を執拗にし続ける、というバッドサイクルが出来上がります。そしてこの流れは、マズローの「欲求5段階説」でいう「社会帰属欲求」と「承認欲求」の部分に問題を起こしてしまいます。
「社会帰属欲求」と「承認欲求」を満たすグッドサイクルとは
「社会帰属欲求」とは、繋がりの欲求です。企業の中であったとしても、人は常に、他者とのつながりを深層心理には求めているのです。「承認欲求」とは、組織の中で、自分の能力や存在を認められたい、という思いです。企業の中で言えば、自分に期待されている能力を理解し、能力を発揮した結果に対して、満足のいく評価をされたいといったものになります。成果の出る組織を創るためには、この2つを満たすコミュニケーションが現場には必要となります。
そのため、前述の「成功循環モデル」の“グッドサイクル”では、メンバーの社会帰属欲求と承認欲求を満たしていくことに重きをおいていくことが大切です。そんな「関係の質」の向上から始まる流れは、以下のように説明されています。
(1)関係の質:お互いに尊重し合い、一緒に考える関係性を構築する。
(2)思考の質:メンバー間のコミュニケーションから気付きがあり、仕事が面白くなる。
(3)行動の質:仕事が面白いので、自分で考え自発的に行動するようになる。
(4)結果の質:メンバーの自発的な行動により、成果が上がる。
このようなグッドサイクルが回る環境にしていくためには、どういう組織を理想とするのか、という“組織ビジョン”を作り、組織内で常に語られている状態を作っていかなければなりません。そして、関係の質が向上するコミュニケーション設計のPDCAを回し続けていくことが求められるのです。成果に焦り、結果の質にこだわった言動ばかりになっていないかチェックして参りましょう!