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「ひきこもり」渦中の人を無断撮影するメディアも…市民グループが「報道ガイドライン」発表

2022年12月08日 15:21  弁護士ドットコム

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「ひきこもり」に対する差別や偏見を助長する報道がおこなわれているとして、当事者や弁護士、精神科医などの専門家でつくるグループが12月8日、東京都内で記者会見を開き、「ひきこもり報道ガイドライン」を発表した。


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「ひきこもりの自立支援」を謳い、無理やり当事者を連れ出す「引き出し屋」を事件報道などで「専門家」として扱ったり、ひきこもり渦中にある当事者に事前に連絡することなく、いきなりカメラを向けたりする報道のあり方を問題視している。



また、「本人の甘え、親の甘やかし」などのネガティブな表現が用いられることで、当事者やその家族に対する差別や偏見につながる現状があるとした。



●報道のあり方について考えるきっかけに

「ひきこもり報道にガイドラインを求めるネットワーク」は2019年12月ごろから呼びかけを開始し、作成・賛同者として、当事者や大学教授、弁護士、精神科医など16人が名を連ねている。



当事者や家族の意見を聞いたうえで作成したガイドラインは、「望ましいこと」として、「社会的に排除され、孤立している本人や家族の苦しみや困りごとに寄り添う姿勢で接してほしい」など16の項目をあげた。



また、「避けるべきこと」として「事件を起こした人にひきこもり歴があったとしても、そこを強調しすぎず、ひきこもりが犯罪に結びつきやすいという先入観を与えないこと」など13の項目をあげている。



項目の中には「取材に際しては取材契約書を作成して同意をもらう。また、取材終了後でも同意撤回が可能であることも書面で保証する」などの要望も含まれている。



ネットワークに名を連ねる木村ナオヒロさん(ひきこもり新聞編集長)は「報道関係者だけではなく、取材を受ける当事者にも届いてほしいという願いをこめた」と説明した。支援者にも、ガイドラインを通じて報道のあり方について考えてもらうことを望んでいる。



今後は、これまで引き出し屋を取り上げた番組などに送付し、コメントをもらうことも検討しているという。



●参考にしたのは「薬物報道ガイドライン」

会見では、今回のガイドライン作成・賛同者のひとりであり、ピアカウンセラーとして、ひきこもりに悩む人たちの支援にあたる藤原秀博さんのコメントも配られた。



藤原さん自身も中学生のころ、いじめや集団暴行を受けて不登校・ひきこもりになった経験がある。「報道のあり方を変えていくより、個人個人が報道に左右されない生き方を歩むべき」と考えているが、過去に違法薬物の所持等で有罪判決を受けたことがある元NHKアナウンサーの塚本堅一さんが報道ガイドラインができたことで救われた話を聞き、作成への協力を決意したという。



今回のガイドラインは、「薬物報道ガイドライン」を参考につくられている。薬物やアルコールなどの依存症問題に取り組む市民団体や当事者、専門家でつくる「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」が2017年1月に公表したものだ。



塚本さんは弁護士ドットコムニュースの取材に対し、次のように語った。



「ガイドラインを作ってくれるほど、現状に異議を唱えてくれる、怒っている人がいることに驚いた。薬物事件を起こした自分の味方がいると思えたのは、とても大きなポイントだった。どうにもならないくらいしんどくなったタイミングで、ガイドライン作成者のひとりに連絡した。それからは前に進めるようになり、人生が救われた」



●「ひきこもり報道ガイドライン」全文

この日に発表された「ひきこもり報道ガイドライン」の全文は以下の通り。



【望ましいこと】

・ひきこもり本人や家族、支援者などが、報道から強い影響を受けることを意識する。

・ひきこもり渦中の本人や家族の同意を得て取材した映像や音声は、あくまでもその個人の考えや実像であり、それが同じ境遇の当事者の尊厳を傷つけ、心理的に追い詰める可能性があることに十分な配慮をする。

・ひきこもりは個人の要因のみならず、家庭環境、学校生活、職場での人間関係といった複数の社会的な要因が複雑に絡み合って起こる「現象」であるという視点を踏まえる必要がある。

・ひきこもりを「異常な現象」として捉えるのではなく、「誰にでもいつからでも起こりうる状態像」として捉える姿勢が大事である。

・社会的に排除され、孤立している本人や家族の苦しみや困りごとに寄り添う姿勢で接してほしい。

・支援としては、医療機関のみではなく、ひきこもり地域支援センターをはじめ、さまざまな公的相談機関、居場所、自助グループ、家族会などがあることを知らせ、時間はかかっても、それぞれの本人のニーズに合わせることによって「リカバリー」は可能であると伝える。

・リカバリーはすなわち就労ではない。当事者が主体性を回復していく過程のことである。リカバリーにおける居場所や対話の重要性を強調し、そのためのルートは複数あることを強調する。

・ひきこもり渦中の本人だけでなく、リカバリー途上にいるひきこもり経験者の声を同じピア仲間の声として伝えることによって、世間の批判に怯えて姿を隠し、声を上げたがらない本人や家族に、希望のメッセージを届けてほしい。

・本人を支える家族に働き掛ける「家族支援」によって、家庭内の緊張関係を解きほぐす必要性があることを強調する。

・ひきこもりに関わろうとする人は、ひきこもる本人と家族に批判や強要をすることなく関わり、十分な信頼関係を作る。

・本人や家族に取材要請をする場合は、まず時間をかけて本人や家族との信頼関係を作り、本人や家族の人権、尊厳、プライバシーに充分に配慮した丁寧な取材をする。

・取材に際しては取材契約書を作成して同意をもらう。また、取材終了後でも同意撤回が可能であることも書面で保証する。

・テレビ出演などを依頼する場合、演出目的で演技やセリフを強要しない。

・番組でのひきこもりの解説者は、ひきこもり支援の現場で日々、多くの本人たちや家族に接している立場や所属の異なる二人以上の専門家、もしくは「ひきこもり」という世界を俯瞰的に見ることができて本人や家族の心情を代弁することができる当事者に依頼する。

・過去にTV番組が取り上げることで契約を増やしてきた、いわゆる「引き出し屋(暴力的“支援”団体)」が被害者から裁判で訴えられ、今も数多く係争が続いている事実を重く受け止めてほしい。

・過去に出演した放送を「引き出し屋」業者がYouTubeなどで宣伝等に利用している実態に留意する。


【避けるべきこと】

・事前の承諾なく、ひきこもり渦中の本人にカメラを向けること。

・「背を丸めて部屋の隅でうずくまっている」「散らかった部屋で肥満した男性がネットゲームにはまっている」「本人の甘え、親の甘やかし」「いい年をしたすねかじり」「子ども部屋おじさん(おばさん)」といったネガティブなイメージを持つ言葉や表現を使って、ひきこもり像をステレオタイプ化すること。

・ひきこもり状態が自己責任による問題行為、あるいは精神障がいである、といった偏見を与えること。

・事件を起こした人にひきこもり歴があったとしても、そこを強調しすぎず、ひきこもりが犯罪に結びつきやすいという先入観を与えないこと。

・ひきこもり当事者は加害者、家族はその被害者という単純な図式化をすること。

・いわゆる自立支援ビジネス(ひきこもり当事者の家族の要請を受けて、暴力的な介入をおこなう民間団体)の活動を肯定的に報道すること。

・自立支援ビジネスのスタッフを「ひきこもりの専門家」として扱うこと。

・当事者の写真や映像を宣伝に利用している支援業者に、映像提供などの取材協力をお願いすること。

・就労や経済的自立のみが解決策であるかのような報道をすること。

・本人抜きで家族の訴えのみを放送し、「年老いた両親を苦しめる困った子ども」といった誤った印象を強化すること。

・ひきこもり歴のある著名人を、「犯罪から更生した人」のように扱うこと。また、ひきこもり経験者であっても、現在の当事者を「甘えるな」などと批判する権利はないことに注意する。

・家族の献身や恩師の一言で回復したかのような、美談に仕立て上げた報道。リカバリーの道のりは、単純に美談化できる話ではない。

・「誰にでもいつからでも起こりうる状態像」ゆえに、ひきこもる要因や状況は1人1人違うにもかかわらず、特異な1人のケースをもって一般的なひきこもり像として取り扱うこと。